artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
プレビュー:国際現代アート展なら2014:後期特別展 美の最前線・現代アートなら~素材と知の魔術~
会期:2014/06/14~2014/07/21
奈良県立美術館[奈良県]
奈良出身あるいは在住の7人の美術家──菊池孝、絹谷幸太、下谷千尋、竹股桂、ふじい忠一、森口ゆたか、三瀬夏之介──による現代美術展。古代・古典美術へのオマージュや、素材との交感がテーマに掲げられており、絵画、立体、映像など幅広い表現が見られる。会場の奈良県立美術館は近世・近代の企画展が主流で、現代美術が取り上げられるのは珍しい。しかし新たなファン層を開拓するためには、現代美術展を増やしていく必要があるだろう。本展の成否は今後の同館に少なからず影響するに違いない。
2014/05/20(火)(小吹隆文)
プレビュー:杉浦康益 展 陶の博物誌─自然をつくる─
会期:2014/06/07~2014/08/03
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
植物をルーペで詳細に観察し、その内部構造に至るまで精緻に再現した《陶の博物誌》などで知られる陶芸家・杉浦康益。関西で彼の作品をまとめて見られる機会がやってきた。本展では、会場の西宮市大谷記念美術館が所蔵する《陶の博物誌》シリーズ27点を中心に、初期を代表する《陶の岩》、1994年から始めた《陶の木立》などのインスタレーションを展示し、杉浦の業績を紹介する。陶オブジェに興味がある人は見逃せない機会だ。
2014/05/20(火)(小吹隆文)
リトルアキハバラ・マーケット──日本的イコノロジーの復興
会期:2014/05/10~2014/05/05
A/Dギャラリー[東京都]
これは驚き、この春の卒業制作展で話題になった東北芸工大の久松知子さんの大作《日本の美術を埋葬する》がメインビジュアルに使われている! さっそく行ってみて驚いた。久松と同じ卒業制作展に出していたハタユキコの《ワンダフルニッポン》も展示されてるではないか。同展は、カオス*ラウンジが「架空の都市『LITTLE AKIHABARA』で復興されるコミックマーケットをインスタレーションとして作品化する」というもの。展示はカオス状態でなにがなんだかわからないけど、とにかくにぎやかで楽しめた。
2014/05/19(月)(村田真)
山村幸則 個展「Thirdhand Clothing 2014 Spring」
会期:2014/05/03~2014/05/25
1,000着の古着と映像によるインスタレーション。壁に投影された映像には、作家本人が1,000着のなかから9着を身につけて、ただまっすぐに歩く姿111パターンが映し出されている。着方は出鱈目。前後、左右、上下、袖、裾、襟、ズボンもジャケットもお構いなしにとにかく身に纏う。ある時は服が片方の肩にこんもりと積み重なり、ある時は首回りから幾重にも垂れ下がる。これでは、たとえ一点一点は服の形状をしていてもその機能は本来の服のものとはいえない。それでもその全身姿は、民族衣装で着飾ったどこか見知らぬ国の人のようで、静かな落ち着きと美しい調和が感じられる。その要因は、組み合わせる古着の色合いがある程度統一されていること以上に、それを着る人物の風貌にあるように思う。
山村は、現代美術家としてのおよそ20年間のキャリアのほとんどを滞在制作に費やしてきた。近年、アーティスト・イン・レジデンスはさほど珍しくはないが、彼の場合、実施した数と地域が尋常ではない。日本国内にはじまり、ノルウェー、アメリカ合衆国、タイ、イラン、ケニア、ドイツ、ポーランド、中国等、世界を股にかけてきた。その場所にふさわしい作品を現地の人々とのふれあいのなかで制作するのが彼のスタイルだ。山村は、美術家であり、旅人なのである。
今回の個展では神戸の老舗古着屋「古着ルネッサンス楽園」から古着を借用したという。古着といっても、業者の扱うものは店頭に並ぶ前にひととおりの処理を終えていて、以前にそれを着用した人の名残はほとんど感じられない。古着として、今、神戸で売られていることも、かつての持ち主の知るところではないだろう。主人をなくし、あちこちを巡り、海を渡って、それでも衣服として生きながらえて次の持ち主に着られるのを待っているのである。作家だけではなく、服もまた旅路にある。古着「Secondhand Clothing」を、山村は自らが袖を通すことによって「Thirdhand」にするという。旅人、山村と、旅する服の一時の出会い。会場では、誰でも展示された古着を購入して「第四の着手」になることができる。[平光睦子]
2014/05/18(日)(SYNK)
プライベート・ユートピア ここだけの場所 ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国現代美術の現在
会期:2014/04/12~2014/05/25
伊丹市立美術館[兵庫県]
本展は、ブリティッシュ・カウンシルが所蔵する英国現代美術コレクションを紹介する展覧会だ。チャップマン兄弟、コーネリア・パーカー、サイモン・スターリング、ライアン・ガンダー、グレイソン・ペリー、サラ・ルーカスなど1990年代以降に登場した作家が目白押しで、とても贅沢なラインアップだった。筆者自身が惹かれたのは、マーティン・ボイスの作品だ。彼はモダン・デザインの定番であるアルネ・ヤコブセンの椅子を解体してモビールを制作し、モダニズムの現状を皮肉った。しかし、本展の作品は彼のように読み解きやすいものばかりではない。英国の文化や社会的背景を前提にした表現が少なからずあり、ハードルの高さを感じたのも事実である。それでも自国の現代文化を積極的に海外に広めていく姿勢には共感を覚える。日本政府も同様の試みを戦略的に行なってほしい。
2014/05/18(日)(小吹隆文)