artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

油絵茶屋再現展

会期:2011/10/15~2011/11/15

浅草寺境内[東京都]

木下直之の名著『美術という見世物』(筑摩書房、1999)に詳述されている「油絵茶屋」を再現した展覧会。同書によれば、「油絵茶屋」とは庶民がお茶を飲みながら油絵を楽しむ見世物で、明治7年(1874)、五姓田芳柳と義松の親子が浅草寺の境内で催したという。「美術館」も「展覧会」もなかった時代に、日本で初めて催された油絵の展覧会である。当時の油絵は現存していないが、アーティストの小沢剛による指導のもと、東京藝術大学の学生たちが残された資料を手がかりに絵を再現し、同じく浅草寺の境内に建てた小屋の中に展示した。発表されたのは12点で、いずれも歌舞伎の役者絵。キャンバスではなく板の上に描かれ、大半は黒い額に収められているが、なかには背景から人物や動物を自立させたインスタレーションもある。おもしろいのは、再現とはいえ、それぞれの描き手の個性があらわになっていること。森本愛子による《職人の酒盛》は日本画のように細い線と薄塗りの絵肌だが、花魁を描いた小山真徳による《金瓶桜今紫》は厚塗りだ。二代目市川團十郎が演じた関羽を描いた菅亮平や盗賊の首領《日本駄右衛門》を描いた高橋涼太など、男性の描き手が緻密な筆致による丁寧な写実性を追及しているのに対し、怨霊による復讐劇を描いた高城ちひろや人気力士の苦悩を描いた福田聖子など、女性の描き手が大胆かつ情動的な表現を試みている違いも興味深い。物珍しさに誘われたのか、浅草寺の参拝客が続々と小屋に流れ込み、非常に多くの人たちが油絵を楽しんでいた。とはいえ、気になった点がないわけではなかった。それは、見世物小屋としての不徹底ぶり。提灯や幟が明らかに不足していたため、見世物小屋にしては地味すぎるし、周囲の賑々しい露店に埋没していた印象は否めない。木下によれば、「油絵茶屋」には絵から口上が奪われていく近代化の歴史が体現されているそうだが、浅草界隈の芸人を呼んで画題について解説させるなどの工夫があってもよかった。そもそも「油絵茶屋」が見世物として成り立っていたのは、油絵が当時のニューメディアだったからであり、勝手知ったる画題が新奇な形式で表現されていたからこそ、庶民は「油絵茶屋」に好奇心とともに群がっていたはずだった。だとすれば、学生たちが熱心に取り組んでいる「油絵」という技法こそ、徹底的に見直す必要があったのではないだろうか。

2011/11/04(金)(福住廉)

TARO LOVE展──岡本太郎と14人の遺伝子

会期:2011/10/25~2011/11/06

西武渋谷店A館7階特設会場[東京都]

ほとんど話題にならなかったけど、こんな展覧会やってたんだね。生誕100年の岡本太郎の遺伝子を受け継ぐアーティストたち、ということで太郎の孫の世代の会田誠、青山悟、淺井裕介、風間サチコ、山口晃らが出品。山口の《山愚痴屋澱エンナーレ》が冴えている。旧作が中心だが、日本画と西洋画の遠近法を逆転させたり、「絵画はこんなに役に立つ」と称してキャンバスを木枠から外してたき火にしたり、河原温の《日付絵画》をカレンダーにしたり、アイディア満開。会田と青山はデビュー前の初期の作品を開陳してるし、風間は移動式立体版画(?)を出している。たとえ旧作で完成度が低くても、ほかではあまり見られない実験的作品が多く、なんかトクした気分。三潴末雄氏と中世古佳伸氏のキュレーションがしっかりしているのだろう。苦情が来たため会期なかばで中止するという暴挙に出た今年初めの「シブカル展」の名誉を回復するためにも、渋谷西武はもっと宣伝すればよかったのに。いや、宣伝してまた苦情が来るのを恐れたか。見逃してしまったが、店内のエントランスや通路など数カ所でも荒神明香や若木くるみらの作品が展示されていたらしい。残念。

2011/11/03(木)(村田真)

エマージング・ディレクターズ・アートフェア「ウルトラ004」

会期:2011/10/28~2011/11/03

スパイラルガーデン[東京都]

不況にも負けず、震災にも原発事故にもめげずに今日もアートフェアが開かれる。先月は東美アートフェアがあったし、このあとプリュス・ジ・アートフェアもひかえている。はたして売れるんだろうかと心配になるが、続いてるってことはそれなりに需要があるんだろう。そんなアートフェアのなかでも、この「ウルトラ」は画廊単位の出展ではなく、画廊の若手ディレクター(40歳以下)が個人で作家を選ぶ珍しい形式。だが悲しいことに、ぼくはほとんどのディレクターを存じ上げないし、ディレクターとほぼ同世代かそれ以下の出展作家も知らない人が多い。世代間のギャップは埋めがたいなあ。おそらく購買者も年配層より彼らに近い若い人たちが多いのだろう。作品も具象イメージの小品や工芸的作品が大半を占め、刺激的大作や破天荒な問題作は皆無に近い。若いのに、というより若いから、なのか。そもそもアートフェアにそんな問題作を期待するほうが間違っているのだが。

2011/11/03(木)(村田真)

木津川アート2011「明日への記憶」

会期:2011/11/03~2011/11/13

京都府木津川市の木津本町エリア、上狛エリア、加茂エリア[京都府]

昨年に続き2年連続で開催された「木津川アート」。今回は会場を一部変更して、木津・本町、上狛、加茂の3カ所を会場に設定。各エリアをJRやシャトルバスで結ぶ形式となった。地域に残る価値のある建築物や空きスペースを有効活用して現代アート展を行なうのが本展の特徴だが、木津・本町の奥鉄工所(伊吹拓と林和音が出品)と、加茂の加茂JA倉庫(長谷川政弘、tagiruka、竹股桂が出品)は出色の出来栄え。ほかにも質の高い展示が数多く見られ、充実した内容となった。また、地域住民との良好な関係も好印象を残した。来年以降の継続は未定だが、この2年間の成果を生かさないのはもったいない。なんらかのかたちでアートプロジェクトが継続することを望む。

2011/11/03(木)(小吹隆文)

今和次郎 採集講義展

会期:2011/10/29~2011/12/11

青森県立美術館[青森県]

青森県立美術館の今和次郎展では、多くの図面やスケッチを用いて、民家調査、バラック装飾社、考現学、そしてあまり知られていない彼の設計活動を紹介していた。ちなみに、内容は、工学院大学のコレクションをもとにほぼ構成されている。

2011/11/02(水)(五十嵐太郎)

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