artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
『Casabella Japan』775号
発行所:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン
発行日:2009年4月25日
たまにカサベラ誌を広げることを楽しみにしている。というのもグローバル化が進むなか、誰もが同じような情報を受け取っていると恐ろしいと感じつつあるのだが、まったく違うコンテクストのなかで、やはり建築が生まれつつあるということを、再確認できるからである。独自の時間軸をもったメディアであるともいえるのだろうか。基本的に南欧とモダニズムをベースにした建築が取り上げられる傾向にあり、最近ネットでよく見かけるような、いわゆるアイコン的建築は少ない。大判の写真のよく似合う、いわばネット化されにくい建築であるといえるかもしれない。本号も、イベリア&イタリアといった特集があり、ミース以降のIITキャンパスについてマイロン・ゴールドスミスが取り上げられるなど、カサベラらしい路線が貫かれている。編集長であるフランチェスコ・ダル・コー自身の方向性が強く現われている雑誌であるのだろう。他の建築メディアと比較してみた時、ある人は「遅れている」と感じるのかもしれない。けれども、ヨーロッパ、特にイタリアにおける独特の時間の流れは、異なるベクトルに沿って進むような時間軸であって、リニアな時間の座標軸だけでは理解が難しいのではないだろうか。そういう可能性を感じさせるカサベラ誌に、部分的に日本語訳したリーフレットがついているのがカサベラ・ジャパンであって、現在日本語で読める建築メディアのなかで、もっともグローバルな動きと距離を置くメディアの一つではないかと思う。とはいえ、グローバルな動きとはいっても、それは相対的なものに過ぎないのだが。
2009/04/25(土)(松田達)
頭山ゆう紀『さすらい』/『境界線13』
- さすらい
- 発行所:アートビートパブリッシャーズ
発行日:2008.11.13 - 境界線13
- 発行所:赤々舎
発行日:2008.11.13
ずいぶん前に買っておいた本だが、頭山ゆう紀の2冊の写真集をじっくり見直した。『さすらい』は「東京での出来事にうんざり」していた時、たまたま京都行きの話があり、そのまま過ごした時間、出会った人たちを撮影して封じ込めたもの。『境界線13』は「1人の女の子が、境界線は消えたと歌い、死んだ」という出来事を背骨に、身のまわりにカメラを向けた写真集。モノクローム、やや広角気味のレンズ、左右に少し傾きがちな画面など、基本的なスタイルが同じなので、別々に論じる意味はあまりなさそうだ。
こういう「生」に密着した私小説写真は特に珍しくもないし、これまでもうんざりするほど見てきた。にもかかわらず、頭山の写真が目と心にひっかかってくるのは、基本的に被写体を見つめる姿勢がよく、写真の骨格がしっかりしているからだろう。特に何かに押し潰されるように脱力して、横たわる姿勢をとる人物たちを撮影すると、彼らの存在そのものから滲み出る倦怠や疲れが、写真の中を緩やかに漂い、巡っていくようで「ほお」と声を挙げたくなる。
とはいえ、ここから先がむずかしいところで、「ここで過ごした時間は写真というカタチに濃縮され、これからもここに存在し続ける」(『さすらい』)とか「“時間”と“存在”は静かに闇となって光り続ける。そしてまた新たにここから始まるのだろう」(『境界線13』)といった、ありきたりの「感想」で留まっていると、先細りになるだけだろう。“時間”とか“存在”とかいった言葉が出てきたところで安心していないで、ではその“時間”は自分にとってどんな“時間”なのか、“存在”はどういうカタチをしているのか、しっかり確認しながら進んでいかないと、姿勢のよさだけでは次につながっていかない。両写真集に跋文を寄せている石内都のしつこさを見習うべきではないだろうか。
2009/04/16(木)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2009年4月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
第1回恵比寿映像祭 オルタナティヴ・ヴィジョンズ“映像体験の新次元” カタログ
2009年2月20日〜3月1日に行われた恵比寿映像祭のカタログ。全フロアを使っての展示(アンディ・ウォーホル、ブルース・コナー、クリス・バーデンほか)、会期中に上映された作品、ライヴなどのイベントの詳細に加えて、映像祭に先駆けて行なわれた「映像をめぐる7夜」についても収録。
Daido Moriyama: Hokkaido 森山大道写真集『北海道』
2008年12月19日〜2009年2月8日までRAT HOLE GALLERYにて行なわれた同名の展覧会に合わせて出版された写真集。
1978年初夏、田本研造を中心とした開拓写真師達の〈写真〉に触れ、北海道に漠然とした思いを抱いていた森山大道は、札幌に3ヶ月間アパートを借り撮影を行なった。これまでほとんどプリントされることなく眠り続けていた膨大なネガのなかから抜粋された300点以上の写真を掲載。
