artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

2017 宮本承司展

会期:2017/04/15~2017/04/30

京都・アートゾーン神楽岡[京都府]

半透明の握り寿司という、衝撃的な作品で鮮烈なデビューを飾った木版画家・宮本承司(ほかには、果物、アイスキャンディ、かき氷なども)。個展やグループ展などの度に彼の作品を見てきたが、近年は東京での発表が多く、寂しい思いをしてきた。それだけに期待大で本展に臨んだ訳だが、宮本はその期待を軽々と超えてくれた。モチーフ単体の作品はもちろんだが、寿司ネタの数々やあがり(お茶)などの連作を木箱に納め、竹皮で包んだ《すし折》や、過去作のボツを切り抜いてコラージュした《輪廻その1》(画像)など、ユニークな作品が数多く見られたのだ。宮本の特徴は鋭利なまでにシャープな技術と感性だが、そこに木版画特有の柔らかみ、温かみが加わることにより、バランスの良い作品が生み出される。さらに本展では、旧作を再利用したコラージュという新たな展開が加わった。待った甲斐ありだ。

2017/04/25(火)(小吹隆文)

開館記念展「未来への狼火」

会期:2017/04/26~2017/07/17

太田市美術館・図書館[群馬県]

ちょっと遠いし、規模も大きくなさそうだし、話題にもなってないけど、なんとなく美術館と図書館が一体化している点に惹かれて行ってみた。そもそも美術館(ミュージアム)の原型のひとつはミューズを祀る古代の神殿ムセイオンにあり、特に有名なアレクサンドリアのムセイオンは、美術館というより数十万巻の本を収めた図書館付きの研究センターみたいなものだったらしい。また初期のミュージアム、例えばロンドンの大英博物館にしろ、現在ドクメンタの主会場として知られるカッセルのフリデリチアヌム美術館にしろ、当初は美術館(博物館)と図書館の合体した施設だったというから、この2つは単に相性がいいというだけではない、それ以上の深いつながりがあるはずなのだ。
都内から東武伊勢崎線で約2時間は遠いが、駅のすぐ近くというのはありがたい。平田晃久設計の建物は、複雑な形をしているうえ屋上に植栽があるため、外からだとどんな構造なのかつかめない。中に入っていくと、どうやらいくつかの箱状の建物がガラス張りの外壁で囲まれた構造のようだ。大ざっぱにいうと、金沢21世紀美術館のかたちを崩して縦に伸ばした感じか。その箱が展示室になっていたり図書室になっていたり、また箱と箱との間の通路にも美術書や絵本が満載の本棚が並んでいたりする。そして外壁に沿ってスロープがあり、昇っていくと2階の中央に出る。そこに螺旋階段があって3階へと続く。つまり螺旋状に上昇していく仕掛けだ。これはひょっとして、つい先日見た「バベルの塔」の縮小版? いや、ボルヘスに倣えば「バベルの図書館」か? 規模こそ小さいものの、迷宮好きには魅惑的な建築だ。こんな美術館・図書館が子供のころ家の近くにできたらさぞかし喜んだだろうなあ、太田市民がうらやましい。あえて難をいえば、本にとっても迷宮好きにとっても明るすぎることか。
さて、その美術館スペースで開館記念として開かれているのが「未来への狼火」。出品は、太田市内で採取した土を使って壁に泥絵を描く淺井裕介、写真家で隣の桐生市出身の石内都、太田市で育ったアーティストの片山真理、太田市出身の詩人で朔太郎とも親交のあった清水房之丞、前橋市出身で太田市をパノラマ風に描く藤原泰佑ら9人。いずれも太田市か群馬県とゆかりがあるか、その土地に関係する作品をつくる作家ばかり。こういう開館記念展ではしばしば地元で知られたローカルな作家と、全国区または国際的に活躍するグローバルな作家が同居することになり、評価基準がチグハグになりがちだが、なぜか今回そんな齟齬はあまり感じなかった。もとより小規模な展覧会なので各作家の紹介が限られていることもあるが、それ以外にも、展示室が3つに分かれているため、その間の厖大な図書をながめ、時に立ち読みし、再び作品を見ることになり、いい具合に気が散るからではないか。もちろんこれは美術館としては問題だが、ここは「美術館・図書館」であり、美術作品に集中できないことを前提として展覧会を鑑賞するべきなのだ。そういう意味ではこれまでにない展覧会が生まれるかもしれない。

2017/04/24(月)(村田真)

新宮晋の宇宙船

会期:2017/03/18~2017/05/07

兵庫県立美術館[兵庫県]

風や水といった自然の力で動く彫刻で知られる新宮晋の個展。新作を中心とした約15点の作品に加え、ドローイングや野外でのプロジェクトの映像も紹介された。
新宮の作品は、「動く彫刻」としてのモビールを大型化させ、複雑な構造計算と厳格な幾何学的形態により、風力や流水の力で生き物のように動き続ける。風車やヨットの帆を思わせる形状に張られた、薄いポリエステルの布が、風を捉えて回転する。風を受けた草原のように、刻々と表情を変える白い布の一面の連なり。シャワーのように降り注ぐ水を受け止め、満たされると重みでひっくり返り、複雑な軌跡を描いて運動し続けるステンレスの杯。二度と同じ動きを繰り返さない、複雑で繊細な揺らぎに満ちた運動は、床や壁に落ちる影や金属が反射する光の美しさもあいまって、いつまで見ていても飽きない魅力にあふれている。
だがそれらが、「美術館」という空間で展示されるとき、魅力的な運動は、空調の操作や調整、扇風機の配置、流水装置の設置といった人工的な補助に支えられてもいる。「エコ」という思考と実践を、(技術的な実用化や産業面での開発ではなく)造形的な美しさにおいて追究する新宮作品だが、作品にとって美術館は「自然」的環境か? という問いをはからずも提起していた。

2017/04/23(日)(高嶋慈)

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東北大五十嵐研のゼミ合宿5 東京国立博物館

東京国立博物館[東京都]

ゼミ合宿の2日目は、上野の国立博物館にて、学芸企画部企画課デザイン室長の木下史青の案内によって、照明、治具、什器、空間との関係など、詳しく案内していただく。本館の展示ケース、リニューアルした東洋館、平成館の照明、法隆寺宝物館の谷口吉生のこだわりなど、普通に作品を鑑賞する環境を整える背後の努力を学ぶ。日本の博物館で常勤のデザイン担当がいるのはまだ珍しい。

2017/04/22(木)(五十嵐太郎)

オオニシ クルミ個展 形と記憶

会期:2017/04/16~2017/04/23

GALLERY 301 due[兵庫県]

画廊の壁面に、サンゴを思わせる小さな白いオブジェが数十点も並んでいる。なかには輪になったものも。近づいてじっくり見ると、それらは花や花束をモチーフにしたオブジェだった。細部までじつに細かい造形となっており、彫刻や彫塑では不可能なほどの緻密さだ。つくり方を聞いてみると、やはり生花を泥漿に浸して焼成したやきものだった。生花は窯の中で燃え尽きてしまうので、作品は一種のミイラ、生の姿を留めた死体、あるいは生命の抜け殻と言えるだろう。植物や衣服を泥漿に浸して焼成する陶芸作品はけっして珍しいものではない。しかし彼女の場合、花のかけらから花冠まで多様な作品を並べているのと、個々の作品から放たれる可憐な風情が印象的だった。作者は新人で、その初々しさ、技術と経験の足りなさが良い方向に作用したとも言えるだろう。技術面、造形面でまだまだ伸びしろがあると思うので、今後の展開が楽しみだ。

2017/04/21(金)(小吹隆文)