artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
山村幸則 展覧会『太刀魚はじめました』
会期:2016/11/01~2016/11/20
GALLERY 5[兵庫県]
山村幸則は、突拍子もないアイデアを実行するアーティストだ。例えば、山育ちの神戸牛の仔牛に海を見せるべく、神戸港まで引き連れて再び山に帰っていく《神戸牛とwalk》、古着屋から1000着の古着を借りて新たな装いを提案する《Thirhand Clothing 2014 Spring》、黒松が茂る芦屋公園で松の木に扮装して体操を行なう《芦屋体操第一》《同 第二》など、地域の歴史や自然を自身の体験として作品にしてしまう。作品には彼自身とアートが融合しており、日常と表現行為が地続きになっているのだ。さて、今回山村がテーマにしたのは太刀魚。神戸港で太刀魚を釣り、その模様を映像で記録したほか、カフェで食材として利用してもらう、グッズをつくる、ワークショップを行なうといった作品が発表された。筆者は最終日前日のトークイベントに参加したが、そこでも太刀魚尽くしの料理がふるまわれた。彼の作品を見るたびに思うのは、「よくこんなことを思いついたな」「思いついても実際にやるか」ということ。だが、彼の真摯な姿勢と、そこから溢れ出るユーモアに感化され、いつも作品の虜になってしまうだ。
2016/11/19(土)(小吹隆文)
A-chan「Salt’n Vinegar」
会期:2016/11/18~2016/12/04
POST[東京都]
日本で生まれ育ったA-chanがニューヨークに渡ったのは2007年だから、もう10年近くが過ぎた。そのあいだにロバート・フランクのアシスタント兼プリンター/エディターを務めるようになり、Steidl社から写真集『VIBRANT HOME』(2012)、『OFF BEAT』(同)を刊行した。今回は、やはりSteidl社から出た新作写真集『Salt’n Vinegar』にあわせての展示で、じわじわと胸の奥に浸透してくるような写真群が並んでいた。彼女のニューヨークでの充実した日々の様子が伝わってくる。
写っているのは、主に「大きな公園」の近くに住んでいるという彼女の周辺の光景である。ベンチに置き忘れられた「Salt’n Vinegar」の表示のあるポテトチップの袋、浮遊しているようなストローハット、公園の水たまり、蛇口から流れ出る水など。モノクロームとカラーが併用されているが、その移行は滑らかで澱みがない。写真を見ているうちに、彼女が鋭敏に反応しているのがtinyなものであることに気づいた。単に見かけが小さいとか、可愛らしいというだけではなく、儚さや脆さを含み込みながら、凛とした存在感を発するtinyな事物を、積極的にコレクションしているように思えてきたのだ。
写真集には日本で撮影されたものも含まれているようだが、「アメリカ在住の日本人」という、不安定だが開放感もあるポジションをうまく活かしていくことで、さらに自分の世界を深めていけるのではないだろうか。日本でも、もう少し彼女の存在が知られてくるといいと思う。小規模だが、そのきっかけになりそうないい展示だった。
2016/11/19(飯沢耕太郎)
鶴友那 個展「水の記憶」
会期:2016/11/12~2016/11/27
ex-chamber museum[東京都]
ジョン・エヴァレット・ミレイの《オフィーリア》に触発されたような、水のなかの女性ばかりを描いた絵。近年流行の写実絵画だが、写真を機械的にトレースしただけではないので、いい意味で「非現実感」があり、幻想的だ。ここまでひとつのモチーフに徹するのも気持ちいい。
2016/11/18(金)(村田真)
阿児つばさ「花路里と花路里/PEGASUS/どこやここ」
会期:2016/11/03~2016/12/04
アーツ千代田 3331[東京都]
今年5月の「3331アートフェア2016」で受賞したごほうびの個展。会期中3期に分け、1期目は「花路里と花路里」、2期目のいまは新作「ペガサス」の展示。ちなみに「花路里と花路里」というのは、北海道の美幌にある同名のスナックを巡る私的物語を作品化したもの。「ペガサス」のほうは、十和田で乗馬を習ったので、馬に作者の名前「つばさ」をつけて有翼の馬ペガサスになったとか。とにかく彼女は個人的体験や私的つながりを作品にしてしまう人。でもなにが展示してあるのかというと、木の実だとか馬具だとか乗馬のビデオとか脚立とかだったりして、とりとめがないし理解しにくい。だからなのか、アートフェアのときも今回も会場に彼女がいて説明してくれる。ひょっとして作者自身の解説つきインスタレーションの試みだとしたら、これは新しいスタイルかも。
2016/11/18(金)(村田真)
ZOKEI NEXT 50──東京造形大学の教育成果展
会期:2016/11/12~2016/11/27
アーツ千代田 3331[東京都]
創立50周年記念事業として絵画・彫刻専攻の卒業生20人の作品を展示。会場の3331には多摩美がアキバタマビというギャラリーを有しているし、武蔵美も日本橋にギャラリーαMがある。造形大もこれを機に都心に展示場所を考えては? それはともかく、まず絵画で目を引くのは、室井公美子と佐藤翠のふたり。どちらもペインタリーな大作を出品し、絵画の醍醐味を味わわせてくれる。目は引かないけれど、隅っこにポツンと置かれた末永史尚の《段ボール箱》はニクイ。彫刻では、犬、ネコ、オランウータンなどを彫ったはしもとみおの木彫が目立つ。ところで、出品者はすべて創立以来50年間の後半、つまり1990年代以降の卒業生に限られていて、それ以前の人たちは切り捨てられている。イキのいい若手に焦点を当てたのか、上の世代にロクなヤツがいなかったのか。まあどっちもでしょうね。
2016/11/18(金)(村田真)