artscapeレビュー
『Casabella Japan』775号
2009年05月15日号
発行所:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン
発行日:2009年4月25日
たまにカサベラ誌を広げることを楽しみにしている。というのもグローバル化が進むなか、誰もが同じような情報を受け取っていると恐ろしいと感じつつあるのだが、まったく違うコンテクストのなかで、やはり建築が生まれつつあるということを、再確認できるからである。独自の時間軸をもったメディアであるともいえるのだろうか。基本的に南欧とモダニズムをベースにした建築が取り上げられる傾向にあり、最近ネットでよく見かけるような、いわゆるアイコン的建築は少ない。大判の写真のよく似合う、いわばネット化されにくい建築であるといえるかもしれない。本号も、イベリア&イタリアといった特集があり、ミース以降のIITキャンパスについてマイロン・ゴールドスミスが取り上げられるなど、カサベラらしい路線が貫かれている。編集長であるフランチェスコ・ダル・コー自身の方向性が強く現われている雑誌であるのだろう。他の建築メディアと比較してみた時、ある人は「遅れている」と感じるのかもしれない。けれども、ヨーロッパ、特にイタリアにおける独特の時間の流れは、異なるベクトルに沿って進むような時間軸であって、リニアな時間の座標軸だけでは理解が難しいのではないだろうか。そういう可能性を感じさせるカサベラ誌に、部分的に日本語訳したリーフレットがついているのがカサベラ・ジャパンであって、現在日本語で読める建築メディアのなかで、もっともグローバルな動きと距離を置くメディアの一つではないかと思う。とはいえ、グローバルな動きとはいっても、それは相対的なものに過ぎないのだが。
2009/04/25(土)(松田達)