artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
池袋モンパルナス展

会期:2011/11/19~2012/01/09
板橋区立美術館[東京都]
近年、同美術館が熱心に研究している「池袋モンパルナス」の集大成ともいえる展覧会。「池袋モンパルナス」とは、1930年代の池袋近辺に建造されたアトリエ付の住宅に集まった美術家たちのコミュニティ。詩人の小熊秀雄が書き残した同名の詩に由来している。本展では、「池袋モンパルナス」に集った寺田政明、麻生三郎、靉光、松本竣介、古沢岩美、長谷川利行などの絵画作品を中心に、当時の地図、画家たちによる日記、関連する映像などもあわせて展示された。アトリエの間取りを会場の床面に描き出し、その空間を来場者に体感させるなど、絵画作品とテキストによって研究成果を発表する従来の学芸員的手法から一歩踏み込み、より多角的に研究対象をとらえようとしているところが高く評価できる。とはいえ、であればこそ、今以上に美術館活動から踏み出す挑戦があってもよかったと思わないでもない。たとえば、アトリエの所在が把握できているのであれば、当時の地図を手に現在の街並みを歩くツアーを参加者とともに行なえば、画家たちの行動範囲をよりいっそう実感することができるだろうし、その街歩きによって新たな事実が発見されるかもしれない。歴史を全体的に解明するには、ある程度偶然性に任せたイベントが有効なのではないだろうか。「池袋モンパルナス」を美術史に位置づけるだけでなく、美術以外の文化や社会、政治との接合面によって定位することを望むのであれば、「美術」から一歩踏み外す勇気が不可欠である。
2012/01/09(月)(福住廉)
3331 アンデパンダン・スカラシップ展 vol.2

会期:2012/01/07~2012/01/29
オープニングへ。五十嵐による個人賞を出した『へルター・スケルター』改変の山田はるかは、男装の写真など、得意の身体/ジェンダー系の新作を、短い準備期間にもかかわらず制作していた(展覧会が繰り上げで早くなった)。いろいろな表現形式をとっている。これに『ヘルター・スケルター』で見せたメディアそのものをハッキングするような強度があれば、言うことなしだ。もうひとつの個人賞の候補だった水戸部七絵の絵画は、映画や映像をもとにしたものだが、なかなかの迫力だった。
写真=山田はるか(上)、水戸部七絵(下)
2012/01/07(土)(五十嵐太郎)
京都府美術工芸新鋭展 京都美術・工芸ビエンナーレ2012

会期:2012/01/04~2012/01/19
京都文化博物館[京都府]
京都府美術工芸新鋭展は絵画、彫刻、版画などの美術分野と、漆芸、陶芸、染織、金工、人形などの工芸分野が隔年で開催される選抜展なのだが、今年は「国民文化祭・京都2011」開催記念として両方の展示が行なわれた。本展には全国からの応募作品により選抜される「公募部門」と、審査員が推薦した作家、および芸術系大学、専門学校などが推薦する若手作家の「招待部門」があり、展示スペースもそれぞれの部門ごとに区切られている。美術分野の審査員による推薦では、中山玲佳、樫木知子、英ゆうなど、現在あちこちで活躍を目にする作家たちが紹介されていた。多くの作品のなかで、工芸分野では、ダイナミックで色鮮やかな抜井聡美の型絵染作品《夢をみていたフラミンゴ》、美術では、藤井俊治の油画《名前も知らないパレード》など、瑞々しい感性や力強さが印象に残る作品があった。しかし、美術、工芸分野のどちらも、副賞金が贈られる大賞に、この方々はベテランとされる作家では?と思う活動歴の長い作家が選ばれていたのが気になった。もちろん「新鋭」の評価は年令(若さ)重視というものではないだろうが、それにしても新進作家の育成を図るという本展の趣旨とは噛み合わず迷走している印象も否めない。
2012/01/07(土)(酒井千穂)
藝大先端2012

会期:2012/01/07~2012/01/15
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
全体の印象だが、初期のころの先端の卒展に比べて、つくる技術も見せる技術も格段にレベルアップしているのは明らかなのに、なぜか今年はひとつも心に残る作品がなかったなあ。毎年1点や2点は「優れた」というより「規格外・想定外の」それゆえに「心に残る」作品が見られたのに、それがないということは、ひょっとして「先端芸術」という規格・想定に収まる優等生が増えたということかもしれないし、それはそれで先端芸術表現科の勝利なのかもしれない。あるいは心に残らないのは、毎年確実に広がるぼくと卒業生との世代間ギャップによるものだとしたら寂しい限りだが、まあ単にぼくが正月ボケだったからだと考えるとちょっと安心したりして。
2012/01/07(土)(村田真)
窓の表面 スロー&テンス アトモスフィア2011

会期:2011/12/15~2012/01/29
雅景錐[京都府]
写真家でクリエイティブ・ディレクターのアマノ雅景が、オルタナティブスペース「雅景錐」を開設。今年3月の正式オープンを前にプレ企画展を開催した。その内容は、アマノ、有元伸也、ニック・ハネス、平久弥、ヴァンサン・フルニエの5組による写真&絵画展で、世界の諸相を、作品という窓を通して覗き込むというものだ。ニューヨークの同時多発テロ現場近くで、行方不明者を探す張り紙を見つめる人々、旧共産主義国家の廃れた施設、現実離れした宇宙開発基地などを捉えた写真などが並んでいる。本展はアマノが2009年から10年計画で取り組んでいるプロジェクトの第2弾であり、2月には規模を拡大して大阪のフランダースセンターにも巡回される。京都ではここ数年、さまざまなタイプのオルタナティブスペースが産声を上げており、新たなアートシーン形成の可能性を秘めている。雅景錐もそのひとつとして要注目だ。
2012/01/07(土)(小吹隆文)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)