artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

BODY/PLAY/POLITICS ─カラダが語りだす、世界の隠された物語─

会期:2016/10/01~2016/12/14

横浜美術館[神奈川県]

身体をキーワードとしており、埼玉県立近代美術館と似たようなテーマの展覧会だが、こちらはむしろアジアの各地で活動する作家を招聘し、それぞれの地域の文脈を語る。が、日本とは環境が異なるだけに、作品にややとっつきにくい面があったことは否めない。やはり、石川竜一の展示で紹介されていた、小さいおじさんとグッピーの写真とエピソードがずしんと来る。彼が書いたテキストもなかなか読ませる。常設では、絵画に描かれた横浜の特集展示だった。近代から現代まであるが、いずれも実際の場所と照合しながら見ると、さらに楽しめる。

2016/10/10(月)(五十嵐太郎)

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瀬戸内国際芸術祭2016《豊島八百万ラボ》

会期:2016/10/08~2016/11/06

豊島・甲生[香川県]

第3回瀬戸内国際芸術祭では豊島会場にスプツニ子!らによる民家を改修した作品、《豊島八百万ラボ》が新たに加わった。
最初の展示作品は、スプツニ子!作《運命の赤い糸をつむぐ蚕─たまきの恋》。
金属製の鳥居をくぐって入場すると、神社のそれさながらに受付ではおみくじやお守り、絵馬が販売されている。その隣の絵馬掛けコーナーでは、願い事が書かれた多くの絵馬が風に揺れてカラカラと鳴っている。建物内部は研究室と展示室に別れているが、全体でひとつのインスタレーションといった様相である。展示室に設置されたモニターには、意中の彼の心を得るために、人が恋におちる成分といわれるオキシトシンと赤く光る珊瑚の遺伝子を導入したハイブリッド蚕をつかって媚薬効果のある赤い糸を開発するという、ドラマ仕立ての短い映像作品が映し出される。作者であるスプツニ子!本人も意中の彼役で出演するというおまけ付き。「恋愛」、「神頼み」、そしてそれらとは相容れないもののような「科学」、それらがみな一本の赤い糸でいとも簡単に繋げられるのである。[平光睦子]

2016/10/09(日)(SYNK)

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瀬戸内国際芸術祭2016 大竹伸朗《針工場》

会期:2016/10/08~2016/11/06

豊島・家浦[香川県]

第3回をむかえる瀬戸内国際芸術祭もいよいよ最後の会期、秋会期がスタートした。瀬戸内の島々ではすでにお馴染みとなった大竹伸朗が、ここ豊島でも新作を発表している。旧メリヤス工場跡を舞台に、宇和島の造船所に放置されていた漁船用の木型を逆さまに置いた作品である。全長17メートル、一見して保存状態もよく造形としても堂々とした存在感を放つそれは、実際には約30年間にわたって放置されていた廃棄物のようなもので、強度に乏しく、そのままのかたちで輸送するために内側に鉄骨を組んでFRPを塗り重ねなければならなかったという。豊島到着後は、島の人々の協力をえながら港から人力で牽引した。
大竹伸朗は1990年代に愛媛県宇和島にアトリエを構えている。瀬戸内では、直島の家プロジェクトでかつての歯科医院を作品化し、女木島では休校中の小学校でオブジェ等の作品を手がけている。いずれの作品もパワフルなコラージュで、平面ではないものの、その印象は画家(ペインター)の仕事の延長線上にあった。それらと比べると、本作はシンプルで整然としている。入り口付近を除いて、何ひとつペイントされていない。しかしいつものあの荒ぶる勢いを抑制したというよりも、芸術祭のコンセプトをそのまま具現化してみせたかのような作品で、そこには、海と島と、瀬戸内の人々のかつての営みが感じられた。[平光睦子]

2016/10/09(日)(SYNK)

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岡山芸術交流2016

会期:2016/10/09~2016/11/27

岡山市内各所[岡山県]

