artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

動きのカガク展

会期:2015/06/19~2015/09/27

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

21_21デザインサイトの「動きのカガク展」は、動きをテーマにしていることから、ただ静止したモノを観覧する展示と違って、やはり会場が活気に溢れ、楽しい。鑑賞者の動きに合わせて、一斉に矢印が同期して同じ方向を向いたり、ゾートロープを装置越しに眺めると動画になるインタラクティブな作品などがある。毎回、ここの企画展で思うことだが、どこかの科学館での常設に組み込んで欲しい内容だ。日用品の影を街並みに見せるクワクボの作品も、初見なら絶対に感動するはずだ。

2015/08/02(日)(五十嵐太郎)

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グラフィックトライアル2015 織

会期:2015/06/06~2015/09/13

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

4人のクリエーターが、プリンティングディレクターと協働し、それぞれがオフセット印刷による表現の可能性を探る「グラフィックトライアル」。10回目となる今年のテーマは「織」。「布をおる」「組み合わせてつくりあげる」というコンセプトで、多様なトライアルに挑戦している。参加クリエーターは、永井一正、 橋正実、中野豪雄、 澤和の四氏。永井一正氏のトライアルは長年手がけているLIFEシリーズをモチーフに「命を織る」をテーマとした作品で、内側から光り輝くようなグラデーションの輪郭をもった抽象化されたかたちの動物たちが表現されている。輪郭は一見したところソフトウェアの単純な機能でつくられたグラデーションのように見えるが、データ上で正確であっても印刷では必ずしも滑らかに見えないために細かな調整が加えられ、さらに輝くイメージを作りあげるために、複数の特色やメジウムを刷り重ねている。 橋正実氏のトライアルは「光を織る─色を織る─」。ひとつは色の版を重ねることで糸で織り上げた布のようなふんわりとした立体感を表現した作品。立体的な布目文様を印刷することは容易だが、ここでは淡い色彩の面を重ねることで平織の文様を浮かび上がらせている。もうひとつは光のグラデーション。写真などを素材にさまざまな色の要素が滑らかに混じり合った色面を作りあげた。中野豪雄氏の試みは、これまでのグラフィックトライアルのなかでかなり異質なのではないだろうか。ポスターのモチーフは、東日本大震災に関連して日々のニュースに現われた言葉を収集したビッグデータを、2011年3月11日を起点として円形にプロットしたインフォグラフィクスで、情報の強度の差や時間の経過が刷り重ねられた版の層によって視覚化されている。トライアルの多くが、イメージの伝達や再現のためのテクニカルな手法にフォーカスするなかで、中野氏のトライアルは印刷技術自体を伝達するコンテンツのひとつの次元としてインフォグラフィクスに織り込んでいる。 澤和氏のトライアルは「花の印象」。アジサイをモチーフに、その姿の忠実な再現(実態)ではなく、人々が心に抱く花の印象(虚像)を画像を織り重ねることで表現し、透明なフィルムに刷ることで茫洋としたイメージをつくりあげている。
 9月18日からは、グラフィックトライアル10年間の作品210点を展示する展覧会が、東京ミッドタウン・デザインハブで開催される(グラフィックトライアル・コレクション2006-2015:第1部 2015/9/18~10/4、第2部 2015/10/8~10/24。URL=http://designhub.jp/exhibitions/1723/)。[新川徳彦]

2015/07/31(金)(SYNK)

交流するやきもの──九谷焼の系譜と展開

会期:2015/08/01~2015/09/06

東京ステーションギャラリー[東京都]

