artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ルーヴル美術館展──17世紀ヨーロッパ絵画

会期:2009/02/28~2009/06/14

国立西洋美術館[東京都]

「絵画の黄金時代」といわれる17世紀から71点の出品。有名どころではフェルメールの《レースを編む女》をはじめ、ラ・トゥールのロウソク画、フランス・ハルスの道化師像、クロード・ロランの古代風景などがオススメですね。ル・ナン兄弟の匂ってきそうな貧乏家族、オスターデやステーンの陽気な酔っ払い、フランス・フランケンの分割画面も見ものだし、アブラハム・ミニョン、ヤン・ブリューゲル(父)、ヘリット・ダウらの驚異的な細密画も必見。でもベラスケスとレンブラントは小品の部類で少しがっかりだし、弟子任せのルーベンスにはもっとがっかりしました。あと、額縁にも注目。フェルメールの絵よりはるかに大きい額縁に驚いたり、ネームプレートのついた巨大なルイ様式の額縁にルーヴルの空気を感じたり。
ルーヴル美術館展:http://www.ntv.co.jp/louvre/

2009/02/27(金)(村田真)

アートプロジェクト「パラモデリック・グラフィティatなにわ橋駅」

会期:2009.1.25~2009.3.29

京阪なにわ橋駅 アートエリアB1(ビーワン)[大阪府]

駅の地下コンコースにオープンしたアートスペースでパラモデルがプラレールを使ったインスタレーション作品を発表。会場にたどり着くまでの通路からも、いかにも楽しそうな空間の様子が見えて早足になる。公開制作の期間に行けず作家に会えなかったのは残念だったが、その本領が発揮されて、想像以上の巨大な作品空間が広がっていた。昼下がりだったせいか観客はほかにサラリーマン風の中年の男性ひとりだけだったが、ゆっくりと会場を歩き回ってはときどきしゃがみこんでいる姿が子どものようで微笑ましかった。

2009/02/27(金)(酒井千穂)

森末由美子 展「無重力で右回り」

会期:2009.2.24~2009.3.19

Gallery Hosokawa[大阪府]

京都市立芸術大学の学内展で作品を見て「アジシオの人」と覚えてしまった森末由美子。そのときに入手したDMのデザインはすっきりしていたけれど、タイトルのインパクトが強く、訪れる前の日から「無重力で右回り」という言葉が呪文のように頭のなかを巡って楽しみだった個展。古い本を削ったインスタレーション、調味料の瓶のシリーズの展示のほか、今展では、シルクスクリーンを重ねた絆創膏など、旧作も展示。学内展にあったファー生地の作品は、裏から表側に毛を引き出してボーダー状にしたものだとここで聞いて、なるほどとようやくその面白さを理解した。日常的に目にする物質の表面を削ったり、剥ぎ取ったり、ひっくり返したりと、日頃われわれが措定している存在の意味を少しずつ、ゆっくりと曖昧にしていく森末の制作は、とても丁寧でまるで職人仕事のよう。発表しているのは立体作品だが、版画を学んでいたという点も納得。また見たい。

2009/02/27(金)(酒井千穂)

高木こずえ展「GROUND」

会期:2009/02/27~2009/03/21

TARO NASU GALLERY[東京都]

今年は高木こずえの年になるのではないか。そんな予感もしてくる意欲あふれる展示である。高木は2006年、東京工芸大学在学中に写真新世紀グランプリを受賞し、今後の活躍が期待されている新進写真家だが、本展が商業ギャラリーでのデビュー個展ということになる。
今回発表されたのは「GROUND」と題する新シリーズ。赤く燃え上がるような雑多なイメージの集合体(自分で撮影した写真をCG処理してコラージュしたもの)が、分割された縦横3メートルほどの大画面に撒き散らされるように渦巻いている2点組がメインの作品である。ほかにコラージュの一個一個の要素を抽出して単独で見せるシリーズ、コラージュそのものを凝縮した火の玉のようなイメージが環のように配置された作品もある。つまり「GROUND」の全体は増殖し、伸び縮みする、流動的なイメージ群によって構成されているのだ。
これらの一つひとつの要素がそれぞれどんな意味合いを持っているのか。それを作者に問いかけても、きちんとした答えは返ってこないだろう。いま彼女のなかで起こっているのは、自分自身にもコントロールがきかない核融合や遺伝子の組み換えのようなもので、そこからどんなものが噴出してくるのかは「神頼み」のようなところがありそうだ。逆にいえばそういう状態こそ、アーティストにとっては、最もスリリングで生産的な表現の磁場であるともいえるだろう。しばらくはこの白熱するマグマのような衝動に身をゆだねていてもいいのではないだろうか。
高木はこのあと上野の森美術館で開催される「VOCA展2009」(3月15日~30日)にも出品予定。秋には赤々舎からこの「GROUND」シリーズを含む写真集が2冊同時刊行されるという。24歳の、普通に可愛い小柄な女の子のなかに潜む表現のマグマの埋蔵量は、まだ底が知れないところがある。

2009/02/27(金)(飯沢耕太郎)

ヴィック・ムニーズ 「ビューティフル・アース」展

会期:2008/11/22~2009/03/01

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

とにかくやたらとスケールがでかい。ゴミ処理場のゴミを整然と配置することで、そこで働く人びとのポートレイトを描き出した写真作品や飛行機雲で描いたドローイング、開墾した大地にブルドーザーで描いたランドアートなど、写真に落とし込んで見せているものの、プロジェクトのダイナミックな運動性は失われていない。それらが現在の環境問題を下敷きにしていることは明らかだが、安手のヒューマニズムに回収される恐れがないくらい、見事に振り切っているところが潔い。だからこそ、展覧会の反語的なタイトルが効いているのだろう。

2009/02/26(木)(福住廉)

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