artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

ヨーロピアン・モード

会期:2017/03/11~2017/05/16

文化学園服飾博物館[東京都]

宮廷が流行を生み出した18世紀後半、ロココの時代から若者や大衆が流行の担い手となった20世紀末まで、約250年に及ぶ欧米発信の女性モードの歴史をコレクションで概観する毎年恒例の展覧会。スタイルの変遷と、それらを取り巻く社会的背景も解説され、ファッション、デザインを学ぶ者にとってよい入門展示となっている。そして今年の特集は「黒のドレス」。19世紀後期以降、黒いドレスは喪服としてのみならず、流行として受け入れられるようになった。展示解説によればその理由は、1861年に英国ヴィクトリア女王の夫君アルバート公が亡くなり、女王が長い服喪期間に黒いドレスを着続けていたことと、同時期に黒色の合成染料アニリンブラックが発見され色落ちしにくい黒が安価に染められるようになったためだという。ドレスのほか、扇子やバッグ、帽子などの小物類、ジェットなどを使った黒いアクセサリーも展示されている。黒色に限らず、化学産業の発展による合成染料の普及、機械化の進展が、モードに与えた影響が見て取れる。例年であれば特集展示は本展示と別に独立したコーナーが設けられているが、今回の黒いドレスはモード史の文脈のなかで紹介されている。西洋モードの歴史はスタイルの変遷で語られることが一般的だと思うが、技術的視点から色彩を見るのも興味深い。[新川徳彦]


会場風景

2017/04/06(木)(SYNK)

TAPAS. Spanish Design For Foodほか

バルセロナ・デザイン博物館[スペイン]

日本でも巡回していたらしいタパス展は、食に関するデザインがいろいろと並ぶ。ワイナリーの建築群も紹介する。常設は現代のプロダクト、近代以前の装飾、ポスターグラフィックなどのセクションが各階ごとにあるが、ずば抜けてファッションの歴史展示が素晴らしい。時代ごとのファッションの変遷を、身体のどの部分を強調・誇張するものかをワンポイントで明快に示す。ほかのフロアとあまりにレベルが違うキレのよさに舌をまく。

写真:左上から=バルセロナ・デザイン博物館、常設展 現代のプロダクト、近代以前の装飾、ポスターグラフィック、右上=タパス展、右中・右下=ファッションの歴史展示

2017/04/01(土)(五十嵐太郎)

武田五一の建築標本──近代を語る材料とデザイン──

会期:2017/03/10~2017/05/23

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

京都高等工芸学校(現:京都工芸繊維大学)図案科教授に続き、京都帝国大学(現:京都大学)工学部建築学科の創設に尽くして教授を務め、関西の近代建築を牽引した武田五一(1872-1938)の業績を紹介する展覧会。武田の建築・デザイン教育に見られる近代性を、上記二つの大学で収集された教育標本と資料から読み解いている。そのひとつめが建築「材料」に対するまなざし。国内で新しい技術により量産され、建築素材に用いられるようになったタイル、ガラス、テラコッタ、近代の生活で必要になった水栓金具や錠前などの採集サンプルが展観される。どれも西欧における先行例を踏まえつつ、武田ら教育者たちによって建築標本としてコレクションされたものである。また大学教育で国内外の建築史・美術工芸史を教えるために使われた模型、建具雛形、彼の学生たちが記した講義ノートからは、当時最新の建築デザインの動向を西欧で学んできた武田の幅広い知見を見て取ることができる。興味深かったのは、武田が講じた色彩学の課題作品。彼は学生に蝶の実物標本から、色彩の構成と羽の模様の図化までさせている。武田の浩瀚な知識とデザイン実践の先進性に驚かされる。[竹内有子]

2017/04/01(土)(SYNK)

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台北 國立故宮博物院──北宋汝窯青磁水仙盆

会期:2016/12/10~2017/03/26

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]

故宮博物院が所蔵する北宋時代(960-1127)の汝窯(宮廷用の青磁を焼成した窯)による青磁水仙盆を紹介する展覧会。現在、世界中に残る汝窯の青磁は90点ほど、そのうち故宮博物院は21点を所蔵しているという。伝世品中の最高傑作とされてきた、海外初公開の《青磁無紋水仙盆》が展示品の目玉である。全く貫入がなく、「天青」と称されるグレーがかった淡い青系の釉色に、過不足も何の破綻もなく完成された形状。美しい、の一言に尽きる。汝窯青磁をことのほか愛した清朝の乾隆帝は、とくにこの作品を賞玩し、底部には自らの詩を彫らせている。今回の展示の妙は、上記目玉作品と並んで、大阪市立東洋陶磁美術館が所蔵する汝窯《青磁水仙盆》と、《青磁無紋水仙盆》を真似て清朝の景徳鎮窯で作製された水仙盆が併置されていること。これらが一同に集合し公開される機会はなかなかない。清朝宮廷が旧蔵していた青磁は同博物院に多数あり、そのどれもが元に置かれた場所まで辿ることができるほど。しかし北宋時代における「水仙盆」の用途は、いまだによくわかっていない。いったいどのように使われたのだろうかと、想像がふくらむ。[竹内有子]

2017/03/26(日)(SYNK)

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藤森照信展 自然を生かした建築と路上観察

会期:2017/03/11~2017/05/14

水戸芸術館現代美術センター[茨城県]

増田彰久の写真を使いながら、藤森の作品を紹介する。また、床置きの木彫り模型、味のある手書きスケッチなどが目を引き、味気ない模型や図面が並ぶ通常の建築展に比べると、藤森は展覧会向けかもしれない。一番興味深いのは、最後のパートにあった壁に立て掛けた素材見本だ。触りたくなるテクスチャー表現の工夫、雨漏りしないためのディテールを実物で紹介している。ちょうど水戸芸術館の高校生ウィーク2017で、ワークショップ室を無料カフェとし、隣ではたねやがお菓子を販売していたが、展示室でも(!)一部飲食可能としたり、苔を持ち込むなど、実はかなり攻めた美術館の使い方に挑戦していた。また、街なか展示では、ワークショップで採集された水戸の路上観察物件を紹介していた。

2017/03/25(土)(五十嵐太郎)

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