artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ゴー・ビトゥイーンズ展 こどもを通して見る世界
会期:2014/05/31~2014/08/31
森美術館[東京都]
1階下(森アーツセンターギャラリー)の「こども展」に合わせた企画なのか、「こども展」がモネやルノワールやピカソらモダンアートの巨匠による子どもを描いた絵なのに対し、こちらは子どもをモチーフにした現代美術の展示。奈良美智の絵画を例外として写真や映像が大半を占めるのは、メディアが多様化してるからというより、一筋縄ではいかない子どもの多面性を表現するためであり、子どもを捉えるアーティストの視点そのものが多様化したからでもあるだろう。たとえば、養子縁組した白人男性とアジア人の娘のツーショットを撮ったジャン・オーの「パパとわたし」シリーズを見て、禁断のエロティシズムを感じるのはぼくだけではないはずだ。ひととおり見終わった後に残るのは、カワイイとか無邪気といった陳腐な子どものイメージからはほど遠い、孤独でエロティックで生死の境をさまよう壮絶なイメージなのだ。たしかに子どものときってそうだったよな。
2014/05/30(金)(村田真)
谷澤紗和子展「よすがのもり」
会期:2014/04/07~2014/05/29
森林食堂[京都府]
巨大なインスタレーション作品を中心にこれまで多彩な表現手法による制作活動を行ってきた谷澤紗和子。2012年、大阪府立中之島図書館で開催された個展「ミンハメグリ」で谷澤がつくりあげた大型の切り絵によるインスタレーション空間は、壁面や床で心もとなく揺れる動物モチーフや模様の影の様子が美しく、印象に残っている。谷澤は東日本大震災直後に体験した感覚を機に「妄想/想像力の開放」を作品制作のテーマに取り入れるようになったという。今回個展を行っていたのは、カレーのケータリングチームとして関西の各アートイベントでも活躍している「森林食堂」の店舗。会場には、スペースを仕切るカーテンのように、和紙を素材にした大型の切り絵作品が展示され、小品も棚など店内の調度品に展示されていた。繁茂する植物や生き物のモチーフ、装飾的なパターンが連なる左右反転の切り絵作品は、表と裏、図と地、内側と外側のどれにもそれぞれ表情と趣きがあり、眺めていると物語の連想も掻き立てられていくから愉快。次回の発表も楽しみだ。
展示風景
展示風景 壁面
2014/05/29(木)(酒井千穂)
特別展「武家のみやこ 鎌倉の仏像 ─迫真とエキゾチシズム─」
会期:2014/04/05~2014/06/01
奈良国立博物館[奈良県]
鎌倉地方の仏像が関西でまとまって展示される初めての機会。鎌倉国宝館に寄託・所蔵される仏教彫刻、仏教絵画をはじめ、近隣の寺社の仏像が一堂に会し、奈良から鎌倉に根付いた仏像様式の多様な展開が紹介された。康慶にはじまる慶派の仏師たちも活躍した鎌倉は禅宗文化がいち早く浸透し、中国風の作品も次々と生みだされた土地。それゆえにこの地域にはヴァリエーションに富んだ仏像彫刻が残されているそうなのだが、今展出陳の仏像は実にどれもが個性的。会場で特に見蕩れてしまったのは、しなやかな体の曲線が蓮華を握る指先まで美しく表情に気品をたたえた浄光明寺の《観音菩薩坐像》。そして何と言っても頭の上に十二支獣を載せた《十二神将立像》だった。像高40センチ前後という小像なのだが、ポーズや十二支動物の特徴をよく表わした各像の顔の表情など、活き活きとした雰囲気がどれも見事。作者の造形力と想像力の豊かさが如実に表われていた。鎌倉の仏像の知識などほとんどない私だが、心奪われる感動を味わえた素晴らしい展覧会だった。
2014/05/28(水)(酒井千穂)
ノスタルジー&ファンタジー──現代美術の想像力とその源泉
会期:2014/05/27~2014/09/15
国立国際美術館[大阪府]
ノスタルジー(郷愁)とファンタジー(幻想)をキーワードに、横尾忠則、北辻良央、柄澤齊、棚田康司、淀川テクニック、須藤由希子、山本桂輔、小西紀行、小橋陽介、橋爪彩の仕事を紹介。展示形式は、作家ごとに空間を区切る個展の集合体だった。考えてみれば、本展のキーワードはあらゆる美術家が大なり小なり持つ要素であり、キュレーター次第でいかようにもアレンジできる便利な言葉と言える。展示方法も作家同士の世界が交わることがなく、展覧会全体よりも個々の展示に関心が向いたのは仕方ないだろう。実際、作家たちは力の入った展示を見せてくれた。特に、山本桂輔、小橋陽介(画像)、淀川テクニックはパワー全開で圧倒的された。彼らとは対照的に、あえて点数を絞り、密度の濃い空間をつくり上げた棚田康司も印象に残った。
2014/05/26(月)(小吹隆文)
通崎睦美選 展「通崎好み──コレクションとクリエイション」
会期:2014/05/20~2014/06/29
東大阪市民美術センター[大阪府]
通崎睦美は音楽家である。その事実をあらためて実感させられる展覧会であった。
本展は二会場構成。第一会場には、銘仙きもの、はきもの、半襟などのアンティーク・コレクションと、アーティストたちとの共同作業で誕生した浴衣ブランド・メテユンデ関連の展示、須田剋太と小磯良平による幼少期の通崎の肖像画、谷本天志による新作のきものなど、「通崎好み」のものが賑かに溢れている。全体を見渡すと、文字通り「好み」としか言い表わしようがないものの存在がたしかに感じられる。アンティーク着物のコレクターとして、文筆家としての通崎の旺盛な活動に触れるといつもその多才ぶりに驚かされるが、そこから浮かび上がってくるのは独特の美意識であり、しかも日々の生活のなかで磨かれてきた活き活きとした美意識である。アサヒビール大山崎山荘美術館での展覧会 から10年を経て、その美意識がいっそう明確にいっそうシンプルに見えてきたように思う。
とはいえ、本展での発見は第二会場にあった。ここには、昨年上梓された通崎睦美『木琴デイズ──平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』(講談社、2013)にまつわるものが展示されている。同書は昭和期にアメリカと日本で活躍した木琴奏者・平岡養一の人生を綴ったドキュメンタリーである。執筆のために収集された各種資料や、当時の木琴人気を物語る玩具や楽譜などが展示されている。ことのきっかけは通崎と平岡の木琴との出会いにあったという。楽器を、音を、演奏を介して、音楽家同士、通じ合うものがあったのである。会場では、第一会場にあった楽しさや親しさは気配を鎮め、少しばかり近寄りがたい静かな集中力が感じられた。
音楽は目に見えない抽象的なもの。そして音楽の演奏はライブ、まさに生き物で、その場で体験することしかできない。そんな刹那の世界と、時を超えて、色や形、質や量をもって存在するアンティーク着物の世界、本展ではその二つの世界を併せ持つ通崎睦美の世界に触れることができる。[平光睦子]
2014/05/26(月)(SYNK)