artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Art Meats 01 津上みゆき/狩野哲郎

会期:2014/03/08~2014/06/10

アーツ前橋 ギャラリー1[群馬県]

昨秋オープンしたアーツ前橋を初訪問。地域ゆかりの作家のコレクションもあるレッキとした美術館ではあるけれど、基本方針に「クリエイティヴ(創造的であること)」「シェア(みんなで共有すること)」「ダイアログ(対話的であること)」を掲げ、企画展を軸に地域アートプロジェクトも推進していく開かれた姿勢は、むしろオルタナティヴスペースに近い。市の中心街に位置する建築も開放的で、通りに面した1階はガラス張り。展示室は1階にギャラリー1があり、階段で地下へ降りて長いギャラリーをぐるっと1周するプランだが、ギャラリーを仕切る壁にところどころ窓がうがたれてるせいもあり、なんとなく路地を遊歩するイメージだ。その1階のギャラリー1でやっていたのが津上と狩野の2人展。津上は正方形のS50号を3点に、幅3メートルを超すP500号1点の出品。「風景画」だというが、原色のせめぎあう画面はいわゆる抽象画で、とりわけ500号の大作は見ごたえがあり、誤解を恐れずに言えば「古きよき抽象画」の趣。一方、狩野は陶の皿やガラス器など回転対称の什器に、柑橘類やゴムボールなどを組み合わせたインスタレーションで、津上とはまったく別の世界を築き上げている。なぜこのふたりの組み合わせなんだろう。

2014/06/06(金)(村田真)

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小原真史・野部博子編『増山たづ子 すべて写真になる日まで』

発行所:IZU PHOTO MUSEUM

発行日:2014年5月9日

2013年10月にスタートし、2014年7月27日まで延長が決まったIZU PHOTO MUSEUMの「増山たづ子 すべて写真になる日まで」展は、じわじわと多くの観客の心を捉えつつある。巨大ダムの建設によって水底に沈んだ岐阜県徳山村で、1977年から10万カットに及ぶという膨大な記録写真を残した増山たづ子の仕事は、写真の撮影と受容の最もベーシックで普遍的なあり方を指し示しているように思えるのだ。
その展覧会のカタログを兼ねた写真集が、ようやくIZU PHOTO MUSEUMから刊行された。2006年に亡くなった増山は、生前に『故郷─私の徳山村写真日記』(じゃこめてい出版、1983年)をはじめとして、4冊の写真文集を刊行している。だが、今回の小原真史・野部博子編の写真集は、その仕事の全般に丁寧に目配りしているとともに、資料・年譜なども充実した決定版といえる。ページをめくっていると、「徳山村のカメラばあちゃん」の行動が巻き起こした波紋が、多くの人たちを巻き込みながら、さまざまな形で広がっていく様子が浮かびあがってくる。
巻末におさめられた「増山たづ子の遺志を継ぐ館」代表の野部博子の文章を読んで、増山の写真の強力な喚起力、伝達力の秘密の一端が見えた気がした。増山は写真を撮り続けながら、昔話の語り部としても抜群の記憶力と表現力を発揮していた。彼女が語る昔話の特徴の一つは「固有名詞が挿入されること」だという。普通は特定の場所、時間、名前抜きで語られることが多いにもかかわらず、彼女の話は「身近な所の話として語りはじめ、さらに地名、人名を入れて語っている」のだ。これはまさに増山の写真とも共通しているのではないだろうか。徳山村の顔見知りの人たち、見慣れた風景、毎年繰り返される行事に倦むことなくカメラを向けることによって、彼女はそこに起った出来事すべてを、「固有名詞」化して記憶し続けようとしたのだ。

2014/06/06(金)(飯沢耕太郎)

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西野康造 展「Space Memory」

会期:2014/06/07~2014/06/28

ARTCOURT Gallery[大阪府]

昨秋に、ニューヨークの4WTC(4 World Trade Center)のうち、槇文彦が設計した棟に直径約30メートルに及ぶ大型彫刻《Sky Memory》を設置した西野康造。本展は彼の初の作品集出版を記念して開催され、全長約28メートルに及ぶ《Space Memory》と、直径約6メートルのリング型作品(タイトルは同名)、4WTCの作品模型と設置工事を記録した映像などを展示した。巨大な《Space Memory》が、キャンティ・レバー方式により1点だけで支えられているのはマジカルな光景で、その構造美は圧巻と言うしかない。しかも本作は、空調の風に影響されてかすかに揺れるほど繊細なのだ。まさか画廊でこれほどの作品を見られるとは思わなかった。美術ファンはもちろん、建築関係者にも大きなインパクトを与えたのではなかろうか。

2014/06/06(金)(小吹隆文)

木梨憲武×20years

会期:2014/05/20~2014/06/08

上野の森美術館[東京都]

美術館前は長蛇の列だったが、たまたま招待券を持ってたんでスルーパス。館内もすごく混んでいて、VOCA展のオープニングの10倍はいたかな。平日の午後なのに、しかも芸術家ではなく芸人の個展なのに。いや芸人の個展だから混んでたんですね。でも思ったより悪い展覧会ではなかった。作品は絵画が中心で、樹木や植物から派生した抽象パターン、アルファベット、天体らしきもの、各地を訪れたときのスケッチ、絵具チューブを集積した立体、デザイナーとコラボレーションしたCGなど多彩だ。描きたいものを自由に描く──言うはやさしいが、描いてるうちによく見られたい、高く評価されたいと思い始め、妙に技巧に走ったり、二科展に出したりするのが芸能人の陥りやすい落とし穴だ。ちやほやされてついその気になり、みずからハードルを上げてしまい、自由に描けなくなる。こういうのを本末転倒という。もちろん木梨もただ無邪気に描いてるわけでなく、見る人の反応は考えているだろうけど、初期の「描く喜び」を忘れていないことは作品から伝わってくる。なによりウザい上昇志向や勘違いがなく、「これでいいのだ」と納得しているところが清々しい。

2014/06/04(水)(村田真)

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「新印象派──光と色のドラマ」記者発表会

会期:2014/06/04

東京都美術館講堂[東京都]

壇上には東京会場の都美術館の真室佳武館長と、大阪会場のあべのハルカス美術館の浅野秀剛館長が並んだが、キマジメにごあいさつをする真室館長に対し、浅野館長は展覧会そっちのけであべのハルカスとハルカス美術館の話ばかり。せっかく上京したんだから宣伝しとかなくちゃね。肝腎の展覧会については都美術館の学芸員から解説があったが、総監修も監修もフランスの美術史家が務めてるため、通り一遍の紹介。もちろんスーラの《アニエールの水浴》も《グランド・ジャット島の日曜日の午後》も来ないけど(後者の部分的習作は来る)、それでもスーラだけで計7点、ほかにシニャック、エドモン・クロス、ヤン・トーロップらの作品が見られるし、「科学との出会い──色彩理論と点描技法」に1章が費やされるのも楽しみ。最後に、ハルカス展望台のキャラクター「あべのべあ」と上野駅のキャラクター「エキュート上野パンダ」が仲よく登場。上野パンダはなんの芸もないただの白黒パンダだが、あべのべあは空色のクマの体に雲が漂うシュールな着ぐるみ。それぞれアカデミズムと新印象派を象徴してるんだろうか。

2014/06/04(水)(村田真)