artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
杉浦康益 展「陶の博物誌─自然をつくる」
会期:2014/06/07~2014/08/03
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
石や岩を写し取ったかのような《陶の石》と《陶の岩》、大規模なインスタレーションである《陶の木立》、花や実を詳細に描写した《陶の博物誌》などの陶製オブジェ作品で知られる杉浦康益の個展。筆者は彼の作品を見た経験が少なく、《陶の博物誌》以前の仕事を見られたのが収穫だった。《陶の岩》は、まるで本物かと思うほどリアルだったが、陶以外でも可能な表現ではなかろうか。一方、《陶の木立》は、大規模なインスタレーションでありながら、ディテールを見ると陶ならではの質感が感じられた。そして、本展で最も見応えを感じたのは《陶の博物誌》であった。花や実を徹底的に観察し、その内部構造まで精緻に再現した本作は、陶である必然性云々を超え、作家の執念すら感じられるほどだった。
2014/06/10(火)(小吹隆文)
田中信太郎 岡崎乾二郎 中原浩大「かたちの発語展」
会期:2014/04/25~2014/06/22
BankART Studio NYK[神奈川県]
BankART Studio NYKの「かたちの発語展」を訪れる。田中信太郎、岡崎乾二郎、中原浩大のかたちへの思索をめぐる作品を紹介するものだ。世代やアプローチの違う作家を組み合わせるキュレーションが興味深い。カタログも、三人それぞれに濃い内容だ。形態の模索ゆえに、建築やデザインなど、異ジャンルへの補助線も引ける。例えば、田中と倉俣史朗。あるいは、漢字と建築をテーマにしたヴェネツィア・ビエンナーレ建築展の日本館における岡崎の作品。
2014/06/08(日)(五十嵐太郎)
荒木経惟「左眼ノ恋」
会期:2014/05/25~2014/06/21
Taka Ishii Gallery[東京都]
一時、体調が悪くなり、作家活動が続けられるかどうか危ぶまれた荒木経惟だが、予想していた通りしぶとく復活してきた。74歳の誕生日にスタートした今回の「左眼ノ恋」展でも、さまざまな工夫を凝らして健在ぶりを強く印象づけている。
「左眼ノ恋」の英語タイトルは「Love on the Left Eye」。これはむろん、オランダのエド・ファン・デル・エルスケンの名作写真集『Love on the Left Bank(セーヌ左岸の恋)』(1956年)のもじりである。荒木は昨年10月に、網膜中心動脈閉塞症という病で右眼の視力を失った。そんな非常事態すらも、作家活動に取り込んでしまうのが荒木の真骨頂で、今回の作品ではカラーフィルムの右半分を黒マジックで塗りつぶして、「左眼ノ恋」と洒落のめして見せたのだ。本来はおさまりのいい構図だったはずの「恋人(こいじん)」のKaoriのヌードや街の情景、カメラを構えるセルフポートレートなどが、黒のパートに侵食されることで、不安定な揺らぎを抱え込むことになる。さらに黒塗りの一部にひび割れが生じたり、塗り残されていたりして、画像の一部がちらちらと見える。想像力を喚起するそのあたりの効果も計算済みということだろう。
今年は豊田市美術館の「往生写集──顔・空景・道」をはじめとして、国内外の数カ所で新作の展示が予定されている。いかにも荒木らしい実験意欲が、まったく衰えていないことがよくわかった。
2014/06/07(土)(飯沢耕太郎)
Konohana's Eye ♯4 小出麻代 展「空のうえ 水のした 七色のはじまり」
会期:2014/06/06~2014/07/20
the three konohana[大阪府]
筆者にとって小出麻代の作品といえば、昨年に京都のLABORATORYで披露したインスタレーションが思い浮かぶ。鏡、紙、版画、鉛筆、待ち針などの、薄い、軽い、小さいものを、カラフルな糸や電気コードでつなぐことにより、繊細かつ起伏に富んだ空間をつくり上げたのだ。本展の新作でもその傾向は変わらず、構成力の高さも相変わらずであった。そして、各要素を繋ぐ糸の存在が、彼女の表現の核であることを実感した。また本展では、青写真の版画作品という新たな要素も加わっていた。これは、昨年に彼女が英国・マンチェスターに短期留学した際に身につけた新たな表現方法だ。単体でも魅力のある表現なので、今後の展開が期待できる。
2014/06/07(土)(小吹隆文)
白川昌生 ダダ、ダダ、ダ──地域に生きる想像☆の力
会期:2014/03/15~2014/06/15
アーツ前橋[群馬県]
群馬在住の異才アーティスト、白川の初の大規模な個展。白川昌生(芳夫)というと、70年代にフランスとドイツに留学して「日本のダダ」を研究し、帰国後は赤城山麓に引っ込んで制作と著述に専念してきたことくらいは知っているけど、作品の全容を見る機会はなかった。今回は、ヨーロッパ滞在中に記したコンセプトノートから、「日本のダダ」の関連資料、ちょっと構成主義的な立体、地元の祭りのために制作した木馬、スノボを用いたインスタレーション、若いアーティストたちとのコラボレーションまで並んでいて、とても刺激的。展覧会の終盤で唐突に岡本太郎を思い出した。太郎も白川も若いころヨーロッパで苦学し、帰国後ほとんど孤軍奮闘した点で重なるけれど、ぼくが太郎を思い出したのはそんな理由ではなく、白川が60歳近くになってスノーボードを始め、スノボを使った作品までつくっているからだ。太郎も中年をすぎてからスキーを始め、メキメキと上達して玄人はだしの腕前を見せ、スキーに関する著書も残している。ふたりともスキー(スノボ)が好きーって話ではなく、アートとは一見なんの関係もない「雪遊び」にハマった好奇心のありようが共通していると思ったのだ。
2014/06/06(金)(村田真)