artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

光と照明による能舞台の陰翳 WORK♯06 新作能「水の輪」

会期:2011/11/11~2011/12/12

山本能楽堂[大阪府]

大阪で一番古い能楽堂、山本能楽堂で昨年の10月から、LED照明デザイナーの藤本隆行氏とのコラボレーションで「光と照明による能舞台の陰翳」というシリーズの能公演が行なわれている。これは、能楽鑑賞の初心者向けに山本能楽堂で定期的に行なわれている夕方の公演のひとつで、はじめにシテをつとめる山本章弘氏による詳しい演目解説があり、終演後には客席の声に応える質疑応答の時間も設けられたユニークなプログラム。LED照明の演出で能を鑑賞するというこのシリーズでは、これまでに「葵上」「安達原」「葵上」「鉄輪」「鵜飼」「土蜘蛛」が上演されている。この日は「水都大阪2009」での初演以来、ときどき再演されている新作能「水の輪」が演目だったのだが、水鳥をかたどった井上信太の作品も舞台美術として使われていて、ことさら特殊な公演だった。環境問題をテーマにした物語の舞台は川。真っ暗ななかでLEDの光が舞台や舞台脇の水鳥に当たり、周囲をうっすらと青白く照らす様子が幻想的な雰囲気で、水辺の景色のイメージがすんなりと頭に浮かび、物語に入り込みやすい。特に感動したのは地謡、太鼓、笛などの演奏、音の迫力だ。暗闇から響く音や声の臨場感がすごい。客席と舞台との距離がとても近いというこの会場の特徴のせいもあるだろうが、LEDの演出の影響の大きさを感じた。変化に富んだドラマチックな能楽だった。また機会があれば行ってみたい。

2011/10/30(日)(酒井千穂)

戸井田雄《時を紡ぐ(Marks)》(神戸ビエンナーレ 2011・高架下アートプロジェクト)

会期:2011/010/01~2011/11/23

元町高架下(JR神戸駅~元町駅間の指定する場所:13箇所)[兵庫県]

本年の神戸ビエンナーレでは、初の試みとして元町高架通商店街の空き店舗を用いたインスタレーションが行なわれた。13組の作家による展示は、サイトに対する各人各様の解釈を反映していてじつに興味深かったが、とりわけ、多くの人を驚かせたのが、戸井田雄のインスタレーション《時を紡ぐ》だったろう。
 入口にはカーテンが掛かっており、中に入ると、がらんとした空き店舗の空間が広がっている。什器はおろか、電灯以外、物らしい物はまったくない。あるのは、過去の住人たちの手垢と滲みが残る壁、床、天井だけである。途方に暮れて立っていると、突然明かりが消えた。その瞬間、暗闇の中に無数の青紫色の線刻が浮かび上がって、身体を取り巻かれる。あたかも宇宙の果てにいるかのような夢心地の気分に浸っていたら、再び明かりが付いた。殺伐とした空き店舗が再び目の前に広がった。
 展示のからくりが、室内の傷や滲みにすり込まれた蛍光塗料にあることは誰でも容易に想像がつく。また、その主旨が、戸井田が述べるように、「空き店舗に積層していた、その場所の思い出や街の記憶を光として表す作品」であることにも素直に頷ける(『神戸ビエンナーレ2011公式ガイドブック』より)。まさに本作品は、コンセプトと造形が見事に合致し、しかもサイトの性格を完全に活用した優れたものなのだ。
 とはいえ、雑然とした現実世界から突然、異次元の世界へと放たれた瞬間にわれわれが感ずるのは、そうしたコンセプトの存在ではなく、漆黒と青紫の光が生み出す非日常の「美」には違いない。ゆえに、今回の戸井田の作品は、きわめて辛口にいうなら、多くのコンセプチュアル・アートが抱えるコンセプトと造形の乖離という難題をやはり解決しきれなかったとも言えるかもしれない。たとえば、フェリックス・ゴンザレス=トレスのキャンディーを敷き詰めたインスタレーションは、この難題に対するひとつの答えを示している。加えて、ゴンザレス=トレスのインスタレーションはどこでも設置可能でありながら、サイトの性格を反映させる仕掛けも有している。そういう意味では、今後、戸井田が他のサイトやホワイトキューブの展示でどのような展開をみせるのかが楽しみだ。余談ではあるが、蛍光塗料のアイディアをもしデザインに応用するなら、たとえば、夜、就寝する前にリビングの明かりを消した瞬間のみ立ち現れるプロダクト・デザインというのは面白いかもしれないと思った。[橋本啓子]