江戸初期のいわゆる古九谷から江戸後期の再興九谷、明治の輸出陶磁、そして現代作家の作品まで、九谷焼360年の歴史を、「交流」をキーワードとしてたどる展覧会。展示は6章に分かれている。1章は古九谷。古九谷についてはその産地を巡って論争が続いているが、ここでは加賀の地に伝世してきた品としての色絵磁器が紹介される。たとえそれがどの地でつくられた焼物であったとしても、青手の色絵が後の九谷の焼物に大きく影響を与えてきたことは間違いないからだ。また論争のひとつとして、素地移入説(伊万里などの無地の器に九谷で絵付けをした)や、鍋島家と前田家が姻戚関係にあり、それによって人や技術が交流した可能性が示唆される。2章は再興九谷。1655年に開かれた九谷の窯は、約50年後の1710年頃に廃絶する。その100年後に九谷の焼物を復興したのが若杉窯であった。若杉窯ではおもに染付芙蓉手の日用品のほか、赤絵や古九谷青手風の器がつくられていたという。古九谷の色絵磁器を本格的に復興させたのは、豪商吉田屋。私財を投じて1824年に吉田屋窯を開いて優れた職人を集め、古九谷に倣った色絵磁器を生み出していった。3章では吉田屋窯と、職人・粟生屋源右衛門の仕事に焦点が当てられている。4章は明治期の輸出陶磁。明治政府の殖産工業政策にのって、九谷では欧米への輸出を目的とした陶磁器が大量に生産されるようになった。これらの製品は欧米では「ジャパンクタニ」と呼ばれて人気を博したという。絵付は赤を中心に金彩を加えて微細に文様を施したものが中心で、私たちが九谷焼と聞いてイメージするおおらかな意匠の青手とはまったく異なる。展示品にはベルナール・パリッシーの作品を思わせる、半立体の装飾を施した器もある。1887(明治20)年の九谷焼生産額の80%は輸出向。製品は九谷から横浜に鉄道で運ばれ、海外へと輸出された。しかしこの輸出は世紀転換期には欧米の趣味の変化で減少し、また関東大震災で横浜の輸出商が壊滅的打撃を受けて輸出は衰退、ふたたび国内向けの製品へとシフトしていく。新しい展開を模索する中で九谷の初代德田八十吉は釉薬の研究によって表現の幅を拡げていった。また板谷波山や北大路魯山人は九谷焼に触れたことをきっかけに陶芸を初めたこと、富本憲吉が九谷で色絵の技術を習得したことなど、5章では近代の九谷焼とこれら作家たちとの交流が紹介される。6章は現代の九谷焼。初代から独自の釉薬の配合を学んだ三代德田八十吉による、色釉のグラデーションを用いた新たな九谷焼の表現の数々が並ぶ。
 意外なことに、このように九谷焼を通史でみる展覧会は初めて行なわれる試みなのだという。展示空間には興味深い工夫がなされている。展示全6章は、九谷焼を特徴付ける六つの色──緑・赤・黄・紫・紺青と金──と紐づけられて、解説パネルやキャプション、展示台の色に反映されている。エレベータを降りてすぐの3階第1室では九谷焼の歴史がダイジェストで紹介されている、広い空間を贅沢に使った構成には驚くと思う。図録の写真は三好和義氏、デザインはシルシの上田英司氏。[新川徳彦]

2015/07/31(金)(SYNK)

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戦争と学校──戦後70年をむかえて

会期:2015/07/04~2015/10/06

京都市学校歴史博物館[京都府]

第二次世界大戦の終結から70年を迎えた今年、戦争と人々の関わりをテーマとした展覧会が各地で開かれている。京都市学校歴史博物館「戦争と学校」展は、戦中戦後の学校教育と子どもたちの生活に焦点を当てた展示だ。教育勅語や奉安殿の写真、軍事教練など、その時代の学校や制度を象徴する知られた資料だけではなく、子どもたちの日常生活にも関わる多様な資料が出品されている。たとえば『あさのま』。京都府では戦前期の夏休みに『あさのま(朝の間)』という独自の課題冊子が子どもたちに配布された。「あさのま」は明治天皇の御歌「あさのまに もの學ばせよ をさな子も ひるはあつさに うみはてぬべし」に由来する。冊子表紙裏に掲載された御歌の下には、次のように学習のこころ構えが記されている。「やりませう すゞしい間につくえによつて。 その日のぶんはきつとその日に。 しせいを正しくして。 字は十分うつくしく。 できるだけ自分の力で」。これだけを見ると現代でも十分に通用する内容に思われるが、中の課題は「東亜の資源」であったり、「あなたの地元の氏神様」であったり、時代を直接に反映している。昭和17年に初等科1年生だった人物が保存していた学校時代の資料も興味深い。絵画は前年の父親の出征風景。習字の課題は「ウチテシ ヤマム」。3年生のときの作文は「兵たいさんへ」。先生による赤字がたくさん入っている。そのほか、父親が帰ってきたら見せるためにと綴りにした図画。その父親は南方で戦死(もしくは病死)している。終戦後、教えられる内容はがらっと変わり、6年生の習字の課題は『世界永遠平和』だ。教育というものの枠組みは大きく変わらないように見える一方で、そこで教えられる内容はいとも容易に変わりうるものなのだ。オーラルヒストリー、ヴィジュアルヒストリーの手法もありうるテーマだとは思うが、資料自体に語らせる展示構成はとても説得力のあるものになっている。[新川徳彦]

