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artscapeレビュー

沖縄・プリズム 1872─2008

2009年01月15日号

会期:10月31日~12月21日

東京国立近代美術館[東京都]

沖縄は好きな場所で、何度も訪れている。行くたびに不思議な気持ちになるのは、異文化の香りを色濃く漂わせながら、どこか懐かしい故郷に帰ったような気持ちにさせてくれることだ。沖縄の言葉(ウチナーグチ)は日本の平安時代くらいの古語の骨格を留めているという話を聞いたことがある。日本の文化、宗教などの原型がそこにあるといえるだろう。それに加えて中国との交易や第二次世界大戦後のアメリカ統治の影響によって、沖縄は一筋縄ではいかない、プリズムのように乱反射する混合文化を育てあげてきた。
「沖縄・プリズム 1872─2008」展は、そんな沖縄を舞台にした近代以後の表現を、絵画、版画、工芸、写真、映画などさまざまな角度から再構築しようという意欲的な試みである。その風土と歴史(とりわけ戦争の傷跡)に根ざしたユニークな視点が浮かびあがってくるとともに、沖縄に魅せられた「本土」出身の作家の作品を含むことで、緊張感を孕んだスリリングな表現の磁場が姿をあらわしていた。
とりわけ興味深いのは、そのなかで写真家たちの仕事が重要な役割を果たしてきたことである。木村伊兵衛の「那覇の市場」(1936)のシリーズから始まって、岡本太郎、東松照明、平良孝七、平敷兼七、石川真生、伊志嶺隆、比嘉康雄、比嘉豊光、掛川源一郎、圓井義典らの力作が並ぶ。沖縄の磁場が写真家たちに大きな刺激を与え、おおらかな生命力がみなぎる作品が次々に生み出されてきたことがよくわかる好企画だった。

2008/11/08(土)(飯沢耕太郎)

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