Exhibition as media 2008「LOCUS」記録集
2008年11月1日〜24日まで開催された同名展覧会の記録集。展示・イベント風景のほか、会期中に行われたゲストトーク及び出品作家による座談会を収録。
1 floor 2008「No potato of name」記録集
2008年8月23日〜9月7日まで開催された同名展覧会の記録集。1980年代生まれの若手作家3名(青田真也、八嶋有司、吉田周平)の展示風景及び作家インタビューを収録。
Buku Akiyama
Composition No.2 “an exceptional state”: with equipments owned by hiromiyoshii
2008年4月5日〜5月2日にFARMにて開催された展覧会カタログ。秋山ブクによるインスタレーションの様子を80頁に渡って収録。
現代建築家コンセプト・シリーズ4 西沢立衛│西沢立衛建築設計事務所スタディ集
手書きのスケッチ、図面の断片、走り書きのメモ、ラフ模型、フォトコラージュ、ダイアグラムなどで構成される西沢事務所のスタディ集。さまざまなアイデアの断片と幾多ものスタディ案によって、建築を創造する瞬間のダイナミズムが再現される。[INAX出版サイトより]
2009/04/15(水)(artscape編集部)
阿部大輔『バルセロナ旧市街の再生戦略』
発行所:学芸出版社
発行日:2009年2月28日
バルセロナ建築高等研究院にて、スペインの都市計画を研究した阿部大輔氏による初の著作。バルセロナは1992年のオリンピック以降、都市再生の成功が注目を集める。その旧市街地を再生に導いた都市計画の詳細を、はじめて日本語で解き明かしたのが本書である。過去の研究者が少なかったためか、また言語の問題もあったのか、これまでスペインの都市計画が日本で紹介されることはほとんどなかった。日本は明治以降、主にイギリス、ドイツ、アメリカの都市計画を輸入してきたからでもある。しかし、バルセロナの都市政策は、例えば1999年に王立イギリス建築家協会(RIBA)から、都市として初めてゴールド・メダルを受賞するなど、現在ヨーロッパ中で高い評価を得ている。
阿部が注目したのが「旧市街地の多孔質化」である。単に小広場をつくって空間的に多孔質化をするといったハードの側面だけではない。人々がその空間を継続的に使っていくため、いかにしてアクティヴィティのネットワークをつくっていくのかといったソフトの側面の重要性も強調する。「ミクロの都市計画」として、部分から全体へとつながっていく都市計画を実践するための多様な可能性が触れられている。バルセロナの歴史的な経緯や事業としての計画も含めた広い視野のなかで、単なる都市計画の紹介ではなく、戦略的なまちづくりとはいかにあるべきかといった、より高次な問題にも接続する。「都市全体を公共空間」と捉え、質の高い公共空間の密度を高めていくバルセロナの方法論は、日本の各自治体、まちづくりに関わっている人々にとって、重要な参考例となるだろう。
ところで、本書は文献のみを参照して書かれた本ではなく、あとがきで触れられているように、バルセロナの旧市街地のさまざまな都市の匂いを知ることによって初めて生み出された本である。旧市街地に惹き付けられ、4年にわたり街路の隅々まで歩き続けた阿部だからこそ書けた、都市的重層性を帯びた渾身の著作だ。
2009/03/31(火)(松田達)
『dA(Document on Architecture)』issue_006 流動性
発行所:田園城市文化事業有限公司(Garden City Publishers)
発行日:2006年
台湾の建築雑誌。創刊は2003年で、テキストは繁体字中国語。本号の特集タイトルは「流動性 Fluidity」で、伊東豊雄を中心として、妹島和世+西沢立衛、小嶋一浩+赤松佳珠子らの建築が取り上げられている。この号は、東海大学(台湾)の曽成徳氏(Chuntei David Tseng)、亜洲大学の謝宗哲氏(Hsieh Tusng-Che)らが全面的に編集に携わったという。
まず出版社について触れておきたい。名前からも伺えるように(日本語であれば、田園都市)、建築・都市関連を中心に、デザイン、ファッション、アート、写真関連の書籍を多く出版している。ル・コルビュジエの『ユルバニスム』が訳されているなど翻訳も多彩だ。日本の建築書の翻訳も多い。『dA』はこの田園城市出版が出す現在唯一の建築雑誌である。
この6号を、台中の東海大学にて謝宗哲さんから頂いた。編集への力の入れ方がすごい。表紙は台中オペラハウスの形態を模して開口部も空けたもの。特集の内容は、日本だと数冊分になりそうなくらい、いわば美味しいとこ取りの作品が詰め込まれている。写真の使い方にも、編集へのこだわりが感じられる。日本の建築学生は、「この本、翻訳されないんですか?」と訊いていたが、逆輸入したくなるくらいの内容だったともいえる。個人的には、妹島和世+西沢立衛に「白色的曖昧」、小嶋一浩+赤松佳珠子に「越境的理由」というサブタイトルが付けられていたのをみて、漢字文化圏の可能性を感じた。理解が出来る。そして日本語と中国語の中間的な不思議な響きを感じた。
2009/03/27(金)(松田達)