artscapeレビュー
森淳一展「trinitite」
2012年01月15日号
会期:2011/11/24~2011/12/24
ミヅマアートギャラリー[東京都]
彫刻とは本質的に「固まり」の表現であるが、内部が充填している(つまり無垢)とは限らない。石彫は無垢であることが多いが、ブロンズのような鋳造彫刻はたいてい空洞だ(木彫は無垢も空洞もある)。ところが森の彫刻は石彫にしろ木彫にしろ、まるでブロンズ彫刻のように空洞になっている。あたかも彫刻の摂理に挑戦するかのように、あるいは既成の彫刻から脱皮したかのように、外皮だけ残しているのだ。その反彫刻的身振りがおもしろいと思っていたが、今回はさらにそこに重い課題を乗せてきた。ギャラリー中央に鎮座するドクロの面のグロテスクな木彫は、その名も《トリニティ(三位一体)》。その名は不遜にも、1945年、ニューメキシコ州で行なわれた世界初の核実験のコードネームとして用いられ、そのトリニティ計画で使われたのと同じプルトニウム爆弾が、森の出身地である長崎に落とされたのだ。森が生まれる20年も前のことだが。その隣の部屋には既視感のあるマリア像《シャドウ》が飾られている。黒光りするセラミック製のマリアは両目がくり抜かれ、その黒く虚ろな目に見覚えがあると思ったら、長崎の浦上天主堂に残る「被爆マリア」と同じだった。展覧会名の「トリニタイト」とは、トリニティ計画の核実験によって砂が溶融してできたガラス質の物質のことを指すらしい。この《シャドウ》は「被爆マリア」の影であると同時に、高温によって表面が溶融したトリニタイトでもあるだろう。2011年の末尾を飾るにふさわしい作品に出会えた。
2011/12/20(火)(村田真)