artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

阿部道子 展

会期:2011/10/07~2011/10/09

吉田町画廊[神奈川県]

4、5年前の学生時代の作品から最新作まで、日本画を大小10点ほど展示。なんの変哲もない身近な風景をていねいに描いていて、とくに最近は肌触りにこだわっているように見える。たとえば100号大の最新作には木と人(作者自身)が描かれているのだが、これが単なる木と人ではなく、地面に映った木と人の影。いいかえれば、そこには木も人も描かれておらず、ただ土と小石と雑草が描かれているだけなのだ。じつは阿部さんはぼくも間借りしている共同スタジオの隣人なので、この絵は描き初めから見ていた。最初は木に寄り添う自画像なんて陳腐な絵だなあと思っていたが、ずいぶん描き進んだとき、それが影だとわかって目からウロコが落ちた。なんか視線をひっくり返された感じ。ほかにも最近は水の波紋や壁の凸凹した感触など、描きにくいテクスチャーばかり描いている。

2011/11/06(日)(村田真)

やなぎみわ演劇プロジェクト第二部「1924 海戦」

会期:2011/11/03~2011/11/06

神奈川芸術劇場大スタジオ[神奈川県]

アートかと思ったらちゃんとした演劇だった。いや、そのうえアートにもなっていたから恐れ入る。いうまでもなく最初の「アート」はワケのわからないパフォーマンスを意味し、後の「アート」は感動を呼ぶ芸術を指す。つまり、とてもおもしろかったのだ。話は、関東大震災後に設立された築地小劇場をめぐるもの。大きな災害を前にして前衛芸術など必要とされるのか? この問いがテーマだとすれば、もちろんそれは3.11後の現代アートにもはね返ってくる。というより、3.11後のアーティストの苦悩が築地小劇場を召還したというべきか。やなぎは原案・演出・舞台美術を担ったというが、彼女の初期作品に登場する赤い制服のエレベーターガールを除けば、劇中やなぎらしい要素がほとんど登場しなかったのは意外。それより、演劇と美術、大正と現代、前衛と大衆の接点が提案され、まことに刺激的な舞台になっていた。

2011/11/06(日)(村田真)

プレビュー:FANATIC MONOCHROME

会期:2011/10/17~2011/11/05

大阪成蹊大学芸術学部ギャラリー spaceB[京都府]

ペン画、水彩画、墨画、写真、版画、書・墨象、グラフィックという七つの表現領域に分けた7名のアーティストの作品を「モノクローム」というテーマで大きく括り、各作家や全体の展示をとおして、美術表現としての「白」と「黒」の可能性、時代性の考察にアプローチする展覧会。今展は、自らも一貫してモノクロームの作品を制作、発表している吉田翔が企画したもの。出品作家はほかに、川上俊、廣川恵乙、野嶋革、宮本佳美、宮村弦、横山隆平という70年代後半~80年代生まれのアーティストばかりだった。会場の展示のなかでは、少女が森の中に迷い込んだシーンを描いた廣川恵乙の巨大なペン画《迷いの森》が特に気になった。人物と背景のイメージがマンガと写実描写をないまぜにしたようにまったく印象の異なるタッチで描かれており、ところどころに色も混じっている。一見、アンバランスという違和感も感じるが、出展者のなかでもっとも若いこの作家がリアルに感受している情報や刺激、そして表現としてそれがさまざまなイメージへと変換されていくプロセスにも想像がめぐり興味深い。全体に作品のバラエティ、クオリティなど、7名という人数ではあるが、企画した吉田のモノクロームという表現への探究心を裏打ちするような指標にブレのない内容。良い展覧会だった。

2011/11/05(土)(酒井千穂)

プレビュー:上村亮太 展「いまいるあたり」

会期:2011/12/17~2011/12/27

gallery shimada deux[兵庫県]

ギャラリーのサイトに掲載されたインフォメーションには、小さな作品が並ぶこじんまりとした展覧会とあるが、DMに使われていた作品《シマウマの森》が見てみたい。目の上に水色のアザのようなものがある女性の肖像《青いまぶた》や、燃えている紙を持って立つ女性が描かれた《叫ぶ声》シリーズなど、毎回どこか“つっかえる”ような印象が想像を掻き立てる上村亮太の新作展。

2011/11/05(土)(酒井千穂)

『カオス*イグザイル』(カオス*ラウンジ)

会期:2011/10/22~2011/11/06

アキバナビスペースほか[東京都]

なぜか演劇祭の「フェスティバル/トーキョー」にカオス*ラウンジが入ってるので、秋葉原の第一会場に行く。いったいなにをやるんだろうと思ったら、そこはゲームセンター。クレーンゲームで玉を獲れば500円の入場料がタダになるというので、息子が2個ゲット、ぼくは1個、息子の母は0個。玉を会員証と交換して、歩いて5分ほどの第2会場へ。なんの変哲もない小さな場末のビルだが、壁に少女マンガチックなドローイングが展示してあるので間違いない。エレベータが使えないので階段で4階へ。途中3階には「あきば女子寮」なる部屋があり、のぞくと女の子がいるので思わず入りたくなるが、そこは会場ではないらしい。4階は左右の壁全面に鏡が張られ、正面、天井、床に少女マンガをモチーフにしたドロドロ状のドローイングが描かれている。5階には透明のテント内にパソコンやディスク、ペットボトルなどが散乱し、隣の部屋には映像が流れている。ビルの風情も手伝っておそろしく暗い内向的インスタレーションだ。帰りに階段で降りるときに気がついた。壁に貼ってあるマンガチックなドローイングはカオス*ラウンジの作品ではなく、あきば女子寮のものであることを。そして、ビルのなかにカオス*ラウンジのインスタレーションがあるのではなく、女子寮もドローイングも含めて、このビル全体がカオス*ラウンジのインスタレーションに採り込まれていたことを。まあおじさんとしては秋葉原という劇場都市の舞台裏をかいま見られただけでもワクワクしたわけで。

2011/11/05(土)(村田真)