artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

風景の逆照射

会期:2012/01/06~2012/01/21

京都精華大学ギャラリーフロール[京都府]

風景(自然、環境、世界などの総称)と人間の相関関係を問い直し、現在のわれわれに根付いた西洋近代的な思考そのものを見直そうという、壮大なテーマに基づいた企画展。テーマがあまりにも巨大なのと、「風景」という言葉の扱いに戸惑ったのだが、美術家、建築家、俳人、科学者、哲学者が参加し、全員が作品という形態で発表を行なったのは興味深かった。また、本展の図録では個々の文章だけではなく、クロスジャンルの往復書簡も掲載されており、企画意図を知るうえで非常に役立った。出品者は、柏原えつとむ、木下長宏、杉浦圭祐、坪見博之、森川穣、林ケイタ、濱田陽、安喜万佐子、山中信夫、RADの10組。

2012/01/07(土)(小吹隆文)

渋谷ユートピア1900-1945

会期:2011/12/06~2012/01/29

渋谷区立松濤美術館[東京都]

菱田春草、岡田三郎助、岸田劉生、村山槐多、竹久夢二など、かつて渋谷区(1932年に誕生、それ以前に豊多摩群の一部)には多くの芸術家が住んでいたらしい。地図で見ると代々木と広尾あたりに多いようだが、全体に点在している。別に芸術家たちがこの地にユートピアをつくろうと移り住んだわけではなく、ましてや渋谷区が芸術家を優遇していたはずもなく、当時たまたま家賃が安かったのでこのあたりに住んだというだけの話だろう。それでも渋谷区としては「文化の街」としてのイメージアップにつながるからシメタもの。ならばいま芸術家を支援しておけば、50年後くらいにもっと豪勢な「渋谷ユートピア2000-2050」とか開けるかもよ。

2012/01/06(金)(村田真)

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フェルメールからのラブレター展

会期:2011/12/23~2012/03/14

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

フェルメールが3点も来た。たった3点というなかれ、数の少ないフェルメールだからとても貴重だ。しかも今回は借りられるものを借りてきたというのではなく、手紙をモチーフにした絵に絞っている。とりわけうれしいのは《手紙を読む青衣の女》が見られること。地図をバックに女性が横向きに手紙を読み、かたわらに椅子やテーブルが置いてあるだけ、色彩もブルー系とオーカー系でまとめたきわめてシンプルな小品だが、おそらく画家の筆がもっとも冴えた最盛期の傑作のひとつといえる。注目すべきは、女性の頭部と背景の地図に同系色を用いながら、質感の違いや陰影・明暗を微妙に描き分けていること。これは、色彩も輪郭もくっきり描いた晩年の作とおぼしき《手紙を書く女と召使い》と比べると、違いは明らか。まさにフェルメールならではの絶妙な表現だ。フェルメール以外にもヤン・ステーンとかテル・ボルフとかヘリット・ダウとか、興味深い画家がたくさん出ているが、目に止まったのはファン・ボホーフェンという画家。珍しい大画面(といっても120号大)に11人の家族を描いたものだが、胴体と顔の向きが不自然なうえに、それぞれエリマキトカゲのように巨大な白襟をつけているので、なんだか生首の見本市みたい。でも美術史的な価値基準によらずにこれをながめてみると、スーパーリアリズムかコラージュ作品のようにも見えてくるのだ。惜しいことに、これを描いた4年後にわずか25歳の若さで亡くなったという。もう少し長生きしていたら名を残したかも。

2012/01/06(金)(村田真)

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草間彌生 永遠の永遠の永遠

会期:2012/01/07~2012/04/08

国立国際美術館[大阪府]

マーカーで描いた線画を同寸でシルクスクリーン版画にした《愛はとこしえ》シリーズ、極彩色の《わが永遠の魂》シリーズ、最新作の自画像など、近作約100点を出品。人間の眼や顔、ドット、植物を思わせるギザギザ模様などがせめぎ合い、混沌とした生命力や呪術性を放つのが、現在の草間ワールドであるようだ。それにしても前述の絵画シリーズはどれも一辺1メートルの大作ばかり。オーバー80歳とは思えぬ制作意欲には驚くばかり。

2012/01/06(金)(小吹隆文)

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ホンマタカシ「その森の子供 mushrooms from the forest 2011」

会期:2011/12/17~2012/02/19

blind gallery[東京都]

ホンマタカシは大森克己と日本大学芸術学部写真学科の同級生だったはずだが、その写真家としての方向性はかなり違っていた。だが、「3・11」後の行動パターンがどこか重なり合ってきているのが興味深い。大森が福島県に桜を撮りに行ったのに対して、ホンマはきのこに目を向けた。実は福島第一原子力発電所の事故後に飛散した放射能の影響を最も大きく被った生きもののひとつは、きのこなのだ。政府は2011年9月15日に、福島県内で採集したきのこを出荷するのを禁じる通達を出す。森の隅々に菌糸を伸ばしているきのこは、その細胞組織に放射能を蓄積しやすいのだ。
ホンマはその後、福島の森に入り、きのこたちと彼らを取り巻く森の環境を撮影し続けた。本展にはそのうち22作品(隣接するブックショップPOSTにも2作品)が展示されていた。もっとも、ホンマはすでに震災前からきのこを撮影し始めており、その一部は昨年5月のLim Artでの個展「between the books[Mushroom…]」でも展示されている。今回の個展は手法的にも内容においてもその延長線上にあるものだが、たしかに震災によって写真の見え方が大きく変わってしまったことは間違いないだろう。
とはいえ、ホンマのきのこ写真を震災と関連づけて見るだけでは、その面白さを取り落としてしまうことになる。きのこはその形や色の多種多様さだけでなく、脆さ、儚さ、変幻自在さを含めて、いかにもホンマ好みの被写体なのではないだろうか。本展が「その森の子供」と名づけられていることに注目すべきだろう。彼には『東京の子供』(リトルモア、2001年)という写真集がある。バブル崩壊以後の都市の日常を生きる子供たちの、壊れやすい存在の形を繊細な手つきで写しとった写真集だが、これらのきのこ写真にも、どこか共通したたたずまいを感じるのだ。きのこについた土や落葉、ナメクジなどを含めて、白バックで、さりげなく、だが注意深く撮影することで、彼らの「森の子供」としての魅力がいきいきと伝わってくる。少なくとも僕の知る限り、きのこをこのように捉えた写真のシリーズはこれまでなかった。
なお、本展に合わせて同名の写真集(発行=blind gallery、発売=Lim Art)も刊行されている。田中義久のデザインによる、すっきりとした、端正な造本がなかなかいい。

写真=ホンマタカシ《その森の子供 #8》(2011)
タイプCプリント、267mm×337mm

2012/01/05(木)(飯沢耕太郎)