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戦争と学校──戦後70年をむかえて

2015年08月01日号

会期:2015/07/04~2015/10/06

京都市学校歴史博物館[京都府]

第二次世界大戦の終結から70年を迎えた今年、戦争と人々の関わりをテーマとした展覧会が各地で開かれている。京都市学校歴史博物館「戦争と学校」展は、戦中戦後の学校教育と子どもたちの生活に焦点を当てた展示だ。教育勅語や奉安殿の写真、軍事教練など、その時代の学校や制度を象徴する知られた資料だけではなく、子どもたちの日常生活にも関わる多様な資料が出品されている。たとえば『あさのま』。京都府では戦前期の夏休みに『あさのま(朝の間)』という独自の課題冊子が子どもたちに配布された。「あさのま」は明治天皇の御歌「あさのまに もの學ばせよ をさな子も ひるはあつさに うみはてぬべし」に由来する。冊子表紙裏に掲載された御歌の下には、次のように学習のこころ構えが記されている。「やりませう すゞしい間につくえによつて。 その日のぶんはきつとその日に。 しせいを正しくして。 字は十分うつくしく。 できるだけ自分の力で」。これだけを見ると現代でも十分に通用する内容に思われるが、中の課題は「東亜の資源」であったり、「あなたの地元の氏神様」であったり、時代を直接に反映している。昭和17年に初等科1年生だった人物が保存していた学校時代の資料も興味深い。絵画は前年の父親の出征風景。習字の課題は「ウチテシ ヤマム」。3年生のときの作文は「兵たいさんへ」。先生による赤字がたくさん入っている。そのほか、父親が帰ってきたら見せるためにと綴りにした図画。その父親は南方で戦死(もしくは病死)している。終戦後、教えられる内容はがらっと変わり、6年生の習字の課題は『世界永遠平和』だ。教育というものの枠組みは大きく変わらないように見える一方で、そこで教えられる内容はいとも容易に変わりうるものなのだ。オーラルヒストリー、ヴィジュアルヒストリーの手法もありうるテーマだとは思うが、資料自体に語らせる展示構成はとても説得力のあるものになっている。[新川徳彦]

2015/07/25(土)(SYNK)

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