artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:高島屋創業180周年記念 森村泰昌 新作展「絵写真+The KIMONO」

会期:2011/12/28~2012/01/10

大阪高島屋 6FギャラリーNEXT[大阪府]

昭和4年に日本画家の北野冨恒が描いた《婦人図》は、高島屋のポスターに登用され当時大変な評判を集めた。森村は、それらの作品をテーマにポートレイト作品6点を制作。彼がデザインした構成主義風の着物と共に展示するのが本展である。既に今年夏に東京で開催されているが、関西では初お目見えなので期待が高まる。森村の作品を百貨店で見るのは初めてなので、その点も興味深い。

2011/11/20(日)(小吹隆文)

尹熙倉:龍野アートプロジェクト2011「刻の記憶 Arts and Memories」

会期:2011/011/18~2011/11/26

聚遠亭(藩主の上屋敷)[兵庫県]

古い醤油蔵と龍野城、聚遠亭(藩主の上屋敷)の三カ所で現代美術のインスタレーションが行なわれた「龍野アートプロジェクト2011『刻の記憶』」。場所が持っていた古い記憶を呼び覚ますように、生ける現代としてのアートが静かな煌めきを放つ展示は、連日数百人を超えた観客の心を魅了した。本レビューではデザインの視点から、聚遠亭の茶室における尹熙倉(ユン・ヒチャン)のインスタレーションを採り上げたい。
 尹は、陶や土を焼いて出来る「陶粉」を顔料のように用いて、絵画や立体を手がける。彼はまた、「四角」のかたちにこだわり、今回も数寄屋風の茶室のそこかしこに大小の白い、四角いオブジェが置かれた。陶で出来た原初的な幾何学形のオブジェは無機的なものに違いないのだが、これらの四角いオブジェはまるで生き物としてそこに「居る」かにみえる。遥か昔からこの茶室に住み着き、そこに静かに座し続けているかのようだ。
 この感覚は、ひとつには、陶という素材がもたらすものではあろう。陶芸家が茶碗を一個の生ける者のように愛でることはそれを明示する。だが、尹のオブジェが茶室にあって発する有機性の所以はおそらくそれだけではないだろう。茶室の「数寄」の造作もまた、このオブジェたちを息づかせる要因である気がする。
 尹が「四角」にこだわるのは、それが自然界に存在しないかたち、つまり、人工物だからだという。数寄屋書院造りもまた、「四角」をモジュールとする建築デザインであり、内部の意匠も土壁や朽ちた床板等を意図的に組み合わせたものである。実のところ、聚遠亭の茶室の意匠は、尹のオブジェの存在によって、オブジェがないときよりもいっそう輝きを増したかにみえた。つまり、オブジェの「四角」の人工美は、数寄屋の幾何学の人工美を引き出す触媒として作用しているのである。
 他方、白い、四角いオブジェたちは、数寄屋の空間においては明らかに異質な存在である。この異質さは、茶室に突然入ってきた人があたりに生じさせる異質さを想わせる。すなわち、もし尹のオブジェが息づいてみえるのだとしたら、それは、われわれがこのオブジェに、人間という異質なものの存在を重ね合わせるゆえのことではないか。このように考えると、インテリアというのは、それだけでは完結せず、人間や物のような異質なものの介入や存在があって初めて本領を発揮するのだという原点に気づかされる。尹のインスタレーションは、それを造形的にも象徴的にも示唆する洗練に満ちていた。[橋本啓子]



ユン・ヒチャン(龍野アートプロジェクト2011、聚遠亭での展示風景、2011)

2011/11/20(日)(SYNK)

