artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
クリストとジャンヌ=クロード展
会期:2016/10/05~2017/01/29
札幌宮の森美術館[北海道]
クリストの展覧会をやっていたので、札幌宮の森美術館へ。彼の活動をたどる内容で、知らない作品にも出会い、収穫はあったが、何よりも驚いたのは結婚式場・チャペルに付属する美術館だったこと。これが微妙な古典主義+大胆な壁画の建築で、ここのデザインは収蔵するアート作品並みだとよいのだが。
2016/11/28(月)(五十嵐太郎)
松本竣介 創造の原点
会期:2016/10/08~2016/12/25
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館[神奈川県]
今日は某女子大の教え子3人と展覧会巡り。まずBankARTで待ち合わせ、柳幸典展を見てから鎌倉へ移動。ところがJRが事故のため動かず、地下鉄に乗り換えたため金も時間も無駄にかかってしまった。くっそおおお! 鎌倉に行くのは本館の最後の展覧会以来だが、今回は別館での展示。出品作品はコレクションが中心で、点数もそれほど多くない。油彩、デッサンなど竣介だけで約60点。ほかに麻生三郎、靉光、寺田政明、井上長三郎、鶴岡政男ら新人画会のメンバーや、藤田嗣治の裸婦像も。また、竣介の撮影した風景写真や書簡、雑誌(特に戦時中の座談会「国防国家と美術」と、それに竣介が応えた「生きてゐる画家」が載った『みづゑ』誌)、スケッチ帖などの資料類が充実しているのは鎌近らしい。それにしても、4年前に大規模な生誕100年記念展を葉山でやったのに、なぜまた半端な規模の松本竣介展を開くのか不思議に思ったが、これはどうやら鎌近の宿命なのかもしれない。鎌近が公立美術館で初めて竣介の作品を紹介したのは、画家の死後10年の1958年のこと。その後、遺族らから寄贈を受けて、68年に旧館の1室を松本竣介記念室として公開したが、まもなく閉室。84年に別館が開館すると、展示室の一部を松本竣介コーナーとして作品を公開してきた。鎌近はつねに竣介とともにあり、その作品を紹介し続ける運命にあるのだ。
2016/11/26(土)(村田真)
complex665
会期:2016/11/26
[東京都]
六本木のcomplex665へ。青木淳、ムトカ、ブロードビーンと異なる建築家が手がけたこともあり、各ギャラリーのインテリアがだいぶ違う。シュウゴアーツは小林正人の空間的絵画、タカ・イシイギャラリーは鈴木理策の非写真的肖像の試み、小山登美夫ギャラリーはキラキラ蜷川実花を展示する。
2016/11/26(土)(五十嵐太郎)
畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景
会期:2016/11/03~2016/01/08
畠山直哉のこの展覧会については、個人的にずっと気になっていた。東日本大震災から5年半が過ぎ、それぞれの写真家、アーティストたちの「いま」が問われつつある。そんななかで、大きな被害を受けた故郷の岩手県陸前高田を撮り続けている畠山が、何を考え、何をメッセージとして送ろうとしているのかを知りたかったのだ。
展示の全体は大きく2つに分かれている。第1部にはデビュー作の「等高線」(1981~83)から、2015年のメキシコ滞在中に撮影された新作(タイトルなし)まで、彼の写真家としての軌跡をたどる作品が並ぶ。「タイトルなし(哲学者)」(2012)、「ポズナン(恋人たち)」(2010)、「フィントリンク」(2009)、「カメラ」(1995~2009)など、これまでの個展にはあまり出品されていなかった珍しいシリーズも含まれている。
今回の展覧会は、むしろ第2部にこそ力点を置いて見るべきだろう。圧巻は、震災後にずっと撮り続けられている「陸前高田」(2011~16)のコンタクトシートが、長い机の上に3列に並ぶインスタレーションだった。8カットずつプリントされたコンタクトシートの数は552枚。全4416カットの写真には、2011年3月16日に陸前高田にオートバイで向かう途中に、山形県酒田のホテルで撮影された場面から、2016年8月撮影の陸前高田・気仙町の七夕の様子までが、克明に記録されている。
写真家にとって、手の内をさらけ出すようなコンタクトシートの展示には、かなりの覚悟が必要だっただろう。だが、そのコンタクトシートと、そこから選び出して壁面に展示した46点のプリントと照らし合わせて見ていると、「陸前高田」のシリーズがどのように形をとっていったのかが、生々しいほどの切迫感をともなって浮かび上がってくる。観客にとっても、一人の写真家の眼差しとシンクロしていく体験を味わうことができる稀有な機会となっていた。なお第2部にはほかに、震災前に撮影された「気仙川」(2002~10)のスライドショー(96点)と、今回東北の被災地の未来像を提示するという意味で撮り下ろしたという海面の写真、「奥尻」(2016)も展示されていた。
展覧会のタイトルの「まっぷたつの風景」というのは、イタロ・カルヴィーノのややシニカルな寓話的小説『まっぷたつの子爵』(1952)からきている。トルコ軍による砲撃で、善と悪の2つの半身に分裂した子爵の話は、そのまま津波によって極限に近いかたちに引き裂かれてしまった陸前高田の眺めに重ね合わせることができる。とはいえ、カルヴィーノの小説で悪の半身と善の半身のどちらも人々にとって迷惑な存在になってしまうように、復興が進んで陸前高田の傷跡が隠蔽されてしまえば、それで丸くおさまるというわけではないはずだ。風景がつねに孕んでいる二面性、両義性こそが、これまでも、これから先も、畠山にとっての最大の関心の的であることが、展示を見てよくわかった。
2016/11/26(飯沢耕太郎)
寺林武洋─LIFE III─
会期:2016/11/25~2016/12/18
Yoshimi Arts[大阪府]
大中小あわせて10点ほど。アパートの階段、台所、電灯、スイッチ、すり切れた畳など、実際に作者の身の回りにある品々や風景を、まあはっきりいってどうでもいいようなものたちを、自分の目線で、ほぼ実物大で精密に描いている。いわゆる写実絵画だが、描かなくていいような壁の汚れやシールの跡まで克明に描写している点で、「くそリアリズム」といったほうが正しいかもしれない。いわば正統派のくそリアリズム。もちろんホメてるんですよ。
2016/11/25(金)(村田真)