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美術に関するレビュー/プレビュー

ライアン・ガンダー─この翼は飛ぶためのものではない

会期:2017/04/29~2017/07/02

国立国際美術館[大阪府]

ライアン・ガンダー、1976年イギリス生まれ。40歳そこそこの海外のアーティストに国立美術館全館を使った個展とコレクション展を任せるというのも、なかなかないことだ。さぞかしおもしろいに違いないと思って新大阪で降りて見に行ったら、本当におもしろかった。これはさっき広島市現代美術館で見たブルース・ナウマンの映像と同質のもので、出会い頭いきなりトンチクイズを出されたみたいな、いいかえれば自分の知識と想像力をフル回転させなければ先へ進めないような、そんなアートだ。
例えば、壁に埋め込まれた目玉と眉。近寄ってみるとクルクルと動く。タイトルは《最高傑作》。この作品は東京でも見たことあるが、今回新作として《あの最高傑作の女性版》もある。たしかに眉が細くてまつげもついている。タイトルはシャレでつけてるようでかなり重要だ。というかタイトルと作品を突き合わせることで効果が倍増する。汚れた台座の上に置かれた黒い小さな呪術人形は《僕の魔力はどこにいってしまったの?》、壁の下のほうに穴をあけた作品は《僕はニューヨークに戻らないだろう》、床に英語の書かれた紙クズが置かれているのは《あまりにも英国的というわけではないが、ほぼ英国的な》、床や壁に数千本の黒い矢が斜めに刺さっているインスタレーションは《ひゅん、ひゅん、ひゅうん、ひゅっ、ひゅうううん あるいは同時代的行為の発生と現代的表象と、斜線の動的様相についてのテオとピエトによる論争の物質的図解と、映画の100シーンのためのクロマキー合成の試作の3つの間に》と題されている。デタラメな番号を振られたガイドを見ながら、みんな右往左往するしかない。

2017/05/05(金)(村田真)

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ライアン・ガンダーによる所蔵作品展─かつてない素晴らしい物語

会期:2017/04/29~2017/07/02

国立国際美術館[大阪府]

今回はコレクション展のほうもライアン・ガンダーにもてあそばれている。厖大なコレクションから似たもの同士を選び、38組のペアで展示しているのだ。例えば、パブロ・ピカソの《道化役者と子供》とマルレーネ・デュマスの《おじいさんと孫娘》の組み合わせは、タイトルからも察しがつくだろう。ヨーゼフ・ボイスの《カプリ・バッテリー》と島袋道浩の《柿とトマト》は、いずれも野菜と果物を素材とした作品で、菅井汲の《S.14 & S.15》とベルナール・フリズの《51%の真実、48%の虚偽》は、どちらもグネグネ曲がる形態の抽象絵画。高松次郎の《大理石の単体》と草間彌生の《道徳の部屋》は、外側は箱状で中身はグシャグシャ、モーリス・ルイスの《Nun》と榎倉康二の《干渉(STORY-No.46》は「にじみ」がキーワードだ。おおむね色やかたち、素材が似ている作品同士を組み合わせているが、例えば、ルーチョ・フォンタナの《空間概念、期待》と深見陶治の《景》のような離れ技もある。前者は例の切り裂かれたキャンバスで、後者は陶剣なのだ。たしかにペア。

2017/05/05(金)(村田真)

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三島喜美代展

会期:2017/05/02~2017/05/28

現代美術 艸居[京都府]

