artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

アッセンブリッジ・ナゴヤ2018

会期:2018/10/06~2018/12/02

名古屋港〜築地エリア一帯[愛知県]

名古屋港から築地口エリアで展開されている、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2018」を訪れた。音楽とアートの活動の拠点となる《港まちポットラックビル》(旧・文具店)は、2階のプロジェクト・スペースで残念ながら今度、解体されることになった旧潮寿司の建物(L PACK)、3階のエキシビジョン・スペースで失敗した名古屋オリンピックの誘致(山本高之)と戦時慰安婦(碓井ゆい)など、リサーチをもとに忘れられていた歴史をたどる作品を展示していた。20年間空き家になっていた潮寿司はL PACKによって改造・運営され、アルファベット化した「UCO」という名の社交場/カフェスペースとして使われていたが、土地の所有者が手放すことになり、あわせて隣接する小さなボタンギャラリー(旧・ボタン店)も閉じることになった。渡辺英司が監修していた後者では、1階の「殿様のわらじ」展でアーティストや市民の値段をつけた作品を並べ、2階の記録展では、これまでの展示からお気に入りのものをドキュメントブックとして自分で製本し、持ち帰ることができるワークショップがなされていた。いずれも2年半前に初めて訪れた場所であり(そのときはアーティスト・ブック展を開催していた)、リノベーション後の状態しか知らないのだが、空き店舗の活用法として魅力的だっただけに惜しまれる。

さて、これらの建物の裏側には、かつて賭博場に使われたという家屋があり、港町の歴史を感じさせる。しかし、ここも消える予定であり、街の記憶が欠けていく。かといって、新しい再開発が待っているわけでもなく、商店街では空き店舗が増えているらしい。今後、あいちトリエンナーレとは別の枠組で運営されているアッセンブリッジ・ナゴヤが、地域の資源を生かしながら、どのように展開していくかを注目したい。ちなみに、賭け事という意味では、ボートピア名古屋(場外舟券発売場)が設置されたことから交付される環境整備費が、まちづくり事業に使われ、ポットラックなどのイベントに使われている。

2階のL PACKの展示


3階の碓井ゆいの展示


「UCO」の内部


「UCO」の背後


ボタンギャラリー記録展

2018/10/27(土)(五十嵐太郎)

TOKYOGRAPHIE 2018

会期:2018/10/26~2018/12/25

フジフイルム スクエアほか[東京都]

毎年春に京都を舞台に開催されている「KYOTOGRAPHIE」(京都国際写真祭)も今年で6回目を迎え、国際的な写真フェスティバルとして定着しつつある。今回、都内の各会場で開催された「TOKYOGRAPHIE」は、その「KYOTOGRAPHIE」の「SPECIAL EDITION」という位置づけのイベントである。オープニングプログラムとしてフジフイルム スクエアで開催された「深瀬昌久 総天然色的遊戯」展をはじめとして、小野規、ギデオン・メンデル、リウ・ボーリン、ジャン=ポール・グード、宮崎いず美らの展示は、いずれも今年の「KYOTOGRAPHIE」で開催された展覧会の再構成、あるいは縮小版であり、京都に足を運んだ者にとって新味はない。むろん、東京で初めて展示を見る観客にはありがたいイベントだが、できればもう少し独自の企画に力を入れてほしかった。

「TOKYOGRAPHIE」で初めて見ることができたなかでは、林道子の「Hodophylax~道を護るもの~」と関健作の「GOKAB~HIPHOPに魅了されたブータンの若者たち」(どちらもフジフイルム スクエア)が面白かった。林と関は、「KYOTOGRAPHIE 2018」のポートフォリオレビューで大賞と特別賞を受賞しており、このような形で作品のお披露目ができたのはとてもよかったと思う。ニホンオオカミ(Hodophylaxはその学名)と日本人との関わりを文化史的に跡づけていく林の作品も、ブータンの若者たちの生き方を思いがけない角度から浮かび上がらせた関の作品も、ドキュメンタリー写真の新たな方向性を示す力作であり、会場構成もきちんと練り上げられていた。まだいろいろな可能性がありそうなので、今回だけでこの企画を終わらせるのではなく、来年以降もぜひ続けて開催していただきたい。

2018/10/27(土)(飯沢耕太郎)

岡本光博 UFO

会期:2018/10/05~2018/11/03

eitoeiko[東京都]

