artscapeレビュー
「美を掬う人 福原信三・路草─資生堂の美の源流─」
2016年05月15日号
会期:2016/04/05~2016/06/24
資生堂銀座ビル1・2階[東京都]
福原信三(1883~1948)は資生堂化粧品の初代社長、福原路草(本名、信辰 1892~1946)はその9歳下の弟である。彼らは大正から昭和初年に写真家として活動し、優れた業績を残した。信三は忙しい会社経営の傍ら、1921年に冩眞(しゃしん)藝術社を結成し、写真プリントの「光と其諧調」を強調する作画の理論を打ち立てて、同時代の写真家たちに大きな影響を及ぼした。一方、路草はディレッタントとしての人生を貫き、信三のロマンチシズムとは一線を画する、理智的かつ構成的な画面構成の写真作品を残している。
資生堂意匠部(現 宣伝・デザイン部)創設100周年を記念する今回の展覧会には、信三と路草が残した未発表ネガから、同部所属の写真家、金澤正人が再プリントした作品、約50点が展示されていた。信三と路草の作風の違いがくっきり見えてくるだけでなく、彼らの写真の、時代を超えたクオリティの高さが、よく伝わる好企画だと思う。
写真家の残した未発表ネガを再プリントすることについては、いろいろな問題がつきまとうのも確かだ。どこまで勝手に作品を選べるのか、どれくらいの解釈の幅があるのかという判断は、なかなかむずかしい。ただ、今回の展示について言えば、資生堂の「美の遺伝子」がどのように受け継がれているのかを確認するという意味で、面白い試みになったと思う。金澤の解釈は、デジタル化したデータからのプリントも含めて、現代的な感性を充分に発揮したものであり、二人の写真から新たな魅力を引き出していた。それをポジティブに評価したいと思う。これまでの見方とは逆に、信三の写真から力強さが、路草の作品からは繊細さが引き出されているように見えたのも興味深かった。
2016/04/08(金)(飯沢耕太郎)