岡山城、岡山県庁、林原美術館など、岡山市内中心部の8会場ほかで行なわれている大型国際展覧会「岡山芸術交流2016」。去る9月15日に珍しく大阪でも記者発表が行なわれたが、その席で強調されたのは、いま日本国内で流行っている地域アートとは一線を画したハイエンドな芸術祭を目指すことと、今回のための委嘱作品が多数あるということだった。実際に現場に出向いてみると、委嘱か否かは別にして、見応えのある作品がいくつもあった。筆者が特に気に入ったのは、岡山県天神山文化プラザで展示されているサイモン・フジワラのインスタレーションと、林原美術館で複数の作品が見られるピエール・ユイグだ。また、旧後楽館天神校舎跡地で地元の中学生や新聞社と協同した新作を発表した下道基行も印象に残った。その一方で難解な作品もいくつかあったが、主催者の心意気を評価する筆者としては、これで良いと思う。参加作家は31組。少なく見えるが、大規模なインスタレーションが多数を占めるので、むしろ適正と言える。また、会場間の距離がさほど離れていないため移動が楽で、頑張れば1日でコンプリートできるのも良いと思った。最後に、今回のアーティスティック・ディレクターを務めたのは、美術家のリアム・ギリック。彼が掲げたテーマは「開発」だが、その意図を展示品から読み取るのは、筆者の知識では難しかった。

2016/10/09(日)(小吹隆文)

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岡山芸術交流2016

会期:2016/10/09~2016/11/27

旧後楽館天神校舎跡地+岡山県天神山文化プラザ+岡山市立オリエント美術館ほか[岡山県]

各地で国際展や芸術祭が激増している。増えるのは悪いことではないが、問題は優れたアーティストやキュレーターは限られているので、被ってしまうこと。結果どこも同じような顔ぶれ、似たような作品が並ぶことになる。そもそも国際展や芸術祭はほかとの差異化を図り、独自性を打ち出さなければ意味ないのに、横並び体質の行政が主導するとどうしても均質化してしまうのだ。これでは見に行く気がしない。そんななか、ぜひ見に行きたいと思ったのが「岡山芸術交流」だ。なぜ見に行きたいかというと、まず第一に行政主導ではなく、岡山の実業家でコレクターの石川康晴氏が主導していること。第二に、そのためキュレーターもアーティストもほかとあまり被っておらず、独自性を発揮できていること。第三に、作品の多くはわかりやすい絵画や彫刻ではなく、見る者に「芸術とはなにか」を考えさせる広義のコンセプチュアルアートであることだ。だからとっつきにくいかもしれないが、近ごろの住人や観客にこびたようないわゆる「地域アート」よりずっといい。
参加作家は31組で、日本人は4人だけ。多少とも名を知られているアーティストはフィッシュリ&ヴァイス、ピエール・ユイグ、ジョーン・ジョナス、リクリット・ティラヴァーニャ、ローレンス・ウェイナー、眞島竜男、島袋道浩くらい。アーティスティックディレクターを務めるリアム・ギリックともども、大半が無名のアーティストなのだ。その姿勢は潔い。ただし出展作品は、アーティストが来日してつくった新作ばかりというわけにはいかず、3分の1は石川氏のコレクションから出ているという。じつは個人的に一番おもしろかったのは、これら旧作を使ったオリエント美術館での展示。モザイク画の隣に赤いミニマル絵画を展示したり(ロバート・バリー)、古代遺物の上方にパンダとネズミのぬいぐるみを吊るしたり(フィッシュリ&ヴァイス)、美術館側もよくやらせたもんだと感心する。ほかにも、銀色に輝く彫刻が駐車場跡地に軟着陸したようなライアン・ガンダーの《編集は高くつくので》や、武器としての弓が弦楽器の弓に変化していく過程を映像化した島袋の《弓から弓へ》が強い印象を残した。どちらもとぼけた外観の内に強いメッセージ性が読み取れる作品だ。やっぱり国際展=芸術祭はこうでなくっちゃ。

2016/10/08(土)(村田真)

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