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畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景

2016年12月15日号

会期:2016/11/03~2016/01/08

せんだいメディアテーク6階ギャラリー4200[宮城県]

畠山直哉のこの展覧会については、個人的にずっと気になっていた。東日本大震災から5年半が過ぎ、それぞれの写真家、アーティストたちの「いま」が問われつつある。そんななかで、大きな被害を受けた故郷の岩手県陸前高田を撮り続けている畠山が、何を考え、何をメッセージとして送ろうとしているのかを知りたかったのだ。
展示の全体は大きく2つに分かれている。第1部にはデビュー作の「等高線」(1981~83)から、2015年のメキシコ滞在中に撮影された新作(タイトルなし)まで、彼の写真家としての軌跡をたどる作品が並ぶ。「タイトルなし(哲学者)」(2012)、「ポズナン(恋人たち)」(2010)、「フィントリンク」(2009)、「カメラ」(1995~2009)など、これまでの個展にはあまり出品されていなかった珍しいシリーズも含まれている。
今回の展覧会は、むしろ第2部にこそ力点を置いて見るべきだろう。圧巻は、震災後にずっと撮り続けられている「陸前高田」(2011~16)のコンタクトシートが、長い机の上に3列に並ぶインスタレーションだった。8カットずつプリントされたコンタクトシートの数は552枚。全4416カットの写真には、2011年3月16日に陸前高田にオートバイで向かう途中に、山形県酒田のホテルで撮影された場面から、2016年8月撮影の陸前高田・気仙町の七夕の様子までが、克明に記録されている。
写真家にとって、手の内をさらけ出すようなコンタクトシートの展示には、かなりの覚悟が必要だっただろう。だが、そのコンタクトシートと、そこから選び出して壁面に展示した46点のプリントと照らし合わせて見ていると、「陸前高田」のシリーズがどのように形をとっていったのかが、生々しいほどの切迫感をともなって浮かび上がってくる。観客にとっても、一人の写真家の眼差しとシンクロしていく体験を味わうことができる稀有な機会となっていた。なお第2部にはほかに、震災前に撮影された「気仙川」(2002~10)のスライドショー(96点)と、今回東北の被災地の未来像を提示するという意味で撮り下ろしたという海面の写真、「奥尻」(2016)も展示されていた。
展覧会のタイトルの「まっぷたつの風景」というのは、イタロ・カルヴィーノのややシニカルな寓話的小説『まっぷたつの子爵』(1952)からきている。トルコ軍による砲撃で、善と悪の2つの半身に分裂した子爵の話は、そのまま津波によって極限に近いかたちに引き裂かれてしまった陸前高田の眺めに重ね合わせることができる。とはいえ、カルヴィーノの小説で悪の半身と善の半身のどちらも人々にとって迷惑な存在になってしまうように、復興が進んで陸前高田の傷跡が隠蔽されてしまえば、それで丸くおさまるというわけではないはずだ。風景がつねに孕んでいる二面性、両義性こそが、これまでも、これから先も、畠山にとっての最大の関心の的であることが、展示を見てよくわかった。

2016/11/26(飯沢耕太郎)

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