ひもでくくられた古新聞・古雑誌、平積みされた少年漫画、商品のロゴマークが入ったダンボール箱、空き缶を満載したゴミ箱など、現代の物質文明を想起させるモチーフをテーマにした陶オブジェで知られる三島喜美代。近年は国際的に評価が高まっている彼女が、久々に地元の関西で個展を開催した。三島はもともと絵画と新聞紙のコラージュを併用した平面作品を制作していたが、1970年代から陶オブジェへと移行した(鉄や樹脂の作品もある)。彼女は陶芸を選択した理由を「やきものは割れる。その不安感が面白い」と言い、古新聞・古雑誌や空き缶といったモチーフは「家の近所の見慣れた風景で、面白いと思った」と述べている。このことから三島は直感的な作家だと類推できるのだが、それでこれだけ一貫性のある質の高い作品を残してきたのだから、美術家の直感恐るべしである。また、本展で興味深かったのは一番奥の部屋に展示されていた《Film 75'》という作品だ。夫を撮影した35ミリネガフィルムをシルクスクリーンでプリントしたフィルム状のオブジェだが、三島の作品にしては珍しくプライバシーに触れている。この作品は存在すら知らなかったので、見られてラッキーだった。

2017/05/05(金)(小吹隆文)

幕末明治の写真家が見た富士山 この世の桃源郷を求めて

会期:2017/04/13~2017/06/30

フジフイルムスクエア写真歴史博物館[東京都]

入江泰吉、牛腸茂雄、奈良原一高など、主に日本の写真家たちの企画展を開催しているフジフイルムスクエア写真歴史博物館で、「幕末明治の写真家」の作品をフィーチャーしたユニークな展覧会が開催された。富士山はいうまでもなく古来日本人の心を強く捉え、詩歌や絵画の題材としても繰り返し取り上げられてきたテーマだが、幕末に日本に渡来した写真も例外ではない。今回の展示は、フェリーチェ・ベアト、日下部金兵衛、ハーバード・ポンティングが撮影した富士山の写真を中心に、水野半兵衛の珍しい「蒔絵写真」、小川一真、渡辺四郎らの作品を加えて構成されていた。
イタリア生まれで、幕末から明治初期にかけて横浜にスタジオを構えて活動したベアトは、その優れた撮影技術を駆使して、エキゾチックな富士山の眺めを巧みに捉えている。外国人のための土産物として販売されていた「横浜写真」の代表的なつくり手であった日下部撮影の富士山の写真は、隅々まで気を配って彩色された工芸品だ。1901年からたびたび日本を訪れ、何度も富士山を撮影しているポンティングは、むしろそのダイナミックで雄大な自然美を強調した。幕末から明治期にかけての「富士写真」に絞り込むことで、よくまとまった、中身の濃い展示になっていた。
ただ、いつも思うことだが、クオリティの高い企画が多いにもかかわらず、歴史博物館の展示スペースがあまりにも狭すぎる。今回の展覧会も、骨格を提示しただけで終わってしまった印象が強い。もう少し展示会場の面積を拡張できないのだろうか。なお、本展を監修したのは、2015年に『絵画に焦がれた写真 日本写真史におけるピクトリアリズムの成立』(森話社)を上梓した気鋭の写真史家、打林俊である。リーフレットに掲載された、彼の「いざ写し継がん、幕末・明治の写真家と不尽の富士」は行き届いた内容の解説文だった。

2017/05/04(木)(飯沢耕太郎)

片山正通的百科全書 Life is hard... Let’s go shopping.

会期:2017/04/08~2017/06/25

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

彼が収集したコレクションを見せる展示だが、さすがにその内容は独自の審美眼をもち、はるかにお金をかけて実施された村上隆のそれに比べると弱い。が、会場を訪れ、狙いは必ずしも、それでないことがよくわかった。すなわち、いつもは事務所や家に置くコレクションを、インテリアデザイナーとしていかに見せるかの会場デザインこそがポイントである。だから、やたらと壁が多い。なお、片山コレクションはポップやセクシーなものが多い。建築系ではシャルロット・ペリアンとプルーヴェの家具の部屋が楽しい。現代アートの目玉は、最後に設けられたライアン・ガンダーの部屋であり、大阪の個展と同時でタイミングがよい。ライアンは自作が購入されたら所有者の好きなようにしてよいと言っていたが、まさにそのとおりに構成されている。

2017/05/03(水)(五十嵐太郎)

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