artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

KYOTO EXPERIMENT 2016 AUTUMN 小泉明郎 CONFESSIONS

会期:2016/10/28~2016/11/27

京都芸術センター[京都府]

本展は「KYOTO EXPERIMENT 2016 京都国際舞台芸術祭 AUTUMN」の展示プログラムのひとつとして開催された。なぜ舞台芸術祭で小泉明郎なのかと思ったが、彼の映像作品が持つ演劇性に着目したらしい。展覧会のテーマは「告白」で、作品は《忘却の地にて》と《最後の詩》の2点が選出された。筆者が注目したのは前者である。同作では、第2次大戦中に非人道的な任務に就いた元日本兵のトラウマが、独白(音声)と風景の映像で綴られる。時々言葉に詰まり、必死に思い出そうともがく男。その緊迫感に、見ているこちらも心が締めつけられる。ところが背面に回って驚かされた。じつは、交通事故で脳に損傷を受け記憶障害を抱えた男性が、元日本兵の証言を暗記して語っていたのだ。裏切られた! 落胆、憤り、虚脱感が一挙に押し寄せる。なんだこれは。ブラックユーモアにもほどがあるだろう。しかし冷静に考えてみると、こちらが勝手に思い込んでいただけだ。元日本兵の言葉も、それ自体に偽りはない。本作は、人間の記憶や心象がどのように形作られ、どのような危うさを持っているかを伝えている。このヒリヒリした感覚、人間の痛いところをわざと突いてくる感じは彼独特のものだ。作品を見るといつも嫌な気持ちにさせられる。でもけっして嫌いにはなれない。小憎らしいアーティストだ、小泉明郎は。

関連フォーカス

舞台芸術を支えるローカルな土壌と世界的同時代状況への批評性──KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 AUTUMN|高嶋慈:artscapeフォーカス

2016/10/28(金)(小吹隆文)

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クリスチャン・ボルタンスキー アミタス─さざめく亡霊たち

会期:2016/09/22~2016/12/25

東京都庭園美術館[東京都]

なるほど、この手があったか! と感心したのが本館の「作品」。展示室に入ると作品らしきものはなにもない。歩き回ると声が聞こえてくるが、これが「作品」か。意味を追おうとしても、詩のような言葉なのでつかみどころがない。これがホワイトキューブの展示空間だったらブチキレてるところだが、ここは装飾たっぷりのアールデコ空間なので飽きることがない。本館では同時に「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」も開催しているが、これは特別になにか集めて公開するわけではなく、室内をそのまま作品として見せるだけ。つまりひとつの空間で視覚と聴覚ふたつの展覧会をやっちゃうという一石二鳥作戦なのだ。でもさすがにこれだけじゃあ「金返せ」と言われると思ったのか、新館では近作を展示。ギャラリー1は《まなざし》と題するインスタレーションで、中央にウンコのような金色の固まりを置き、周囲に顔の拡大写真をプリントした半透明の幕を幾重にも吊るしている。ギャラリー2は《アニミタス》という映像インスタレーションで、床に枯葉を敷き、中央のスクリーンに両側から乾いた風景と湿った風景を映し出している。これは南米と日本の対照的な風景だが、どちらにも風鈴を設置してあるのでシャラシャラと涼しげだ。まあ新館のほうがいかにも作品然としているが、刺激的という意味では本館のほうが好きだ。

2016/10/28(金)(村田真)

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あざみ野コンテンポラリー vol.7 悪い予感のかけらもないさ展

会期:2016/10/07~2016/10/30

横浜市民ギャラリーあざみ野[神奈川県]

美術にとらわれず広く現代のアートを紹介するシリーズ「あざみ野コンテンポラリー」の7回目。タイトルはRCサクセションの「スローバラード」の1フレーズらしい。否定でも肯定でもなく、否定を否定することで肯定的に語るというのは、現代社会を表現するときの姿勢かもしれない。出品は岡田裕子、風間サチコ、金川晋吾、鈴木光、関川航平の5人で、映像2人、写真、ドローイング、版画が1人ずつ。興味深く見たのは関川の鉛筆ドローイングと、風間の木版画。どちらも紙にモノクロ表現だ。関川は鳥、草花、怪獣、ロボット、仮面などいろいろなものを描いているが、いずれもタイトルは「フィギュア」で、鳥なら生身の鳥ではなく「模型」「つくりもの」の鳥を描いているのだ。これはおもしろい。風間は現代では珍しい風刺版画をつくり続けているが、今回は折り込みチラシの住宅の画像をトレースした初期の作品から、校内暴力をテーマにした新作シリーズまで出品。ますますダイナミックに、ますますマンガチックに突っ走ってる。