ギャラリーに入ると、いきなり直径160センチほどのUFOが回転しているのに出くわす。といってもいわゆる「空飛ぶ円盤」ではなく、どんぶり型の「日清焼そばU.F.O.」のパッケージを10倍くらい拡大したものだ(ただし文字を反転させるなど多少変えている)。UFOは光り輝きながら回転して飛ぶ、というのがわれわれの時代の常識だが、、近ごろのUFOは回転しないため、若者の一部はなんで回転しているのか理解できないそうだ。ほかに、中身を食べた後のカップに光を仕込んで回転させたもの、ひよこが乗ったUFO、日清食品からの手紙(抗議ではなく忠告)を円盤状の石に刻印した作品? など、イヤミたっぷりのステキな展覧会。

2018/10/26(村田真)

阿部淳「白虎社」

会期:2018/10/09~2018/10/27

The Third Gallery Aya[大阪府]

阿部淳は、ビジュアルアーツ写真学校・大阪で教鞭をとりながら、都市の路上でスナップ写真を撮影し続けてきた。また自ら運営するVacuum Pressから多くの写真集を刊行し、そのうちの『市民』『黒白ノート』『黒白ノート2』で、2013年に第25回写真の会賞を受賞している。その阿部が、1982年から94年にかけて、大須賀勇が主宰する舞踏グループ、白虎社のスタッフカメラマンを務めていたことは、あまり知られていないのではないだろう。今回のThe Third Gallery Ayaでの個展では、1982年11月の「白虎社東南アジア舞踏キャラバン隊インドネシア巡業」に同行して、バリ島で撮影された写真をはじめとして、当時のヴィンテージ・プリントと、2013年に制作されたという大伸ばしのプリント2点が展示されていた。

阿部の都市のスナップ写真は、日常の光景に目を向けながら、そこから霊的な気配とでもいうべき非日常性を浮かび上がらせるところに特徴がある。白虎社の写真群はその真逆で、非日常的な空間を日常の最中に強引に接続し、祝祭的な異化効果を生み出す踊り手たちの姿を平静な視線で定着している。つまりそこには、引き裂かれつつどこか繋がっている阿部のふたつの視点があらわれているわけで、白虎社の写真をあらためて見直すことで、彼の写真の世界を別の角度から読み解くこともできそうだ。雑誌等に一部掲載されたことはあるが、これらの写真群は、1994年以来はじめてまとまった形で展示されるのだという。さらなる掘り起こしを期待するとともに、ぜひ写真集としてもまとめてほしい。

2018/10/25(木)(飯沢耕太郎)

岩根愛「KIPUKA」

会期:2018/10/24~2018/11/06

銀座ニコンサロン[東京都]

岩根愛は、2006年頃から「ハワイにおける日系文化」に強い関心を抱くようになり撮影を続けてきた。その成果をまとめたのが本展であり、青幻舎から同名の写真集(デザイン=町口覚)も刊行された。

岩根が目をつけたのは、ハワイにおける盆踊りの伝統である。ハワイ・マウイ島のパイア満徳寺で最初の盆踊りが開催されたのは1914年であり、その時流れたのは相馬盆唄を元にした「フクシマオンド」だった。ハワイ移民のなかに福島県出身者が多かったためのようだ。岩根は東日本大震災以後、福島県三春町にも撮影の拠点を置くようになったが、その福島の盆踊りを、ハワイ各地の「ボンダンス」と対比するように撮影して、会場を構成している。盆踊りはいうまでもなく、地上に降りてきた祖霊を慰めるために行なうものだが、岩根の写真群には「土から目覚めた、自分に連なるものに呑み込まれ、一体となる」という、その根源的な体験が写しとられており、魂が互いに呼び合うような声なき声を感じとることができた。タイトルの「KIPUKA」とは、溶岩の焼け跡に生えてくる植物のことであり、「再生の源となる『新しい命の場所』を意味するハワイ語」だという。ハワイとフクシマのというふたつの場所を「KIPUKA」のイメージで結びつけようとする意欲的な試みである。

ただ、奥の壁に貼られた2枚のパノラマ写真、溶岩の上の日系人墓地と、フクシマの廃墟とで、会場があまりにもくっきりと二分化されており、作品を意味づけ、方向付けしていく力がやや強すぎるようにも感じた。もう少し大きな会場で、写真の点数も多くなれば、もっと多様に枝分かれしていくハワイ、フクシマ体験の細部を味わうことができるのではないだろうか。なお本展は11月21日~12月3日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2018/10/24(水)(飯沢耕太郎)