artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
柳原良平 海と船と港のギャラリー
会期:2016/08/20~2016/11/06
横浜みなと博物館[神奈川県]
今年4月1日、2015年8月17日に亡くなったイラストレーター・柳原良平(1931-2015)の油彩画、切絵、イラストレーションなど4,848点が横浜市に寄贈された。本展はその中から主に船や港に関する作品約150点を展示する企画。柳原は小学生の頃から船が好きで船の絵を描いていたという。1968年には至誠堂から『柳原良平の船の本』を出版。色紙を使った切絵からはじまり、やがて油彩、リトグラフへと表現のスタイルを拡げていった。柳原が壽屋(現・サントリー)時代に産みだしたキャラクター、アンクルトリスに代表されるように、彼が描く人物は二頭身。船は寸詰まりにデフォルメされたり、スケールが極端に強調されたりしているが、その描写が正確な知識に裏づけられたものだということも本展で知った。子供の頃に柳原良平のイラストレーションに魅力を感じたのは、描かれているものが細部に至るまで正確だったからだということにいまさらながら気がつかされた。また、柳原が描くイラストレーションで、色面の輪郭がとてもシャープなのは、カミソリで紙を切って貼る切絵の手法ゆえということも、恥ずかしながら本展で知った。大学時代に柳原が上野リチから学んだ手法がそのヒントになったのだという。[新川徳彦]
2016/10/08(土)(SYNK)
坂本和也「Between Breaths」
会期:2016/09/30~2016/10/29
nca[東京都]
150号を3枚つなげた超大作《Landscape gardening》を中心に、ジャングルを思わせる濃密な緑の絵画が16点。よく見ると2種類あって、ひとつは《Landscape gardening》に代表されるように枝、葉などをはっきり描き分けた具象的植物画、もうひとつは手前にある《Imbalance》のように、ナイフでコテコテ塗りたくった表現主義的抽象だ(加えてその中間に位置する作品もある)。前者はほとんどオールオーバーだが、気をつけて見ると、例えば《Day by Day》は四辺に沿って黄緑色の枝または蔦がはい、矩形の画面を補強しているのがわかる。画面に対する意識がきわめて高い。
2016/10/07(金)(村田真)
アニッシュ・カプーア個展
会期:2016/09/09~2016/10/15
SCAIザ・バスハウス[東京都]
入って正面の壁にあるのが球体のミラー。左右を貫く穴が開いているのだが、それがどういう曲面をしているのか、妙な見え方をする。思わず手を入れて確かめたくなるが、「手を入れないでください」との注意書きが。壁のコーナーにも球体ミラーがあるが、これも中央が歪んでいて、どうなっているのやら。奥の部屋には建築的プロジェクトのマケットが4つ並んでいる。ひとつは立方体と球体が隣り合わせになり、立方体から球体の内部をのぞき、ひとつは球体の中心部まで通路が延び、中心から全方位を見る仕掛け。あと2つは上下左右に設けた楕円球の内部をのぞくようになっている。どれもが錯覚を用いたトリックアートと言えばそれまでだが、きわめて精度の高いので見惚れてしまう。
2016/10/07(金)(村田真)
ゴッホとゴーギャン展
会期:2016/10/08~2016/12/18
東京都美術館[東京都]
ゴッホとゴーギャン──。いまでこそ近代美術史に燦然と輝く巨匠だが、ふたりが出会ったころはどちらも売れない貧乏画家だった。彼らが南仏アルルで共同生活を始めたのも、生活費を浮かすためでもあった。でもその共同生活もわずか2カ月で破綻。例の「耳切り事件」でゴッホは精神に異常をきたし、身の危険を感じたゴーギャンはアルルを去ったからだ。ゴーギャンがタヒチへ旅立つのはその2年半後のこと。このふたりの共同生活は、ゴッホの伝記においては決定的な意味を持つが、ゴーギャンにとっては初期の1エピソードにすぎない。そもそも共同生活を提案し、熱烈にラブコールを送ったのはゴッホであり、終止符を打ったのもゴッホであって、ゴーギャンにとってはいい迷惑だったはず。そんなふたりの関係だから、この2人展も当然ゴッホに焦点が当てられ、ゴーギャンは脇役だ。ちなみに出品点数はゴッホ28点、ゴーギャン22点、その他18点(ミレー、ピサロ、ロートレック、セリュジエなど)となっている。
最大の見せ場はもちろんアルルでの共同生活の期間で、それを象徴するのがゴッホによる《ゴーギャンの椅子》だ。しかしそれ以外に、例えばゴーギャンによる《ひまわりを描くフィンセント・ファン・ゴッホ》とか、ふたりが同じモチーフを描いた作品(ジヌー夫人やルーラン夫人の肖像、アリスカンの風景など)がないのが残念。いわばアリバイが少なく、説得力に欠けるのだ。と思ったら、晩年のゴーギャンの手になる《肘掛け椅子のひまわり》があった。これは共同生活から13年後、ゴッホの死から11年後、そしてみずからの死の2年前に、遠く南太平洋の島で描いたもの。ゴーギャンはなにを思ってこれを描いたのだろう。ほかにゴッホの《収穫》《オリーブ園》《刈り入れをする人のいる麦畑》《渓谷(レ・ペイルレ)》、ゴーギャンの《タヒチの3人》など見るべき作品は少なくない。
2016/10/07(金)(村田真)
NEW VISION SAITAMA 5 迫り出す身体
会期:2016/09/17~2016/11/14
埼玉県立近代美術館 2F展示室[埼玉県]
埼玉に所縁のある1980年代生まれのアーティスト7名を紹介する若々しい企画だ。タイトルにもっとも近い作品は、やはり生の身体に直接働きかける二藤建人である。鈴木のぞみは解体される家屋の窓が眺めた風景の記憶を定着させ、高橋大輔は膨大な数の厚塗り絵画で空間を埋め尽くす。小畑多丘は速度感ある木彫、青木真莉子は儀式的なアート作品で、それぞれに個性を発揮していた。
写真:左から、二藤建人、小畑多丘、青木真莉子
2016/10/07(金)(五十嵐太郎)