artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Calendar for 2012

会期:2011/12/06~2011/12/18

新・福寿荘[京都府]

隔年で開催される展覧会。ドローイング、版画、写真をはじめ、立体や音、映像表現などまで、西岡勉デザインのカレンダーシートを使った、約100名の参加アーティストたちによる太子サイズの作品が今回もギャラリーの壁面いっぱいに展示された。その賑やかな光景は見ているだけも楽しいし、いろんな作家の作品が一度に見られるのも嬉しい。若い人からベテラン作家の作品まで、どれも手頃な価格なのもこのカレンダー展の特徴。お気に入りの一枚を手に入れてホクホクして帰宅するなんて素敵な年末だ。

2011/12/04(日)(酒井千穂)

梅田哲也展──小さなものが大きくみえる

会期:2011/11/12~2011/12/04

新・福寿荘[大阪府]

神戸アートビレッジセンターを出て、もうひとつの梅田哲也展の会場、大阪市西成区にある築60年の木造アパート、新・福寿荘へ。私は初めて訪れたのだが、想像以上に廃墟のイメージと雰囲気のあるその佇まいにちょっと吃驚した。一階と二階、屋根裏まで、この建物を丸ごと使ったインスタレーションには、吹き抜けの二階から一階の床まで続く大掛かりなものもあったが、紐で吊るされた電灯や小さな物が動きだす装置なども各部屋や廊下のあちこちに仕掛けられていた。水滴が落ちたり、紐を引っ張る音など、どこにいてもいろんな音や鑑賞者の楽しげな声が聞こえてくる会場は、神戸とは異なる雰囲気がありそれも面白かったのだが、ここでは歴史を感じるボロボロの建物のインパクトがなにしろ強烈で、考えてみると作品への驚きや感動よりもそちらの印象のほうが記憶に残った感もある。

2011/12/04(日)(酒井千穂)

梅田哲也展──大きなことを小さくみせる

会期:2011/11/12~2011/12/04

神戸アートビレッジセンター[大阪府]

大阪での個展「小さなものが大きくみえる」と同時開催の神戸アートビレッジセンターでの梅田哲也の個展。1階ギャラリー、地階のシアター、スタジオなどに作品が設置されていた。各々の空間の目的や機能などの特性にあわせて作り込まれた仕掛けのなかでも、特に大掛かりだったのがシアターのインスタレーション。目が慣れるまでは足元も見えないほど真っ暗な空間なのだが、徐々にそこで起こっているさまざまな現象が見えてくる。いろんな方向から音が聞こえてきたり光が明滅する空間で、装置自体の動作は緩やかなのだが、断片的にポッとイメージが浮かぶような、間合いのある動きやそこで起こる現象に目が離せなくなる。見るということ自体についてさまざまな点から意識させられるのもさることながら、モノが動いたり音が鳴るという即物的、物理的な次元と、見る体験や感覚との「間」に、なにか別の時空があるように感じられるのが面白かった。

2011/12/04(日)(酒井千穂)

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黄金町の風景展

会期:2011/11/13~2011/12/04

高架下新スタジオ SiteA Gallery[神奈川県]

黄金町界隈でたまに顔を合わせる気のいいおっさんが、隣の初音町で豆菓子店を営む谷口商店の谷口安利さんの名前と一致したのは最近のこと。その谷口さんが、これも黄金町のギャラリーなどでたまに見かけ気になっていた風景画の作者であると判明したのは、つい2、3週間前、この個展の案内状を見てからだ。失礼ながらその風体からはとても絵を描く人とは思えなかったので、意外性に驚いた。絵は、さまざまな場所と視点から黄金町の風景を切り取った8号前後の小さなキャンヴァス画が30点ほど。けっして名人芸とはいえないけれど、ごちゃごちゃした雑踏を大づかみに処理する筆さばきは達者なもので、パリの下町を描いたユトリロの陳腐な風景画よりずっといいかも。なにより、生まれ育ち勝手知ったる街だけに、描く喜びと記録を残したいというモチベーションの高さが見る者に伝わってきて快い。

2011/12/04(日)(村田真)

ビリー・アキレオス

会期:2011/11/23~2011/12/14

ルイ・ヴィトン表参道店[東京都]

イギリス人のアーティスト、ビリー・アキレオスが、ルイ・ヴィトンのバッグやベルトでつくった小動物のオブジェを、ルイ・ヴィトンの店内で見せた。2010年、アーティストの岡本光博による《バッタもん》に一方的にクレームをつけて展覧会から撤去させながら、外国人アーティストにほぼ同じような作品を制作させたところに、ラグジュアリーブランドならではの図太い神経が見え隠れするが、それはともかく問題の焦点は作品が優れているかどうかの一点に尽きる。展示されたのは、熊やカメレオン、アルマジロなど。そのなかで、まさしくバッタをモチーフにした作品が、エントランス脇のもっとも目立つ場所に展示されていた。岡本の《バッタもん》と比較してみると、甲乙つけがたいというより、その質的な差が歴然としていることは誰の眼にも明らかだ。《バッタもん》が最低限のパーツによってひじょうに合理的に造形化されていたのにたいし、アキレオスのバッタは無駄なパーツが多すぎるため、フォルムの美しさに欠けるばかりか、機械的というか、文字どおり不細工な造形である。クリエイションの根底において、前者の重心がバッタにある反面、後者はバッグを重視していると言ってもいい。余計なお世話だろうが、もう少し審美眼を磨いたらどうだろうか、と言っておきたい。

2011/12/03(土)(福住廉)