artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Sheltering Sky ヤマガミユキヒロ展

会期:2011/11/29~2011/12/11

ギャラリー・パルク[京都府]

ヤマガミユキヒロの作品は、一種の“動く絵”(時間軸を持つ平面表現)である。それらは、街の情景を描いた絵画の上に同じ構図で1日の映像を投影することで成立している。これまでの作品では絵画は大雑把に描かれており、ディテールは映像が担っていた。しかし新作ではその比率が逆転している。精緻な鉛筆画で風景を描き、映像は極力淡く投影されているのだ。その結果、街を行き交う人々や自動車などは陽炎のようになり、現実と非現実の境界のような世界を現出させることに成功している。新旧両方の作品を知っている身としては、新作の方が明らかに説得力があると感じた。

2011/11/29(火)(小吹隆文)

寺村利規「THE FICTION INSIDE YOU」

会期:2011/11/26~2011/12/29

MORI YU GALLERY KYOTO[京都府]

さまざまなメディアから拝借したイメージを合成して、まるで映画の一場面のような情景を描き出す寺村利規。本展には映画の絵コンテのように描かれたドローイングも出品されており、彼の作品が実際に映画的な感覚でつくられていることが判明した。そういえば特徴的な横長の画面も、映画の画面の縦横比とそっくりである。昨今の映画では、あまりにも技術が発達した結果、実写と特撮の区別がつかなくなっているが、彼の作品でもリアルとフィクションの境界は極めて曖昧である。その点でも、寺村の作品は今日のビジュアル表現そのものと言えよう。

2011/11/29(火)(小吹隆文)

服部正志 展 ヒト ◯ ことば ◯ ヒト

会期:2011/11/29~2011/12/11

ギャラリー・アーティスロング[京都府]

大きな鞄の表面には、人間の口元の写真の缶バッジが無数に貼られてる。その鞄からは人型にくり抜かれた革がひも状に連なって放たれており、隣の部屋いっぱいに増殖していた。そして、人型の表面には西暦の年号と「ありがとう」の文字が。そういえば、缶バッジの口元の写真も「ありがとう」の5文字である。遥かなる歴史と壮大な偶然の果てに、いま自分がここにいるという事実。その奇跡に対する感謝の念を表現したのが本作である。服部が本作を発表するに至ったのは、東日本大震災から受けたショックが大きいそうだ。

2011/11/29(火)(小吹隆文)

清川あさみ「美/女/採/集」

会期:2011/11/03~2012/01/22

水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]

文化服装学院在学中からモデルとして活動しながら、現代美術、絵本、広告、衣裳などさまざまな分野の作品を発表して注目された清川あさみの、はじめての大型個展。水戸芸術館の会場をいっぱいに使って、有名女優、歌手、宝塚歌劇団の男役スターまでを「採集」して動物に見立てた「美女採集」のシリーズをはじめとして、華麗で派手な作品が並んでいた。写真に刺繍やスパンコールで装飾を施していくという手法は目新しいものではないが、細やかな手技と携帯電話やペデキュアの模様を思わせるちょっとキッチュで可愛い感覚がうまくマッチしている。今をときめく「AKB48」をはじめ、これだけのモデルたちをコントロールしていくアイディアの豊富さと企画力も、なかなかのものといえるだろう。
ただ、どうも気になるのは、装飾を施していくベースになる「写真」が、古くさくセンスが悪いものに見えてしまうことだ。清川自身が撮影しているのか、誰かがアシスタントとしてサポートしているのかはわからないが、スタジオ撮りされた写真のテイストが、1970~80年代くらいで止まっている。かといって中国や韓国のウェディング・フォトのような、過剰なエネルギーを感じさせる俗悪なイメージにも成りきれていない。これはもったいないと思う。アーヴィング・ペンと三宅一生とまではいかないにしても、むしろ力のある写真家とコラボレーションして、持ち前の創造性をもっとのびのびと発揮すればいいのではないだろうか。

2011/11/29(火)(飯沢耕太郎)

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アーツ前橋開館記念展 カゼイロハナ 未来への対話

会期:2013/10/26~2014/01/26

アーツ前橋[群馬県]

開館記念展「カゼイロノハナ」は、地元の作家とその歴史を紹介しつつ、現代の工芸や書道も組み込み、前橋とゆかりのある文学者、音楽家、科学者らの仕事をアートに接続しながら、地域の豊かな資源を掘り起こす。綿密なリサーチをもとにした横断的なキュレーションである。カタログの前橋美術史年表も力作だ。
地域アートプロジェクトは、銭湯での伊藤存と幸田千依、ビルの一階を使う西尾美也、角地のアースケイプなど、まちなかの空きスペースを活用し、アーツ前橋の活動と連携している。またアーツ桑町や、八木隆行によるya-ginsのギャラリーなど、自主的に発生したアートスペースも出現していた。アーツ前橋の向いも、百貨店をリノベーションした前橋元気プラザ、アーケードに面しては、石田敏明さんによる学生向け居住施設が着工するなど、中心部でいろいろな動きがある。20年前に開館した前橋文学館では、萩原朔太郎推しで常設展を構成しているが、今度は、アートが前橋に新しい風を起そうとしている。
写真:上=西尾美也、下=ya-gins

2011/11/28(木)(五十嵐太郎)

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