artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

本田健展「ゆきつき」

会期:2017/04/01~2017/04/30

MEM[東京都]

本田は岩手県の遠野に住み、山野を歩き回ってその風景をチャコールペンシルで描き続けている。今回はタイトルのごとく雪景色や月明かりらしき光景もあり、ほとんど真っ黒な画面もある。ふつう鉛筆や木炭で描いたあとはフィクサティフ(定着液)をかけるもんだが、最近はよい状態を保つためにかけてないそうだ。そのせいか以前より白黒(明暗)のコントラストが強くなった気がする。

2017/04/28(金)(村田真)

石黒昭 大理石絵画

会期:2017/04/07~2017/05/06

ロコギャラリー[東京都]

ヨーロッパではしばしば建物の壁に大理石模様が描かれているのを見かける。一種のだまし絵なのだが、日本のトリックアート美術館の出し物とは違い、フェイクなのに堂々として恥じる様子がない。石黒はこの大理石模様を描く職人だったが、いまではそれを美術作品として制作している(それ以外の絵も描くが)。その「大理石絵画」は表面がツルツルのうえ模様が緻密に描かれているため、どう見ても大理石そのもの。今回はそんなリアルな大理石絵画に加え、大理石模様を抽象表現主義的に発展させた新作も発表している。これは美しい。たしかに大理石といわれれば大理石のようにも見えるが、しかし青、赤、緑とカラフルで、しかも霜降り肉のサシのように画面全体を覆う白い絵具が盛り上がっているので、本家本元の大理石から逸脱しようとしているようにも見えるのだ。これはもはや大理石のフェイクであることをやめ、「大理石絵画」という新たなジャンルとして自律しつつあるのかもしれない。

2017/04/28(金)(村田真)

「羽永光利一〇〇〇」

会期:2017/04/28~2017/05/28

NADiff Gallery[東京都]

羽永光利(1933~99)が1960~70年代に撮影した前衛美術家や舞踏家の写真群は、当時の状況をタイムカプセルのように保存した貴重な記録であることは間違いない。今回の展覧会の冒頭に掲げられた、寺山修司と横尾忠則が新宿三丁目の末廣亭の前にいる写真を見ただけで、あの沸騰していた時空間にいきなり連れて行かれるような気がする。ハイレッド・センター、ゼロ次元、状況劇場、ダダカン(糸井貫二)、大野一雄──伝説的なアーティスト、パフォーマーたちが繰り広げるアートシーンの熱気は、今となってはこれらの写真から感じとるしかない。
羽永がこれらの稀有な瞬間を捕獲することができたのは、彼が筋金入りの報道写真家だったからではないだろうか。写真週刊誌「FOCUS」の創刊(1981)に立ち会ったという彼は、目の前の出来事に感情移入することなく、冷静かつ公平に見通す視点を備えていた。やはり同時代に前衛美術家たちを撮影していた平田実の写真と比較しても、その客観性は明らかである。展示されていた写真のなかには、反戦デモや街頭のスナップなど、美術シーンとは直接関係のない写真も含まれているが、そのことが逆に時代状況を大きく俯瞰する視点に繋がっているように見える。
今回の展示は、グラフィック・デザイナーの松本弦人が企画・発行する「一〇〇〇本シリーズ」の5冊目として『羽永光利一〇〇〇』が出版されたのに合わせたものだ。これまでに『町口覚』、『東京TDC』、『宇川直宏』、『中平卓馬』と続いてきた、文庫本、1000ページというスタイルの「一〇〇〇本シリーズ」も、巻を重ねるたびに充実したラインナップになってきた。この枠組みで、もっと見てみたい写真もたくさんある。ぜひ続編の刊行を期待したい。

2017/04/28(金)(飯沢耕太郎)

《盛美館》《御宝殿》

[青森県]

コンペの打ち合わせのため、青森県の平川市へ。前から見たかった《盛美館》を見学する。これは帝冠様式とは反対の構成をもち、1階が和風、2階が洋風であり、隅にアンバランスなほど、大きい八角展望室がのる。現地に行くと、庭園との関係でつくられた建築だとよくわかる。ただ、2階を見学できないのは残念。《御宝殿》はまるで日光だが、入口が普通の住宅にあるような玄関のドア! という落差に驚く。

2017/04/28(土)(五十嵐太郎)

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝─ボスを超えて─

会期:2017/04/18~2017/07/02

東京都美術館[東京都]

内容は、オランダの同時代美術(宗教画から世俗・風景画へ)、ボスの奇想画とそのフォロワー、そしてボスの影響を受けたブリューゲルの版画と目玉の作品というラインナップ。一枚の絵から当時の状況を伝えるものだ。「バベルの塔」の絵のサイズがかなり小さいだけに、逆に300%、映像、拡大した壁紙にしても、鑑賞に耐えるオリジナルの圧倒的な解像度に感心させられる。

2017/04/26(木)(五十嵐太郎)

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