artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
エピソード3.9と言うべき『ローグワン』。前半の展開はやや退屈で、だれると聞いたが、個人的には現代社会のテロと重なって見え、後半の宇宙戦争感満載との対比は、むしろ好印象だった。今回は特に超人不在ゆえに、反乱同盟軍の普通の人々による物語が重なり、シリーズに深みを与えた。終盤はビーチでの、『さらば宇宙戦艦ヤマト』的な玉砕戦となり、多くの犠牲の上に最後の希望を打倒帝国の未来につなぐ。
2016/12/23(金)(五十嵐太郎)
震災と暮らし ─震災遺産と人びとの記録からふりかえる─
会期:2016/12/20~2016/12/25
東京や海外にとって3.11は、やはりフクシマの原発事故のイメージが強いが、近くの被災地であり、津波被害が大きかった仙台では、これまで逆にあまり表出されなかった。この企画はふくしま震災遺産保全プロジェクトと連携し、全面的に福島の状況とその後を紹介している。写真、映像、壊れた被災物、デジタルのデータ、言葉、アート作品など、さまざまな手法であの出来事を伝承しようと試みる様子からは、すでに忘却されかねない危機意識も感じられた。これらの展示は、いずれつくられる3.11記念館の常設になるのだろう。
2016/12/22(木)(五十嵐太郎)
プレビュー:小森はるか『息の跡』
会期:2017/02/18
ポレポレ東中野(東京都)、横浜シネマリン(神奈川県)、フォーラム仙台(宮城県)、フォーラム福島(福島県)、名古屋シネマテーク(愛知県)、第七藝術劇場(大阪府)、神戸アートビレッジセンター(兵庫県)
映像作家、小森はるかによる劇場長編デビュー作品。小森は、画家で作家の瀬尾夏美とともに、東日本大震災後、岩手県陸前高田市に移住し、アートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」としての活動を開始。土地の風景や人々の声を、色彩豊かなドローイング、詩的なテクスト、ドキュメンタリー映像によって記録する活動を続けてきた。本作『息の跡』は、山形国際ドキュメンタリー映画祭、神戸映画資料館、せんだいメディアテークでの上映を経て、待望の全国劇場での上映となる。
この映画では、津波によって流された種苗店を自力で再建し、ブリコラージュ的な工夫と知恵をしぼりながら経営する「佐藤さん」の日常が、季節の移ろいとともに約1年間かけて映し出される。さらに、佐藤さんは種屋の経営に加えて、もうひとつ別の仕事も行なっている。それは『The Seed of Hope in the Heart』という被災記録の自費出版であり、震災後に独学で習得した英語と中国語で執筆され、作中では英語の第5版を執筆中であるという。「記録すること」のそれほどまでの執念に彼を向かわせるものは何なのか。なぜ彼は、外国語の独習という困難な試みを引き受けて、「非-母語」で書くことを選択したのか。その答えは、ぜひ映画を見てほしい。
『息の跡』というタイトルは詩的で示唆的だ。吹きかけた息のように一瞬で儚く消えてしまうものと、息を発すること、すなわち「声」の痕跡をとどめること、という相反する契機がそこには読み取れる。本作は、単に「震災のドキュメンタリー映画」を超えて、「記録する」行為や衝動それ自体へのメタ的な言及をはらんだひとつの記録と言えるだろう。
公式サイト:http://ikinoato.com/
2016/12/21(水)(高嶋慈)
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
ティム・バートンの映画『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を見る。「X-MEN」シリーズのように、外界と隔絶して生活する特殊能力をもった子どもたちが、第二次世界大戦の空爆で破壊される前の館で永遠の1日をループする。この館がピクチャレスクなデザインの建築で(ベルギーに実在する城らしい)、廃墟やトピアリのある庭園の表現なども含めて、いかにもティム・バートン好みの舞台だった。
2016/12/07(水)(五十嵐太郎)
試写『ホームレス ニューヨークと寝た男』
スタイリッシュなスーツに身を包んだ長身でハンサムなファッション・フォトグラファー、マーク・レイ。ニューヨークの街なかでモデルに声をかけて写真を撮り、レストランで食事してクラブで女の子たちと酒を飲み、でも寝に帰るのはビルの屋上だ。朝、シートからはい出してトイレで身だしなみを整え、いざ出勤。昼夜の、というより起きてるときと寝てるときの環境の落差が極端に激しく、これはなかなか勇気と体力のいる生活だ。でも寝てるときは夢のなかだから環境なんてどうでもいいともいえるわけで、本人もきっとそう考えているに違いない。ちなみに、彼の1カ月の生活費は食費450ドル、交際費300ドルなど計1200ドル(約14万円)。いまマンハッタンの平均家賃は1DKで2200ドル(約26万円)もするそうだから、圧倒的にリーズナボー。それにしても本当に実践してるヤツがいるとは! 見ているうちに本当にドキュメンタリーなのかと疑ってしまう、ウソみたいなドキュメンタリー映画だ。なにげにショーンKを思い出した。ちなみに原題は「HOMELESS」ならぬ「HOMME LESS(オムレス)」。
2016/12/02(金)(村田真)