artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
おまえはどうなんだ?
会期:2011/10/08~2011/10/29
松の湯二階[東京都]
銭湯を舞台にした展覧会。銭湯の1階は通常営業しているが、現在は使われていない2階を使って、12人のアーティストが作品を展示した。浴室はもちろん、サウナ、休憩所、更衣室など、空間の隅々を使い切る貪欲さが気持ちよい。ひときわ際立っていたのは、窪田美樹。くしゃくしゃに丸めた刺青の写真を浴槽の中に敷き詰め、湯が波立っているように見せた。さまざまな肌色とさまざまな文様が凝集した迫力が凄まじい。銭湯ばかりか社会全般からも「刺青」が排除されつつあるいま、窪田のインスタレーションはサバルタン(被差別民)の声なき声がさざめいているように見えた。思えば、そもそも銭湯とはさまざまな庶民が文字どおり裸一貫になって集う場所だった。かつて私たちは湯を分かち合い、ともに語らい、明日への英気を養うことで、人生をよりよく生き直してきたのである。そこから落語が生まれ、銭湯のペンキ絵が育まれてきたことを考えれば、銭湯とは人間の生と分かち難く結びついた芸術の母胎だったとさえ言える。浅草寺の「油絵茶屋」が絵から口上を奪っていった歴史を思い出させたように、本展は私たちの暮らしが銭湯という共同体を捨て去っていった歴史を連想させた。私たちは「近現代美術」を手に入れた代わりに、暮らしに根づいた芸術を失ってしまったのである。いま現代アートに私たちが望んでいるのは、その回復である。
2011/10/27(木)(福住廉)
鉄道芸術祭 vol.1「西野トラベラーズ 行き先はどこだ?」

会期:2011/10/22~2011/12/25
アートエリアB1、中之島デザインミュージアムde sign de >、Antenna Media他[大阪府、京都府]
京阪電車の駅構内という珍しい立地のアートエリアB1。その特徴を生かすべく、大阪、京都にまたがる同社沿線の3カ所で展覧会を行なうユニークな企画が行なわれている。メインアーティストの西野達は、アートエリアB1内に巨大な沿線絵地図、街灯で家具などを串刺しにしたオブジェ、4室の仮設インターネットカフェなど、インパクトの強い作品を披露した。他の2会場では漫画家の横山裕一が個展を開催している。また、アートエリアB1に隣接する地下駐輪場では、contact Gonzoらのパフォーマンスも。さらに12月初旬には、西野と漫画家のしりあがり寿による船上トークや、ホーメイ歌手の山川冬樹とダンサーの山川キムによる貸し切り電車内パフォーマンスも予定されており、話題が尽きることはない。鉄道会社とアートの先駆的なコラボレーションとして、要注目である。
2011/10/26(水)(小吹隆文)
山脇敏次「Dimension of Vision〈視覚の立脚点〉」

会期:2011/10/26~2011/11/06
IN STYLE PHOTOGRAPHY CENTER[東京都]
山脇敏次は広告関係の仕事をしながら、2008年頃から本格的に写真作品を制作しはじめ、今回の初個展に結びつけた。試作したプリントの数は約2,000点。それを70点余りにまで絞り込んだわけだが、その「思考の転換」のきっかけになったのは、「3・11」の経験だったという。その結果として、さまざまな要素が含み込まれた混沌としたイメージの連なりが、「Episode I〈Abstract〉」(モノクローム作品)、「Episode II〈Translation〉」(カラー作品)を経て、「Episode III〈Calm〉」(「3・11の海の写真」)に至る構造がくっきりとかたちをとってきた。
最後に一点だけ、泡立ち、盛り上がる黒い波の上を飛行機が飛んでいく写真を入れたことについては、むずかしい選択だったといえるだろう。この決定性の強いイメージによって、シャッフルと散乱の原理によって編み上げられていった写真展の構成が、予定調和で収束してしまったともいえるからだ。だが、山脇の写真作家としての将来性を考えると、決してここで終わってしまったわけではなく、むしろこれから先も自らの「視覚の立脚点」を探り当てようとする解体=構築の作業が続いていくことが予想される。これらの写真群もまた、ふたたび組み換えられ、まったく違ったかたちで姿を現わすことも充分にありえるのではないだろうか。
なお、写真展にあわせて写真集版の『Dimension of Vision』(スタジオアラパージュ)も刊行された。写真展の構成を踏襲しているが、こちらには109点の写真がおさめられている。
2011/10/26(水)(飯沢耕太郎)
堀香子 展「指は聴く 光のあわい」

会期:2011/10/25~2011/11/06
ギャラリー恵風[京都府]
有機的な形態と複雑な曲線の陶オブジェを制作している堀香子。以前は紐づくりのみで成形していたが、近年は「たたら」という薄い板状の粘土を組み合わせる制作法との併用に移行。造形のバリエーションが更なる進化を見せている。植物が芽吹く様子を思わせるフォルムが散見されたのも新作の特徴と言えるだろう。
2011/10/25(火)(小吹隆文)
「ガラスの動物園」アーティスト・トーク

会期:2011/10/22
静岡芸術劇場[静岡県]
静岡のSPACにおいてダニエル・ジャンヌトー演出の「ガラスの動物園」初日アフタートークに出演した。建築系にはかなり面白い内容だった。壁としての紗幕/カーテンを重ねつつ、物語の進行に応じて空間構造を反転させたり(物語の入れ子構造と呼応している)、照明との関係で透明度を変えたり、風やローソクでカーテンが揺らぐことで特殊な場を生む。さらに衣装や、俳優と床の関係、すなわち靴や裸足などの操作によって、異なる世界の人間が同じ場にいることを強調している。斬新な空間演出をしながら、テネシー・ウィリアムズの原作にはかなり忠実で、むしろそのことによって、「ガラスの動物園」がなぜ時代を越えて、普遍的な古典になりえているかを改めて教えてもらった。シカゴ万博に触れる台詞などは省いていたが。さらに建築への補助線を引くと、ペトラ・ブレーゼや安東陽子など、最近の新しいカーテン、蚊帳、能と幽玄、そしてジャンヌトーが感銘を受けたという豊島美術館(裸足で歩く空間!)が挙げられるだろう。もちろん、演劇にしかできない空間の効果に踏み込む。また視覚的に遮蔽されているがゆえに、紗幕を突き抜ける音の存在感が際立つ。冒頭も母の声が過去の空間に呼び戻すのが印象的だった。
2011/10/22(土)(五十嵐太郎)


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