artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

加納俊輔・高橋耕平 展『パズルと反芻』

会期:2011/11/30~2011/12/23

Social Kitchen、LABORATORY、Division[京都府]

写真を多用し、既成概念をずらす作風が特徴の加納俊輔と、主に映像を用いて、反復のなかに起こるずれや違和感を表現する高橋耕平。作風に共通項を持つ2人が京都市内の3つのオルタナティブスペースで個展を開催。同時に、ゲストを招いてレクチャーも3度行なわれた。展示は、Social KitchenとLABORATORYではそれぞれの近作と新作を展示し、Divisionではお互いに素材を交換して制作するコラボレーションであった。近年、京都ではコマーシャルギャラリーの存在感が増しているが、そこではフォローできないタイプの表現や企画があるのもまた事実。その受け皿として、貸し画廊だけでなくオルタナティブスペースが台頭しつつあるのだとすれば、アートファンにとって朗報である。

2011/12/03(土)(小吹隆文)

I SEE THE MOON 山本恵

会期:2011/11/28~2011/12/17

Gallery AMI & KANOKO[大阪府]

白を基調としたボックス状のオブジェが特徴だった山本の作品。しかし、近年は作品のバリエーションが増えつつある。本展でも、蓄音器のパーツを流用したオブジェが多数展示されていた。なかにはほとんど加工されていない作品もあるのだが、これが想像以上にいい味を出しており、彼女の世界に更なる広がりと奥行きを与えていた。

2011/11/30(水)(小吹隆文)

住吉明子 個展 サムシング・ライク・イット─It is clear─

会期:2011/11/25~2011/12/23

TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]

想像上の生物たちを、石粉粘土などで造形したりドローイングで表現している住吉明子。その作風はさらに進化し、本展では、植物、コケ、造花などを素材とする動物たちの巣まで制作されており、展示もオブジェ単体というよりはインスタレーションの趣が強くなっている。彼女がこのままファンタジーの世界に突入していくのかは定かでないが、世界観を徹底することで現状を乗り越えていくのも、ひとつの方法論であろう。

2011/11/30(水)(小吹隆文)

第43回日展

会期:2011/10/28~2011/12/04

国立新美術館[東京都]

霜月の末日を飾るは晩秋恒例「日展」探検。といっても数が多いので日本画と洋画だけよ。それでも合わせて1,091点ある。日本画を漫然と見ていると1点に目が止まった。岩田壮平《白─03・11》。タイトルからも察せられるとおり東日本大震災をモチーフにしたもので、どういう技法か知らないけれど被災地の写真を画面に転写している。画像はモノクロームでしかもネガなので一見なんだろうと思ってしまうが、まぎれもない被災地の風景だ。そう、今年は大変な年だったんだ、と、この作品であらためて気づかされた。そう思ってもういちど見直してみたが、やはりというか残念ながらというか、日本画で直接震災に触れた作品はこれしかなかった。洋画はもう少しあった。ガレキの山を黒いペンで描いた西川誠一《溜まり》と、被災地の風景をバックにカボチャなどの静物を手前に描いた伊勢崎勝人《それでも大地は甦る》。また、渡辺雄彦《取り残された海》は震災とは関係なさそうな室内静物画だが、そこに描かれた舵輪やランプなどは津波に飲み込まれた作者の故郷に残された遺品だという。別に震災や原発事故をテーマにしなければならない義務はないが、しかしまるでそんな出来事などなかったかのようにエキゾチックな異国の情景を描いたり、ロココな衣装を着けた時代錯誤の女性像を描いたり、ましてや東北では壊滅状態に陥った漁村や漁港をのどかに描いた風景画(なぜか日展には多い)を見ていると、怒りを通り越して絶望的な無力感に襲われる。そう、日展とは時代や社会から目をそらせる美の王国であり、そこだけ時間の止まった竜宮城なのだ。

2011/11/30(水)(村田真)

山本顕史「ユ キ オ ト」

会期:2011/11/30~2011/12/11

リコーフォトギャラリー RING CUBE[東京都]

2011年7月に、北海道東川町の東川町国際写真フェスティバルの行事の一環として開催された第1回リコーポートフォリオオーディション(審査/飯沢耕太郎、鷹野隆大)で、グランプリに選出された山本顕史の個展である。最近ポートフォリオレビューにレビュアーとして参加する機会が多いが、このオーディションはそのなかでもかなりレベルが高いものだった。59名という応募者数はとりたてて多くないのだが、力作が多く、第一次審査の段階から絞り込むのに苦労した。そのなかでグランプリに選ばれた作品なので、それだけ期待も大きかったのだ。
山本は札幌在住の写真家だが、ロンドンの写真学校で学んだという経歴もあり、シリーズとしてのまとめ方がとてもうまい。「都市と雪」をテーマにしたこの「ユキオト」のシリーズでも、写真を選択し、組み合わせていくセンスが抜群で、ポートフォリオとしての完成度も高かった。それをRING CUBEの丸い回廊上の会場にどのように落とし込むのかと思っていたのだが、写真の数を少し増やし、天井から布プリントを吊るし、本物と見紛うような樹脂製の雪とスコップをインスタレーションするなど、巧みな会場構成だった。写真家としての潜在能力の高さを充分に感じとることができた展示だったと思う。
次は「雪の断面図」のような新鮮なアイディアをさらに発展させていくとともに、冬の北海道以外の新たなテーマも探していかなければならないだろう。上々の滑り出しを見せた新人写真家の正念場は、むしろ2回目の作品発表になることが多い。山本にもそこをなんとかクリアーしていってほしいものだ。

2011/11/30(水)(飯沢耕太郎)