artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
ようこそ!横尾温泉郷
会期:2016/12/17~2017/03/26
横尾忠則現代美術館[兵庫県]
お風呂が恋しい季節に合わせて、横尾忠則が銭湯や温泉を描いた絵画、版画、ポスターが集められた。展示の主体になったのは2つのシリーズ。ひとつは2004年に元銭湯の画廊SCAI THE BATHHOUSEで個展を行なった際に発表した「銭湯シリーズ」、もうひとつは2005年から約3年間にわたる誌連載のために描かれた「温泉シリーズ」だ。その合間に、1970年代から現代までの全国各地を描いた作品も配置された。筆者が注目したのは「銭湯シリーズ」である。横尾が子供の頃に母に連れられて入った女湯の記憶を元にした同作では、画中に鳥居清永、ピカソ、ドローネ、デュシャンらの引用が散りばめられており、作品の上下左右が繋がるように描かれるなど仕掛けが満載だった。また本展では城崎温泉などから協力を仰ぎ、会場内に蛇口、洗面器、脱衣籠、脱衣箱、扇風機、体重計などが配置され、観客が座って観覧できる座敷や浴槽、さらには温泉卓球ができる卓球台まで用意されていた。こうした演出もあり、本展は非常に楽しい展覧会に仕上がっていたのだが、記者発表時には横尾からは「まだまだ遊びが足りない」と駄目出しが出ていた。学芸員はつらいよ。でも、毎回作家から厳しいチェックを受けることで、彼らは鍛えられていると思う。
2016/12/16(金)(小吹隆文)
南極建築 1957-2016
会期:2016/12/09~2017/02/21
LIXILギャラリー大阪[大阪府]
極寒の過酷な自然環境─ブリザードや雪の吹き溜まり─に耐えうる建築とは何か。本展は昭和基地を中心に、南極の建築物がどのように進化してきたかをたどる。その形成に寄与したのが建築資材や物資を運ぶ観測船で、その大型化が建築物の規模拡大に影響した。1957年に初めて設置された昭和基地は木質のプレファブ建築。住宅大手メーカーによるプレファブ工法が国内での販売へと展開してゆき、それが基地建設にも応用されていった時代背景を考えると面白い。気温がマイナス50度にも及ぶ現地で建材からの複雑な工事が必要なく、船で運んで組み立てるだけで使用ができるからだ。展示では、船の変遷とともに建築の形態と機能が発展してゆくさまを見ることができる。さらに観測隊員の現地での生活を想像しやすいようにと、日用品や装備を入れた、第一次隊の梱包用の木箱で展示用通路がつくられている。1957年から2016年まで5期にわたる歴代の建築物を通覧すると、基地の形状自体がもつ魅力にも気付く。近未来的な造形もあり、見ていると面白い。映像資料も工夫されているので、南極における環境の実態と、当地での快適な居住性の追求に関わって知恵と実験を重ねてきた人々の営為について実感する。[竹内有子]
2016/12/10(土)(SYNK)
デザインの解剖展 身近なものから世界を見る方法
会期:2016/10/14~2017/01/22
21_21 DESIGN SIGHT[東京都]
「デザインの解剖展」へ。特に期待せずの訪問だったが、タイトルどおり、商品のデザインを外皮から内容まで、きちんと段階的に分析し、お金もかけて展示すると、これだけ多くの集客ができる面白さを出せるのかと感心させられた。きのこの山、ブルガリアヨーグルトなど、明治製菓を中心に、写ルンですなど、有名な商品が見事に学びの素材になっていた。
2016/11/26(土)(五十嵐太郎)
モードとインテリアの20世紀 ─ポワレからシャネル、サンローランまで─
会期:2016/09/17~2016/11/23
パナソニック汐留ミュージアム[東京都]
島根のミュージアム・コレクションを使い、タイトルどおり、ファッションとインテリアのデザインをパラレルにたどる好企画である。ファッションという切り口のせいか、多くの来場者で賑わっていた。ただ、インテリア側としては、せっかくアイリーン・グレイ、シャルロット・ペリアン、イームズ、ホラインらが登場するものの、あまり説明がなく、展示物も写真やスケッチくらいしかなくて、わかりにくいのがもったいない。
2016/11/23(水)(五十嵐太郎)
動き出す!絵画
会期:2016/11/19~2017/01/15
和歌山県立近代美術館[和歌山県]
美術雑誌の出版や展覧会の開催などを通して、大正期の美術界をバックアップした人物、北山清太郎。フランス印象派やポスト印象派の理解者だったペール・タンギーになぞらえて「ペール北山」と呼ばれた彼を軸に、当時の西洋美術と日本近代美術を紹介しているのが本展だ。その構成は、4つの章とプロローグ、エピローグから成り、当時の西洋美術(印象派から未来派まで)と日本の作家たち(斎藤与里、岸田劉生、木村荘八、萬鉄五郎、小林徳三郎など)がたっぷりと楽しめる。北山が出版した雑誌も並んでおり、当時の様子を多角的に知ることができた。また、北山清太郎という重要なバイプレーヤーの存在を知ることができたのも大きな収穫だった。彼のような存在はきっとほかにもいただろう。そうした人々に光を当てることにより、美術史の読み解きが一層豊かになるに違いない。今後も本展のような企画が続くことを願っている。なお、北山清太郎は後年にアニメーションの世界に転身し、日本で最初にアニメを制作した3人のうちの1人である。つくづく興味深い人物だ。
2016/11/18(金)(小吹隆文)