2016/10/27(木)(村田真)

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Chim↑Pom個展「また明日も観てくれるかな?」

会期:2016/10/15~2016/10/31

歌舞伎町振興組合ビル[東京都]

歌舞伎町に行くのはもう20年ぶりくらいだろうか、とんと足が遠のいたなあ。劇場や映画館もすっかりなくなっちゃったし。その歌舞伎町のほぼど真ん中に建つビルをまるごと舞台にしたChim↑Pomの展覧会。入場料1000円とるが、これは見て納得。まずエレベータで4階まで昇り、各フロアの展示を見ながら降りていく。このビルは1964年の東京オリンピックの年に建てられ、2020年のオリンピックを見据えて取り壊すことになったため、約半世紀の時間がテーマになっているようだ。例えば4階は壁を青くしているが、これは半世紀前には建築を設計する際に活用された青写真(青焼き)に由来するという。おそらくその発想源であるこのビルの青焼きも展示。床には正方形の穴が開き、下をのぞくと1階までぶち抜かれている。これは壮観。3階には、繁華街で捕まえたネズミを剥製にしてピカチュウに変身させた《スーパーラット》や、性欲のエネルギーを電気に変換する《性欲電気変換装置エロキテル5号機》といった初期作品に加え、歌舞伎町の風俗店で働くみらいちゃん(18歳)のシルエットを青焼きにした《みらいを描く》も。2階ではルンバみたいな掃除ロボットの上に絵具の缶を載せ、ロボットが床に自動的に色を塗ると同時に掃除するというパラドクスをインスタレーション。そして1階では、ぶち抜かれた4階から2階まで3枚の床板のあいだに椅子や事務用品などを挟んで、《ビルバーガー》として展示している。これは見事、これだけで見た甲斐があった。ちなみにタイトルの「また明日も観てくれるかな?」は、お昼の番組「笑っていいとも」で司会のタモリが終了まぎわに言う決めゼリフで、2年前の最終回の終わりにもこのセリフを吐いたという。このビルの最終回に未来につなぐ言葉を贈ったわけだ。

2016/10/26(水)(村田真)

六本木アートナイト2016

会期:2016/10/21~2016/10/23

六本木ヒルズ+ミッドタウン+国立新美術館など[東京都]

昨年まで春に行なわれていたのに、今年は秋に開催。なにか深謀遠慮があるのか、単に準備が遅れただけなのか。調べてみたら、2020年の東京オリパラ関連の「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」に絡めるためらしい。文科省の主催なのできっとお金も出るのだろう。どうでもいいけど。さて、六本木ヒルズでは久保ガエタンの《Smoothie》が注目を集めていた。映像と回転する大きな箱からなる作品で、まず映像だけ見ると、ごく普通の室内風景が映し出されているが、いきなり服や日用品がポルターガイストみたいに舞い踊り始める。そのとき隣の箱は回転しているので、箱の内部が室内のように設定され、そこに固定したカメラが回転し始めた室内を撮影していることがわかる。アイデアとしては珍しくないけど、わかりやすくておもしろいので人気だ。回転ものでは、六本木駅前に設置された若木くるみの《車輪の人》も、場所が場所だけに注目を集めていた。ハムスターなどが遊ぶ回し車を拡大し、若木本人が走り続けるというパフォーマンスで、本当に昼間も夜中も走っていた。ごくろうさんだ。街なかでは、ビルの空き部屋を使ったイェッペ・ハインの《Continuity Inbetween》がすごい。直径10センチほどの穴をあけたふたつの壁を2、3メートル離して向かい合わせに立て、片方の穴からもう一方の穴へ水を飛ばすという作品で、水は放物線を描いて穴に吸い込まれていく。これはどこかで見たことあるけど、見事。屋外では、フィッシュリ&ヴァイスの映像作品《事の次第》をビルの壁に映し出し、駐車場でそれを見るというのもあった。夜中に見に行ったら大勢集まっていた。人気があるというより、みんな終電が終わってほかに行くとこないんじゃないか?

2016/10/22(土)(村田真)