artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ヴィック・ムニーズ“Pictures of Paper”

会期:2010/10/22~2010/11/20

nca|nichido contemporary art[東京都]

広重や春信の浮世絵をはじめ、デューラーやソーントンの植物画、ホーマーの海の絵などを切り絵で再現したもの。高さ2メートルを超す大作もあって、近づいて見るとなんだ写真じゃないか。つまり名画を切り絵にして、それを撮影した写真なのだ。そういえばヴィック・ムニーズの作品は、液体で描いた絵にしろゴミで再現した名画にしろ、われわれが目にするのはすべて写真だからな。だいたいこの切り絵の発想、マティスのそれではなく、浮世絵版画の多色刷りにヒントを得たものらしい。そのせいか最終形態としての作品も凹凸があってはならず、フラットな写真でなければいけなかったのかも。でもコンピュータを使って正確に再現されてる分「遊び」が感じられず、いつもの暴力性や奔放さが影をひそめてるなあ。

2010/11/02(火)(村田真)

岩崎貴宏

会期:2010/10/22~2010/12/04

アラタニウラノ[東京都]

これまでのように布の糸を解いて高さ10センチくらいの塔を建てる作品のほか、今回はマクドナルドの包装紙からロゴを切り抜いて看板のように立てたり、コンビニの制服からマークだけをはずして立ち上げたりしている。木の枝に地名を書いた作品もあるが、これは枝の分かれ具合に合致する道を探し出して地名を記したもの。印刷物を切り抜いて立ち上げたり、枝を道路に見立てるアイディアはほかにもだれかがやってるが、それらを床にちりばめて資本主義を象徴するひとつの都市を築いてしまったところがおもしろい。

2010/11/02(火)(村田真)

菊池絵子

会期:2010/10/25~2010/11/06

OFFICE IIDA[東京都]

相変わらず小さな紙に鉛筆でラクダやケーキや消しゴムを脈絡もなくコソコソッと描いてる。今回は極小とはいえキャンヴァス画も出品。菊池は芸大教官による「絵画思考」展にも参加していたが、O JUNの教え子と聞いて納得。この所在なさげな空白感が共通しているのだ。しかし気になるのは、画面の隅にしばしば走る縦の線。これはどうやら紙(画面)の端っこだったりノートの綴じ目だったりするらしい。つまり、単に絵を描いてるのではなく、「絵を描いてる」場そのものを描いてるというか、「絵を描いてる」行為そのものを相対化しているというか。大げさにいえば「メタ絵画」。描かれている「カワイイ」イメージにだまされてはいけない。これはとても「クール」な絵なのだ。

2010/11/02(火)(村田真)

宮島達男「Time Train」

会期:2010/11/03~2010/12/29

Six[大阪府]

ドイツのレックリングハウゼンで出品した、鉄道模型にデジタルカウンターを積んで走行する作品《Time Train》を出品。かつて石炭の輸出用に敷かれた鉄道網が、第2次大戦中はユダヤ人を強制収容所に送るために使われたという、歴史的事実に由来する作品だ。本作は日本初公開だが、ミニマルでハードな性格を持つ展示スペースと上手くマッチして、シンプルながら味わい深い展示が行なわれた。また、関西ではなかなか宮島の作品を見られないので、その意味でも貴重な機会だった。

2010/11/02(火)(小吹隆文)

中川運河キャナルアート

名古屋市中川区舟戸町・岡谷鋼機株式会社 第三倉庫[愛知県]

会期:2010 年10月30日-31日(ただし30日は雨天のため延期)

かつての賑わいを失ってしまった名古屋の中川運河周辺の貴重な水辺空間を、広く知ってもらうために開かれたアートイベント。雨天のため初日のイベントは延期となったが、岡谷鋼機の倉庫を舞台に、映像インスタレーション、大茶会、トークイベント、ライブパフォーマンスなど多彩なイベントが行なわれた。実際に使っている倉庫の一部という空間がまず面白く、迫力のある空間が記憶に残った。一方、会場から運河そのものは遠目に見える程度だったので、イベントとしては、運河を散策させるような仕掛けがあればよいのではという点も感じた。水辺空間の再生という目的がはっきりしているのだから、瀬戸内国際芸術祭やあいちトリエンナーレなど、大規模な芸術祭の縮小再生産ではないかたちが求められているのではないかと思う。産業遺産の活用や、都市構造の再編など、重要なソーシャル・イシューも含まれる。今回が第0回ということなので、来年以降、どのような展開を見せるのかが楽しみである。

2010/10/31(日)(松田達)