artscapeレビュー
山脇敏次「Dimension of Vision〈視覚の立脚点〉」
2011年11月15日号
会期:2011/10/26~2011/11/06
IN STYLE PHOTOGRAPHY CENTER[東京都]
山脇敏次は広告関係の仕事をしながら、2008年頃から本格的に写真作品を制作しはじめ、今回の初個展に結びつけた。試作したプリントの数は約2,000点。それを70点余りにまで絞り込んだわけだが、その「思考の転換」のきっかけになったのは、「3・11」の経験だったという。その結果として、さまざまな要素が含み込まれた混沌としたイメージの連なりが、「Episode I〈Abstract〉」(モノクローム作品)、「Episode II〈Translation〉」(カラー作品)を経て、「Episode III〈Calm〉」(「3・11の海の写真」)に至る構造がくっきりとかたちをとってきた。
最後に一点だけ、泡立ち、盛り上がる黒い波の上を飛行機が飛んでいく写真を入れたことについては、むずかしい選択だったといえるだろう。この決定性の強いイメージによって、シャッフルと散乱の原理によって編み上げられていった写真展の構成が、予定調和で収束してしまったともいえるからだ。だが、山脇の写真作家としての将来性を考えると、決してここで終わってしまったわけではなく、むしろこれから先も自らの「視覚の立脚点」を探り当てようとする解体=構築の作業が続いていくことが予想される。これらの写真群もまた、ふたたび組み換えられ、まったく違ったかたちで姿を現わすことも充分にありえるのではないだろうか。
なお、写真展にあわせて写真集版の『Dimension of Vision』(スタジオアラパージュ)も刊行された。写真展の構成を踏襲しているが、こちらには109点の写真がおさめられている。
2011/10/26(水)(飯沢耕太郎)