2015/07/25(土)(SYNK)

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アール・ヌーヴォーのガラス展

会期:2015/07/04~2015/09/06

パナソニック汐留ミュージアム[東京都]

ドイツの実業家ゲルダ・ケプフ夫人(1919-2006)が蒐集し、1998年にデュッセルドルフ美術館に寄贈したアール・ヌーヴォー期のガラス工芸コレクション約140点を紹介する展覧会。同コレクションがドイツ国外で展示されるのは初めてだという。展示はパリとアルザス=ロレーヌの二つに地域に分けて構成されている。パリの製品は、19世紀末、日本の浮世絵や中国の乾隆ガラスなど、東アジア地域から影響を受けた意匠。北斎の木版画から引用されたと考えられる布袋や鯉など、直接的な引用が見られる。ガレやドーム兄弟が活躍したフランス北東部ナンシーを中心とするアルザス=ロレーヌ地方では、東洋美術の影響を受けながらも、独自のスタイルのガラス器がつくられた。
 アール・ヌーヴォーの(アール・デコもだが)ガラスは日本でとても人気があり、ケプフ夫人のコレクションが日本に巡回するのもそれゆえと思われる。しかし、他方で日本国内には質・量ともに充実したコレクションがあり、もちろんフランスのナンシー美術館にも多くの優品が収蔵されている。そうしたなかでわざわざドイツのコレクションを見るのだから、ただアール・ヌーヴォーのガラスを楽しむだけではなく、このコレクションが形成された物語や特徴にも着目したい。ゲルダ・ケプフ夫人は、1888年に祖父が創業したGelita社──現在はゼラチンやコラーゲンの製造メーカー──の経営を継ぎ、1960年から75年まで取締役を務め、その後も80歳になるまで経営に携わっていた。ガラスを集めはじめたのは1960年代から。コレクションにガレの作品があることはもちろんだが、まだ評価が高くなかったドーム兄弟の作品にいち早く注目していたという。コレクションはアール・ヌーヴォーのガラスに絞られていたことを見れば、ケプフ夫人がその様式に魅せられていたことは間違いないが、館内で上映されている映像によれば、器形や図案以上にガラス製造の技術に関心があったようだ。その点を意識してコレクションを見てみると、器形に凝ったものは比較的少ないこと、昆虫や爬虫類を立体的なモチーフにしたグロテスクな作品が少なく、花や植物の意匠が多く見られることに気づく。解説によれば水に関連するモチーフのものが多く集められていたようだ。日本ではあまり知られていないデザイナーの作品が多いことも、技術への関心ゆえであろうか。パナソニック汐留ミュージアムの岩井美恵子学芸員が注目する作品のひとつは、エミール・ガレの《花器(カッコウ、マツヨイグサ)》(1899/1900年頃)。この器に用いられている「マルケトリ」という技法は、あらかじめ文様に切り出したガラス片をボディに象嵌する装飾技法で、ガレが木製家具の象嵌からガラス制作に応用し特許をとったもの。ガレの独創性を示す作品であると同時に、ケプフ夫人がその技術に関心を抱いたであろうことは想像に難くない。展示室はヨーロッパの美術館のようなしつらえ。数点の作品の展示ケースには特別な照明装置が仕込まれており、器を外側からと内側からと交互に照らし、ガラスならではの美しい効果を私たちに見せてくれる。[新川徳彦]

2015/07/24(金)(SYNK)

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