artscapeレビュー

朝山まり子/岡部稔「EMON AWARD 4 Exhibition」

2015年09月15日号

会期:2015/07/29~2015/08/22

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

ポートフォリオレビューとプレゼンテーションを経て、 東京・広尾のEMON PHOTO GALLERYで個展を開催する作家を選出するのがEMON AWARD。昨年、僕自身を含む6名の審査員で4回目の審査がおこなわれたのだが、一人に絞るのがむずかしく、結局、朝山まり子と岡部稔の二人が選出された。作品が賞のレベルに達していなかったというわけではなく、二人の作品が互いに拮抗していて、優劣をつけがたかったのだ。今回、EMON PHOTO GALLERYのギャラリースペースで開催された展覧会を見ると、対照的な作風と思われた二人の仕事がひとつに溶け合って、なかなか気持ちのいい展示空間ができ上がっていた。
東京都在住の朝山まり子は、山歩きをしながら写真を撮影し続けてきた。従来の山岳写真の枠組みにおさまることのない、みずみずしい自然の息吹に包み込まれるような風景写真の新たな領域を切り拓こうとしている。今回は8点に厳選した作品を展示したのだが、それらを見ると、細やかな自然観察を基調としながら、生命力の波動を全身で受け止めようとしている彼女の写真が、さらにスケール感を増しつつあるように感じられた。
一方、静岡県三島市在住の岡部稔は、入院中の母親の病院を訪ねる行き帰りに、海辺の光景を撮影している。といっても、壁のひび割れや染みなどをクローズアップで捉えた画面は、ほとんど抽象化されており、そこに思いがけない奇妙な形や模様が浮かび上がってくる。「IMPROVISATION」というタイトルが示すように、ジャズの即興演奏を思わせる仕事なのだが、今回は和紙に画像を焼き付けており、その物質感が有機的なフォルムと結びついて、説得力のある表現として成立していた。
二人とも、これからさらに自分の作品世界を大きく育てていくことができると思う。今回の展示がそのきっかけになることを期待したい。

2015/08/04(火)(飯沢耕太郎)

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