チャールズ・ホーム『チャールズ・ホームの日本旅行記──日本美術愛好家の見た明治』


出版社:彩流社
出版日:2011年4月
価格:3,150円、256頁


チャールズ・ホームは、一般的な知名度は高いとはいえないけれども、19世紀後期の英国および西欧におけるジャポニスムに寄与し、日本の美術・工芸を広く知らしめた立役者である。彼は、19世紀末に大きな影響力をもった美術雑誌『ステューディオ』の創刊者であっただけでなく、日本美術・工芸品の輸入業を営んだ経歴をもち、ロンドンの日本協会の創設メンバーでもあった。さらに、一時は、ウィリアム・モリスの旧居《レッド・ハウス》に住んでいた人物でもある。本書は、ホームが1889年に、アーサー・L・リバティ(リバティ百貨店の創設者)と妻エマ、画家アルフレッド・イーストと共に、日本を訪れた際の日記である。リバティ夫人の撮影した記録写真に加え、リバティによる解説文も収録されている。本書では、ホームの観察眼が如何なく発揮された闊達な文章のみならず、彼の人的交流の多彩さが魅力となっている。登場するのは、建築家ジョサイア・コンドル、東京美術学校の創設者アーネスト・フェノロサ、商人トーマス・グラヴァー、著述家としても活躍したフランク・ブリンクリー大佐、日本側では佐野常民、大隈重信ら政府高官、美術商の林忠正、等々。明治日本の近代化に影響力をもち、尽力した主要人物たちと交遊している。ホームの諸活動は、同時代に来日した日本研究家たち──例えばクリストファー・ドレッサー、エドワード・モース、ウィリアム・アンダーソン、フェノロサなど──の著述・旅・日本品コレクションの様相と並行して考え合わせれば興味深い。ホーム資料の今後ますますの調査解明が期待される。[竹内有子]

2011/11/19(日)(SYNK)

アジール京都公演

会期:2011/11/18~2011/11/19

永運院[京都府]

永運院という寺院で開催されたダンスと三味線、唄、映像による舞台作品。障子をスクリーンに見立てて映し出される飯名尚人の映画、西松布咏の三味線と唄、寺田みさこのダンスによって、江戸時代に実在した縁切寺のエピソードと現代の男と女の物語が交錯しながら展開するというものだった。庭の木々も紅葉し始めた、風情ある夜の会場自体の趣きが上演作品のイメージに似合っていて、幻想的な雰囲気を演出していたのも良かったが、なによりも感動したのは西松布咏による三味線と唄の音色。私はまったくというほどそれらに関する知識がなく、それは残念なのだが、演奏法や唄の形式の豊かなバリエーション、その高度なテクニックをここではじめて知ることができた気がする。物語の情景、情緒の描写が見事な語りの抑揚、旋律の味わい深さなど、ダンスや映像という表現よりもうんと新鮮に感じられる機会だった。

2011/11/19(土)(酒井千穂)

中村キース・ヘリング美術館

[山梨県]

小淵沢のキース・ヘリング美術館で、アメリカのコレクターを描いた映画『ハーブ&ドロシー』の上映会があり、アフタートークの座談会に呼ばれた。この美術館、医薬関係の実業家、中村和男氏が集めたキース・ヘリングの作品を公開するため八ヶ岳山麓の小淵沢にオープン。設計は北河原温で、垂直・水平線を排した展示室といい、赤、白、黒だけの外観といい凝りに凝っている。美術館建築はシンプル・イズ・ザ・ベストだが、リゾート地では建築そのものも客寄せの目玉になるため、必ずしもシンプルがベストとは限らないようだ。観客はまず長い通路を下って暗い展示室に入り、黒い壁面から浮かび上がるキースの絵と対面。ゆるやかなスロープを上ると、白く塗られた明るい展示室に出る。地下鉄の落書きからアートシーンに浮上し、親しみやすいキャラクターで人々を楽しませながらエイズでなくなったキース・ヘリングの短い人生を、闇と光で表現しているのだという。近隣にはプライベートスパやレストラン、温泉宿、アトリエもあって快適。美術館だけなら1回見れば十分だが、これだけそろっていればまた来てみたくなる。

2011/11/19(土)(村田真)