2021年12月01日号
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artscapeレビュー

ホンマタカシ「Pinhole Revolution / Architecture」

2013年11月15日号

会期:2013/09/19~2013/10/26

TARO NASU[東京都]

以前、ホンマタカシのなかには「写真家」と「編集者」という二つの人格がせめぎ合っており、時にそのバランスが崩れることがあると指摘したことがある。その議論を踏まえれば、今回TARO NASUで展示された新作の「Pinhole」シリーズでは、うまくそのバランスがとれているのではないかと感じた。
ピンホール・カメラは言うまでもなく写真機の原型というべき装置である。写真の歴史は、壁に開けられた小さな穴から外界の姿を反対側の壁に逆向きに投影し、その形状を画家たちが筆でなぞることから開始された。さらに1970年代には、現代美術アーティストの山中信夫が、自室の壁に印画紙を貼り巡らせて撮影した「ピンホール・ルーム」のシリーズを発表しており、近年も宮本隆司や佐藤時啓がピンホール・カメラの原理を作品に適用している。ホンマの新作シリーズでは、そのような写真史的な事項を巧みに引用しつつも、実際にさまざまな部屋にピンホールを仕掛けて、撮影、プリントする作業を心から楽しんでいるように見える。「写真家」としてスリリングな画像の形成過程に立ち会うことの歓びが充分に伝わってきた。TARO NASUに併設するスペースtaimatzで、実際にピンホール写真を撮影し、その場にインタレーションするという試みも非常に興味深いものだった。
展覧会のプレスリリースに以下のようなことが書いてある。ピンホール・カメラの撮影では、被写体にピントを合わせたり、フレーミングしたりすることはない。だから「これらは、どちらも被写体の(あるいは撮影者の)主体性を極力取り除き、あるがままの姿を映し出そうとする試みです。そしてこの作品における『主体性の欠如』こそ、ホンマタカシ“独特”の写真世界を形成する主要素であるという二律背反が、ホンマの作品の世界をより奥深いものにしていくのです」。
これはまったく違っていると思う。「Pinhole」シリーズをやろうと決め、該博な写真史的な知識を駆使し、単純に壁に穴をあけて光を取り込むだけでなく、わざわざ「REVOLUTION」という文字を鏡文字にして配置し、ロバート・フランクの1978年の作品「Sick of Goodby’s」を引用する──これらの操作に、ホンマタカシの「主体性」はあざといほど強烈にあらわれている。それこそ、「編集者・ホンマタカシ」の面目躍如たる部分であり、彼自身、被写体の「あるがままの姿」を捉えようなどとはまるで思っていないはずだ。
なお「Pinhole」シリーズのほかに、2002年頃から建築物の窓からの眺めを撮影し続けている「Architectural Landscapes」のシリーズも展示してあった。確かに「Pinhole」シリーズとネガ/ポジの関係にあるシリーズと言えそうだが、むしろ狙いが拡散してしまうように感じられた。

写真:Pinhole Revolution/Architecture series
© Takashi Homma Courtesy of TARO NASU

2013/10/22(火)(飯沢耕太郎)

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