artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

永瀬沙世「CUT-OUT」

会期:2016/09/23~2016/10/08

GALLERY 360°[東京都]

一時期コラージュ作品の制作に凝っていたことがあるので、「CUT-OUT」(切り抜き、切り絵)の愉しさは僕もよく知っている。鋏で紙を切り抜くのは、筆で描くように自由にはいかないし、つい切り過ぎたり、細かい部分が抜け落ちてしまったりもする。だが、逆に自分では思ってもみなかった大胆なフォルムがあらわれ出てくることもある。なによりも、紙に鋏で切れ目を入れていくときの独特の触覚的な体験そのものに、不思議な魅力があるのではないかと思う。
永瀬沙世が、そんな「CUT-OUT」の面白さに目覚めたのは、アンリ・マティスの作品を知ったからだという。マティスは78歳になって、絵筆を捨て、「CUT-OUT」の制作に没頭し始めた。「何かから解放された彼のアトリエがあまりにも自由に満ちていてびっくりした」のだという。たしかに、今回東京・表参道のGALLERY 360°で展示された、永瀬の一連の「CUT-OUT」作品には、のびやかな解放感がある。
永瀬はまず紙を網目状に切り抜き、女性モデルがそれらと戯れている様子を撮影した。その画像をアルミ板にインクジェット・プリントし、さらにその上に色のついたフィルターを、少し間隔をとって重ねている。アルミ板とフィルターの質感のズレが、刺激的な視覚と触覚を同時に刺激する効果を生み出していた。会場には「CUT-OUT」された銀色の紙そのものも展示されていたのだが、それらはあたかも近未来の衣装のようにも見える。それらを実際に女性モデルに着せるパフォーマンスも面白そうだ。このおしゃれで軽やかな連作は、まだいろいろなかたちで展開していく余地がある。

2016/10/05(水)(飯沢耕太郎)

新・今日の作家展2016 創造の場所─もの派から現代へ

会期:2016/09/22~2016/10/09

横浜市民ギャラリー[神奈川県]

1964年の開館から約40年にわたり現代美術の「いま」を示してきた横浜市民ギャラリーの「今日の作家展(今作)」。同展がもっとも影響力を持ったのは70-80年代で、90年代から徐々にフェイドアウトして、いつのまにか「ニューアート展」「ニューアート展NEXT」と無意味な変化を遂げて消滅。今年ようやく原点に戻ろうとしたのか、「新・今日の作家展」としてリスタートを切ることになった。そんなわけで記念すべき第1回は、70-80年代の「今作」を飾った「もの派」系の菅木志雄と榎倉康二を中心に、彼らのお父さん世代の斎藤義重、榎倉に学んだ池内晶子、菅に見出された鈴木孝幸という世代を超えた、理解も超えた人選。
斎藤と榎倉は物故作家なので旧作を展示。菅はコンクリートブロックを高さが異なるように矩形に並べ、上に木の板を渡したインスタレーション。無理にたとえればジェットコースターみたいな形状だ。うまいなと思うのは、床とブロックの色が同じで溶け合い、上に載せた板の肌色が美しく際立つこと。その隣の鈴木は海岸で拾ってきた数百もの廃材、貝、石、漁具などを床と壁に展示している。もの派というより、リチャード・ロングやトニー・クラッグらのイギリス彫刻に近い。池田は糸を使ったインスタレーションふたつ。ひとつは壁から4本の糸を出して中央でクモの糸のように絡め、中心に円形の穴を開けている。もうひとつは展示室の壁から壁へ数十本の糸を渡し、床から10センチほどの高さまで緩ませたもの。緊張感がたまんない。

2016/10/02(日)(村田真)

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アジア・アートウィーク フォーラム「波紋─日本、マレーシア、インドネシア美術の20世紀」第2部

会期:2016/10/02

高架下スタジオ・サイトD集会場[神奈川県]

アジア・アートウィークの「波紋─日本、マレーシア、インドネシア美術の20世紀」と題するフォーラムの第2部には、インドネシアの歴史家アンタリクサと評論家の小野耕世が出演。どういう組み合わせかと思ったら、「小野佐世男と1940年代のインドネシア美術」というテーマを聞いて納得。アンタリクサは日本植民地時代におけるインドネシアの文化芸術の研究者で、小野耕世は戦時中インドネシアで絵を教えた佐世男の息子なのだ。第2次大戦で旧宗主国オランダを追い出してジャワ入りした日本人は、現地で歓迎され、「ジャワは天国、ビルマは地獄、ニューギニアは生きて帰れない」と言われたそうだ。そのジャワで佐世男は美術教育に携わり、壁画やアニメの技法も伝達、インドネシアに近代美術を根づかせた。戦後は多忙のためインドネシアでの話をすることもなく、耕世氏が中2のときに死去。耕世氏は涙ぐみながら「父が最良の仕事をしたのは戦中だったのではないか」と振り返る。表現の自由を規制され、多かれ少なかれ戦争協力を余儀なくされた画家たちのなかで、ほとんど唯一ハツラツと仕事ができたのは小野佐世男だけかもしれない。もうひとりいるとすれば、ぜんぜん違う意味で藤田嗣治だろう。

2016/10/02(日)(村田真)

黄金町バザール2016 アジア的生活

会期:2016/10/01~2016/11/06

黄金町+日の出町など[神奈川県]

韓国、中国、タイなどからのアーティストも交えて40作家以上が参加。2つだけ書いておきたい。ひとつは、渡辺篤の《あなたの傷を教えて下さい。》。インターネットを通じて心の傷を募り、円形のコンクリート板にその傷についてのコメントを書いて割り、金継ぎで修復する(傷を癒す)。例えば「女の子に生まれてしまった」「評論家にレイプされた。君がTwitterで暴露しても無駄だよと言われた」「私は愛していない人と結婚した。お互いに愛し合っていないから、罪の意識もない」とか。これらの作品もいいけど、会場となった「チョンの間」の壁を斜めに横切る線や、床にまき散らしたコンクリート片といったインスタレーションがすばらしい。もうひとつは、岡田裕子の《Right to Dry》。黄金スタジオの通路に数百枚の洗濯物を干している。ただそれだけ。「幸福の黄色いハンカチ」ならぬ「幸福の洗濯物」。こういうの好きだ。

2016/10/02(日)(村田真)

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アート・ノード・ミーティング01 てつがくカフェ「アートは心地よいもの?」

会期:2016/10/02

せんだいメディアテーク[宮城県]

せんだいメディアテークへ。仙台で新しく始まる芸術祭とは違う形式を模索するアートノード・プロジェクトのアドバイザー会議に出席する。仙台在住のいがらしみきおの漫画を大胆に表紙で使うジャーナル0号も完成していた。終了後、館長の鷲田清一によるアートノード・ミーティングに参加する。いわゆる一方的なレクチャーではなく、オーディエンスの参加をうながしながら、2時間超の議論を成立させる、てつがくカフェの形式を初めて経験したが、意外に多くの発言を引き出すことができるものだと感心した。ちなみに、設定された議論のテーマは、「アートは心地よいもの?」で、これも多様な反応を生み出しており、絶妙な設定だった。

2016/10/02(日)(五十嵐太郎)