artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

吉岡徳仁 スペクトル ─ プリズムから放たれる虹の光線

会期:2017/01/13~2017/03/26

資生堂ギャラリー[東京都]

いつものように資生堂ビルの階段を降りていくと、地下中2階に受付が移動している。ひょっとして入場料をとられるのではとアセったが、そんなことはない。移動した理由は階下に降りてみるとわかる。地下空間でスモークをたいているのだ(だからエレベータも使えない)。資生堂ギャラリーは奥の小さめの部屋と手前の大きめの部屋に分かれるが、奥の部屋に大きなパネルを立て、そこに透明な三角柱(プリズム)を3つ組み合わせたユニットを数十個並べ、裏から光を当てている。プリズムを通過した光は大きな空間の床や壁に小さな虹をたくさん生み出す。光源はわずかに動いているので虹も少しずつ動くという仕掛け。たいへんな装置だし、美しい光景を現出させるが、それだけ?

2017/01/20(金)(村田真)

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画と機 山本耀司・朝倉優佳/project N 66 村上早

会期:2016/12/10~2017/03/12

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

デザイナーと画家のコラボレーションで、2人の作品を混ぜながら展示する手法は面白い。が、内容の複雑さが増す分、もう少し解題が欲しかった。一方、上階の村上早の小展示は、完全に個人の世界で、説明なしでも、向こうから刺さってくる銅版画群だった。

2017/01/18(水)(五十嵐太郎)

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デザインの解剖展 身近なものから世界を見る方法

会期:2016/10/14~2017/01/22

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

デザインの方法論ではない。デザインの解説でもない。「デザインの解剖」である。すなわちデザインの腑分けである。すなわち、外側から内側へと順々に商品を構成する部位を取り出し、一つひとつをデザイン的な視点から分析してゆく。そういう展覧会である。「解剖」の対象は、株式会社明治の5つの製品──きのこの山、明治ブルガリアヨーグルト、明治ミルクチョコレート、明治エッセルスーパーカップ、明治おいしい牛乳。「解剖」のフォーマットはほぼ共通。最初に商品とその市場、歴史の解説からはじまり、ネーミング、ロゴタイプ、商品コピー、イラストレーション等々、表面的に観察可能な要素を分析する。ここまではよくあるデザインの展覧会だ。しかし「デザインの解剖」が解剖たるゆえんは、それが表面的な観察にとどまらないところにある。視点は商品の皮膚の下、すなわちパッケージの素材、構造、内袋・内蓋へと進み、中身──チョコレートや牛乳、アイスクリームなどの製法、組成の分析に至る。とくに最後のそれは一般的な意味での「デザイナー」による仕事ではないが、菓子、加工食品において、かたち、味、舌触り、食感もまた入念に「デザイン」されていることが示される。広義の「デザイン」は視覚だけではなく五感すべてに訴えるものなのだ。
グラフィックデザイナー・佐藤卓の企画による「デザインの解剖」シリーズの最初の展覧会は2001年。銀座松屋7階デザインギャラリー1953で開催された「デザインの解剖①=ロッテ・キシリトールガム」だ(今回は大人の事情によりこの「解剖」は展示されていない)。以来、富士フイルムの「写ルンです」や「タカラ・リカちゃん」等々の「解剖」が行なわれてきた(こちらは展示されている)。また佐藤は武蔵野美術大学の客員教授として、カリキュラムに「デザインの解剖」を取り入れている(本展でもその成果が紹介されている)。「解剖」の対象が私たちに身近な大量生産品であることや、外から内へと分析を進める手法はシリーズを通して変わらない。担当者へのインタビューがなされている部分もあるが、基本的には外部からの目線で考察されている。
本展で取り上げられている商品はいずれもロングセラーブランド。5つのうち最も新しい商品「明治おいしい牛乳」でも発売は2002年で、若干のデザイン修正を経ながらすでに14年にわたって売られ続けている。それゆえ5つの商品はいずれもデザインとしても成功していると言ってよいと思われる。しかしながら、興味深いことにここではデザインの理由は分析されても、その評価には言及されていない。これを、良いデザインには理由がある、と読むこともできるかもしれないが、それは本展の本質ではないだろう。展覧会導入部の解説パネルの佐藤卓によるテキストによれば、本展の意図するところは「ものを通して世界を見る」ための「方法」であり「OS」なのだ(改めて展覧会のサブタイトルを見よ)。「商品を外側からとらえていくと、商品と社会との関係を広くとらえること」ができ、「商品開発の歴史的な経緯、社会や市場の中での位置づけ、不特定多数の人々の嗜好、そして販売される国の言語や文化がなんらかの形で反映されていることが浮かび上が」る。ひとつの商品が世の中に出て行くまでにいったいどれほど多くの制約、要求を乗り越えていかなければならないのか。売られ続けていくなかでどのような変化が生じているのか。そうした制約や変化は、商品やパッケージ、それらの原材料を取り巻く環境、社会の変化、技術の変化にどれほど深く関わっているのか。作家性が強いデザイナーの仕事ではなく(もちろんデザイナー自身、時代と社会の産物ではあるが)、多くの人々がそれがデザインされているということを意識しないようなありふれた商品に焦点を当てて詳細に分析することによって、私たちは社会をより深く知ることができるのではないか。「解剖」のプロセスを順に追ったあとで、こんどは展示を逆順に見ていくと、本展がデザインを見せる展覧会であると同時に、「世界を見る方法」を「デザイン」したものであることがよく分かるだろう。[新川徳彦]

