artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
アーティスト・ラボII シミュレーションゲーム
会期:2015/07/18~2015/08/30
川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]
打ち合わせのため川口のアトリアへ。ここに来るのは7年ぶり。美術館としては小さすぎ、ギャラリーとしては大きすぎだが、逆にいえば小回りのきく美術館であり、多様な要望に応えられるギャラリーともいえる。いわば地域に開かれたアートの場といったところ。ワークショップなどを通してアーティストとともに作品や展覧会をつくっていく「アーティスト・ラボ」もそのひとつ。今回の「シミュレーションゲーム」は、「あなたがもし○○○だとしたら」という仮定のもとでなにかをつくっていく企画で、アーティストはMaS(T)A(五月女哲平+森田浩彰)と山本高之の2組。それぞれ「旅したつもりになってみよう」「きみのみらいをおしえます」というテーマを設けている。わざわざ遠くから見に行くもんではないけれど、近所の人たちは喜ぶだろう。
2015/08/06(木)(村田真)
アーティスト・ファイル2015 隣の部屋──日本と韓国の作家たち
会期:2015/07/29~2015/10/12
国立新美術館[東京都]
今年は「アーティスト・ファイル」の拡大版で、日韓の国立美術館が共同制作し、それぞれ6人ずつ計12人を選んでいる。日本人は小林耕平、手塚愛子、冨井大裕、南川史門、百瀬文、横溝静の6人で、作品はだいたい想像がつくだろうから省略。雑だなあ。韓国人は大半が初めてだが、名前を連ねても意味ないので、興味深いのを3人ほど。キ・スルギは写真で、とくに「ポスト・テネブラス・ラクス(Post Tenebras Lux)」シリーズは、人けのない森や林道に浮かぶぼんやりした不定形のかたまりを撮ったもの。おそらく薄い布みたいなものを振り回して長時間露光で撮影したと思われるが、不気味でありながらどこかユーモラスでもある。イ・ヘインは100点を超す風景画などの油絵を壁に掛け、床にキャンプ用のテントを張っている。彼女はここ数年、画材とテントを持って各地を放浪しながら絵を描いてきたストリート・ペインター。ストリートに描くのではなく、ストリートでストリートをキャンバスに描くのがおもしろい。ってか、これって印象派と同じかい。イ・ウォノはホームレスから段ボールの家を購入し、その段ボールで巨大な家を再構築し、あわせて購入金額も提示している。その金額を見るとだいたい3千円前後が多いが、ひとりだけ2万円を要求してるヤツがいた。それはともかく、こうして見ると韓国のほうがストリート系が多くて楽しそう。
2015/08/05(水)(村田真)
朝山まり子/岡部稔「EMON AWARD 4 Exhibition」
会期:2015/07/29~2015/08/22
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
ポートフォリオレビューとプレゼンテーションを経て、 東京・広尾のEMON PHOTO GALLERYで個展を開催する作家を選出するのがEMON AWARD。昨年、僕自身を含む6名の審査員で4回目の審査がおこなわれたのだが、一人に絞るのがむずかしく、結局、朝山まり子と岡部稔の二人が選出された。作品が賞のレベルに達していなかったというわけではなく、二人の作品が互いに拮抗していて、優劣をつけがたかったのだ。今回、EMON PHOTO GALLERYのギャラリースペースで開催された展覧会を見ると、対照的な作風と思われた二人の仕事がひとつに溶け合って、なかなか気持ちのいい展示空間ができ上がっていた。
東京都在住の朝山まり子は、山歩きをしながら写真を撮影し続けてきた。従来の山岳写真の枠組みにおさまることのない、みずみずしい自然の息吹に包み込まれるような風景写真の新たな領域を切り拓こうとしている。今回は8点に厳選した作品を展示したのだが、それらを見ると、細やかな自然観察を基調としながら、生命力の波動を全身で受け止めようとしている彼女の写真が、さらにスケール感を増しつつあるように感じられた。
一方、静岡県三島市在住の岡部稔は、入院中の母親の病院を訪ねる行き帰りに、海辺の光景を撮影している。といっても、壁のひび割れや染みなどをクローズアップで捉えた画面は、ほとんど抽象化されており、そこに思いがけない奇妙な形や模様が浮かび上がってくる。「IMPROVISATION」というタイトルが示すように、ジャズの即興演奏を思わせる仕事なのだが、今回は和紙に画像を焼き付けており、その物質感が有機的なフォルムと結びついて、説得力のある表現として成立していた。
二人とも、これからさらに自分の作品世界を大きく育てていくことができると思う。今回の展示がそのきっかけになることを期待したい。
2015/08/04(火)(飯沢耕太郎)
浦田進「8月6日の朝」
会期:2015/07/28~2015/08/10
ギャラリーNP原宿[東京都]
浦田進は1975年島根県生まれ。東京綜合写真専門学校第二芸術科(夜間部)卒業後、都市のストリート・スナップを中心に発表してきたが、2006年から8月6日に広島・平和記念公園で開催される平和記念式典(原爆死没者慰霊式)を撮影するようになった。2009年からは、慰霊碑の前で手を合わせる人々の姿を90ミリの望遠レンズで撮影する「8月6日の朝」のシリーズを開始する。今回のギャラリーNP原宿での展示では、2009年から14年にかけて撮影された同シリーズから、32点が壁に一列に並んでいた。
2011年の東日本大震災を契機として、スナップ写真やドキュメンタリー写真を撮影する写真家たちの意識が変わりはじめた。従来の方法論では、流動的に変容する現実を捉えるのがむずかしくなってきているためだ。浦田のような長期にわたる「定点観測」による撮影も、そのひとつの可能性を示しているのではないかと思う。今回のシリーズでも、撮り方を固定することで、逆に観客を被写体の多様なあり方に思いを馳せるように引き込んでいく狙いがきちんと打ち出されて、見応えのある写真群として成立していた。
写真展にあわせて青弓社から77点の写真がおさめられた同名の写真集が刊行されたことで、このシリーズも一区切りを迎えたのではないだろうか。浦田自身は、これから先も平和記念式典の撮影は続けていきたいと考えているようだが、同じやり方をとる必要はないだろう。「8月6日」の意味をさらに語り継いでいくためにも、新たな角度からのアプローチが求められる時期にきていると思う。なお本展は8月12日~23日に広島市のgallery718に巡回した。
2015/08/03(月)(飯沢耕太郎)
ディン・Q・レ展:明日への記憶
会期:2015/07/25~2015/10/12
森美術館[東京都]
事前の想像をはるかに超えて、素晴らしい展覧会だった。横浜トリエンナーレ2014でヘリコプターのCGを単独で見たときはあまりピンと来なかったが、こうして全体の仕事を理解すると、納得がいく。主にベトナム戦争を扱う社会派の作家だが、問題を告発して終わりではなく、アートならではの表現にきちんと落とし込み、さらに作品の完成度が高い。頭のよい作家だと感じた。冒頭のトンボからヘリコプターのイメージに連なる映像、おびただしい家族写真を散りばめた部屋、従軍画家の作品を再評価するプロジェクト、軍服のコスプレをする男など、どの作品も印象深い。
2015/08/02(日)(五十嵐太郎)