2011/10/29(土)(SYNK)

リニモ沿線ミュージアムウィーク 記念文化フォーラム

会期:2011/10/29

愛知県陶磁資料館 地下講堂[愛知県]

愛知県陶磁資料館にて、「アートの国際展からまちなか展開へ」の講演を行う。これにあわせて、リニモ沿線ミュージアムウィークの関連施設をまわる。長久手町郷土資料室では伝統芸能、棒の手の映像を楽しみ、トヨタ博物館では乗れる状態で保存するコレクションに圧倒され、名都美術館では冬の絵と美人画を鑑賞し、愛・地球博記念館では万博の痕跡を見出しつつ、アトリエ・ワンの建築も見学した。会場となった谷口吉郎設計の愛知県陶磁資料館は、過去の陶磁を通じて、世界旅行するという見たてのセクションがある一方、アートに近い現代の焼き物を陳列するスペースも設けられていた。「資料館」という名前だと損かもしれないと思うほどに、膨大なコレクションを誇る。奥深いエリアである。

写真は上から、
トヨタ博物館
アトリエワン《地球市民交流センター》

2011/10/29(土)(五十嵐太郎)

表現するファノン──サブカルチャーの表象たち

会期:2011/10/29~2011/11/23

札幌芸術の森美術館[北海道]

ぼくも出させてもらっている展覧会。これは3年後に予定されている札幌ビエンナーレのプレ企画という位置づけで、プレ企画全体が「アートから出て、アートに出よ。」をテーマにしているらしい。つまりアートのど真ん中を行くのではなく、アートの周縁を行ったり来たり出たり入ったりするサブカルチャーを軸にしようということのようだ。なぜそうなのかといえば、初音ミクが札幌出身だからというのがひとつの理由だといわれている。「らしい」とか「ようだ」とか「いわれている」とか曖昧な書き方しかできないのは、すべて受け売りだからです。もうひとつ受け売りすると、タイトルの「ファノン」とはファン+カノン(基準・規範)の造語で、「ファンやユーザーによって生成されるコンテンツやその活動」を指すらしい。知ってた? そんなわけで展覧会も、レトロかつ未来的に改造したカスタムバイクが何台も並んでいたり、台上に立つと周囲のスピーカーから拍手喝采が鳴り響いたり、展示室にメイドカフェを設けたり、サブカル的オタク的コンテンツがいっぱい。で、なんでぼくの作品が出ているのかというと、画集をそのまま描いたぼくの絵が「2次創作」に当たるからだそうだ。なるほどそういう見方もあったのか。まあ出していただけるなら理由はなんでもいいけどね。

2011/10/29(土)(村田真)

ギヨム・ボタジ展「HOPE 2011」

会期:2011/09/16~2011/11/13

札幌宮の森美術館[北海道]

ある人からぜひ行くように勧められていたのだが、地図で探しても美術館が見つからず、住所を頼りにたどり着いてみれば、白亜の建物の前にシルクハットのドアボーイが待ちかまえていた。なんと結婚式場付属美術館だった。その白い外壁には色鮮やかな有機的形態が描かれていて、公開制作中だそうだ。館内には、細胞組織を拡大したような丸っこい形態をモチーフにした抽象画が展示されている。20世紀のモダンアートといった風情で、とくに新しさは感じられないが、洗練された色彩と形態はさすがフランス人なセンスであった。

2011/10/29(土)(村田真)

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