2017/01/16(月)(SYNK)

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ゲーム・プラン展──ボードゲームの再発見

会期:2016/10/08~2017/04/23

V&A Museum of Childhood[ロンドン(英国)]

子供博物館は、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の分館。サウスケンジントン(同本館)初期の建築の一部をロンドン東部のべスナルグリーンに移築し、1872年に当時のプリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ公)によって開館された。文字通り子供のためのミュージアムで、展示されているのはノスタルジーを感じさせる多彩なヴィンテージのおもちゃと子供の生活を巡る日用品。なんといっても見事なのは、19世紀の上流階級が持っていたドールハウスのコレクション。細部まで忠実に作りこまれた大きなサイズのドールハウスは、当時の建築とインテリアを知るうえで大変参考になる。今回の企画展は、歴史的な「ボードゲーム」の変遷をテーマとしている。一口にボードゲームと言っても、歴史をさかのぼれば古代エジプトに遡る。以来、千年以上に及ぶ今日までのゲーム発展の歴史を、100点以上に及ぶ世界から集めた展示品で丁寧に跡付けている。デザインや美的観点にも着目しているので、子供から大人まで十分楽しめる内容だ。会場の最後では、いろいろな種類のボードゲームが置かれているので実際に遊ぶこともできる。ハイテクガジェットの全盛時代にあって、たくさんの親子連れが、和やかな雰囲気の中でボードゲームを楽しんでいる様子がとても印象的だった。[竹内有子]

2017/01/08(日)(SYNK)

新設常設展「Designer Maker User」

デザイン・ミュージアム[ロンドン(英国)]

テムズ河南岸にあったデザイン・ミュージアムが、昨年11月にケンジントンに移転し、再オープンした。ミュージアムの広さは以前に比べ3倍に増大、2つの特別展のスペースに加え、新しく無料の常設展とデザイナー・イン・レジデンスの場が設置された。そもそもこのミュージアムは、20世紀の近代デザインを展示することを目的に、1989年に創設された。今回できた常設スペースは「Designer Maker User」と銘打たれ、デザイナーと作り手と使い手の社会文化的諸関係を明示しながら、デザイン製品の生産から消費までの物語を紡ぎだそうとする。展示デザインにも意外性があってハイセンス。イタリアのVespa(スクーター)が頭上に展示されたり、液晶画面による説明パネル、さらに3面の大スクリーンには映像作品と言ってもよいほど凝った、デザイン関係者のインタビュー/ドキュメンタリー作品が投影されていたりする。来館者同士やミュージアムのスタッフも気さくに会話に加わって、会場は大いに盛り上がっていた。なお移転地はコモンウェルス・インスティチュート(英連邦協会)の跡地で、モダニズム建築としての歴史的価値も高い建物。今回の移転はテレンス・コンラン卿(ミュージアム設立者・デザイナー・実業家)の莫大な寄付によって可能になったそうだが、改装後の見事な内装はさすが。吹き抜けを活かしつつ階段などは木製の調度で仕上げ、非常にドラマチックな空間となっている。二つあるミュージアムショップも楽しいうえに、展示は大変充実、また立地も便利になったので、訪英の際はぜひ来訪をお薦めする。[竹内有子]


左:常設展「Designer Maker User」入口(筆者撮影) 右:会場風景

2017/01/08(日)(SYNK)