artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
益村千鶴 展 Tenderness

会期:2010/10/26~2010/11/14
neutron kyoto[京都府]
益村といえば、腕、唇、鼻など、人間の身体の一部をモチーフにした、シュールかつ内省的な作風が持ち味だが、新作では一目で本人とわかる人物像を登場させたのが印象深い。今までは人物を特定できないように描いていたのに、一体どんな心境の変化があったのだろう。それにしても相変わらずの冴えまくった描写力。この画力の高さが、作品に確かなリアリティを与えている。
2010/10/26(火)(小吹隆文)
萩原朔実 写真展

会期:2010/10/15~2010/10/26
アートスペース煌翔[東京都]
萩原朔実の発想の秘密を解きあかす興味深い展示だった。展示作品は二部構成で、第一部は大学の研修で滞在したオーストラリアで撮影された「樹」のシリーズ。なぜか吸い寄せられるように撮り始めたということだが、樹肌が赤く露呈したり、山火事で黒焦げになったりした樹木たちは妙に生々しく肉感的だ。その動物的とでもいうべき生命力は、日本のおとなしい樹とはまったく異質なもので、萩原の、何か珍しいものが目の前にあらわれた時にぱっと飛びついていく鋭敏な生理感覚や反射神経がよくあらわれている。
もうひとつは「観覧車」のシリーズである。たまたまブリスベンの美術館に展示を見に行った時に、建造中の巨大観覧車に出会い、これまた反射的にシャッターを切ったのだという。「インスタレーションの作品」を思わせる移動式の観覧車は、オーストラリア各地にあらわれては消えていく。その「夢のような」たたずまいにすっかり魅せられてしまった萩原は、日本に帰国後も各地の観覧車を撮り続けている。おそらく天性のコレクターの資質を備えた彼のことだから、この次には世界中の観覧車を撮影する行脚が始まるのではないだろうか。
美学者の谷川渥がこのシリーズを見て「差異と反覆だね」と評したのだという。言い得て妙というべきだろう。萩原の作品には、いつでもこの微妙に異なったイメージがくり返されるという「差異と反覆」の魔術が組み込まれている。「観覧車」のシリーズは、最初は正面から円形のフォルムを強調して撮影していたのだが、最終的には真横から垂直に屹立するように撮る構図が選択された。それはこの角度から見た観覧車が、目眩を生じさせるような「差異と反覆」の効果を一番強く発揮できるからだろう。
2010/10/26(火)(飯沢耕太郎)
ブルーノ・カンケ「2LDK」

会期:2010/10/12~2010/10/30
ビジュアルアーツギャラリー・東京[東京都]
ブルーノ・カンケは、1964年生まれの在日フランス人写真家。パリのルイ・ルミェール国立映画学校音響科を卒業後に来日し、東京ビジュアルアーツで学んだ。2年前の卒業制作作品「サラリーマン」は僕も審査したのだが、批評的な眼差しで日本社会を切れ味鋭く裁断した素晴らしい作品だった。
今回のビジュアルアーツギャラリー・東京での個展の出品作は、彼の東京の自宅の「2LDK」の部屋で撮影されている。部屋のあちこちに「曇りガラス」の中を覗き込むように撮影した写真を大きく引き伸ばして貼り付けてある。そのことによって、入れ子構造の空間が「プライベートスペースのコラージュ」として成立してくる。曇りガラス越しに見えているのは、食料品、花、雑多な家具、人物などで、その見えそうで見えない像が軽い苛立ちを誘うとともに、見る者を混乱させ、面白い視覚的な効果をあげている。さらに自宅のソファ、机、電気スタンドを実際に会場に持ち込むことで、その混乱がより増幅されていた。洗練された会場のインスタレーションには、アイディアを手際よく形にしていく彼の能力の高さがよくあらわれているが、作品そのものはやや小さくまとまってしまっているようにも感じた。日本の社会現象を異邦人の眼で見つめ直す、よりスケールの大きな作品を期待したい。「サラリーマン」シリーズの続編を考えてもよいのではないだろうか。
2010/10/26(火)(飯沢耕太郎)
風間サチコ展「平成博2010」

会期:2010/10/07~2010/11/27
無人島プロダクション[東京都]
風間はいまどき珍しい木版画で世相を風刺するアーティスト。ドーミエにしろグロッスにしろ社会風刺を版画に託したのは、より多くの人々の目に触れるように願ってのことだが、風間の版画は1点制作。ほとんど版画にする意味がないように思えるけれど、黒く太い線の表現はたしかに力強く、訴求力をもつ。版画以外に資料として、戦前戦中に国内で開かれた博覧会の記念絵葉書もあってつい見入ってしまった。
2010/10/26(火)(村田真)
岡崎和郎 展「補遺の庭」

会期:2010/09/11~2010/11/03
神奈川県立近代美術館鎌倉[神奈川県]
岡崎和郎というと「ひさし」くらいしか知らなかったが、彼の作品は「ひさし」も含めて「御物補遺(ぎょぶつほい)」という概念に集約されるらしい。「御物補遺」とは、従来のオブジェでは見落とされてしまったなにかを補足するようなオブジェを制作することをいう。よくわからないけど、彫刻の鋳型を思い浮かべればいいかも。たとえば《ウィリアム・テルに捧ぐ》という作品はリンゴの型を抜いた石膏に穴を開けたもので、これは見ればわかる。額縁や手形を型どった作品もわかりやすいが、よくわからないのが「ひさし」だ。わからないなりにおもしろいとは思うが。いずれにせよ、シュルレアリスムとコンセプチュアル・アートがねじれて合体したような、その意味では日本ならではのアーティストといえる。
2010/10/26(火)(村田真)


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