artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:スネーク・ダンス

会期:2016/10/03

京都コンサートホール[京都府]

ベルギー人監督マニュ・リッシュのドキュメンタリー映画「スネーク・ダンス」の上映と、同映画で音楽を担当した日本人ピアニスト菅野潤のリサイタルで構成される公演。「スネーク・ダンス」は、原子爆弾の起源から3.11後の日本へと至る、アフリカ、北米、アジアの3つの大陸をつなぐ物語である。原子爆弾は、当時ベルギーの植民地であったコンゴで採掘されたウランから生まれ、ニューメキシコ州ロス・アラモスで科学者たちによって製造され、日本で試された。
この映画では、隠れた案内人としてドイツの美術史家・思想家のアビ・ヴァールブルクが参照され、音楽は菅野潤が演奏するベートーヴェンとショパンのピアノ曲が流れる。これらの曲は、広島に原子爆弾が投下される少し前に、開発に携わった物理学者のオットー・フリッシュがロス・アラモスで弾いた曲でもある。異なる時代と場所をつなぐ楽曲は、映画の上映後に続くリサイタルでどのように響くのだろうか。

2016/08/29(高嶋慈)

プレビュー:UNKOWN ASIA ART EXCHANGE OSAKA

会期:2016/10/01~2016/10/02

ハービスホール[大阪府]

昨年に第1回展が開かれ、大きな成果を上げた「UNKOWNASIA」。その特徴は、日本、中国、台湾、タイ、インドネシア、フィリピンなど東南アジア各国から参加者を募ること、各国の第一線で活躍するアートディレクター、ギャラリスト、プロデューサーらを審査員として招いていること、賞の授与だけでなく、国内外での発表の機会や仕事のマッチングを行なうことだ。2回目となる今回は、会場を中之島の大阪市中央公会堂から梅田のハービスホールへと変更。会場が広くなったことにより、参加枠が180ブースへと拡大した(昨年は115ブース)。受賞後の活動やビジネスの機会までフォローするイベントは珍しく、昨年の会場は参加アーティストたちの熱気が渦巻いていた。そんな祝祭的な盛り上がりを今年もぜひ体験したい。

2016/08/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016

会期:2016/09/14~2016/11/23

六甲ガーデンテラス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲ケーブル、天覧台、六甲有馬ロープウェー(六甲山頂駅)、グランドホテル 六甲スカイヴィラ、他[兵庫県]

「瀬戸内国際芸術祭」や「あいちトリエンナーレ」ほど大規模ではないが、関西を代表する同種のアートイベントとして知られているのが「六甲ミーツ・アート芸術散歩」だ。そのテーマは、六甲山上のさまざまな施設を散歩感覚で巡って現代アート作品を楽しみ、同時に六甲山の豊かな自然環境を再発見すること。普段は滅多に美術館に行かない人でも、家族で、友人同士で和気あいあいと現代アートに触れられるのが魅力である。今年は、岡本光博、開発好明、さわひらき、トーチカ、三沢厚彦など、招待と公募合わせて39組のアーティストが出品。会場は前回とほぼ同様だが、初期の安藤忠雄建築を代表する旧六甲山オリエンタルホテル・風の教会は今年の会場から外れている(残念)。山の天気は変化しやすく、夕方以降は気温が一気に下がる。雨と防寒の準備を忘れずにイベントを楽しんでほしい。

2016/08/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:古都祝奈良(ことほぐなら) 時空を超えたアートの祭典

会期:2016/09/03~2016/10/23

東大寺、春日大社、興福寺、元興寺、大安寺、薬師寺、唐招提寺、西大寺、ならまち、他[奈良県]

日中韓の3カ国で、文化による発展を目指す都市を各国1都市選定し、さまざまな文化プログラムを通して交流を深める国家プロジェクト「東アジア文化都市」。今年は日本の奈良市、中国の寧波市、韓国の済州島特別自治道が選ばれた。奈良市の「美術部門」では、奈良を代表する8つの社寺で、蔡國強、川俣正、サハンド・ヘサミヤン(イラン)、アイシャ・エルクメン(トルコ)など国際的に活躍する8組のアーティストがインスタレーションを展開。江戸時代後期からの街並が残るならまちでは、宮永愛子、西尾美也、紫舟など6組のアーティストがサイトスペシフィックな展示を行なう。また、「舞台芸術部門」として、平城宮跡で維新派とSPAC(静岡県舞台芸術センター)、なら100年会館でオペラ「遣唐使物語」の公演が行なわれるほか、「食部門」として、奈良の食のルーツやシルクロードを通じた東アジアの食の変遷、歴史をテーマにした催しも実施される。奈良でこのような大規模プロジェクトが行なわれるのは珍しく、特に8つの社寺が共同歩調をとるのはきわめて稀だ。幸い、電車とバスで会場間を移動できるので、初秋の一日をこのイベントに費やしてみようと思う。

2016/08/20(土)(小吹隆文)

あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅

会期:2016/08/11~2016/10/23

愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町ほか[愛知県]

3回目のあいちトリエンナーレ、今年は芸術監督に港千尋を迎え、「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」をテーマに、名古屋だけでなく岡崎、豊橋でも開催。ぼくは日帰りのため名古屋しか見ていない。テーマの「キャラヴァンサライ」とは旅の家、隊商宿のこと。芸術とは未知への旅のことだから、さまざまな国から人々が集まる芸術祭をキャラヴァンサライと位置づけ、さらなる旅の英気を養おうではないか、ということらしい。テーマというより意気込みですね。
まずは名古屋市美術館から。沖縄の建物の壁に残る砲撃跡をフロッタージュした岡部昌生の作品をすぎると、ジョヴァンニ・アンセルモ、小杉武久といった懐かしいアーティストの名前も。地下のライ・ヅーシャンは、ほぼ正方形の展示室の床にゴミや道具類を散りばめ、壁を一周できるように高さ1メートルほどの狭い通路を設置。高みの見物ともいえるし、観客と展示物の立場を逆転させたともいえる。美術館近くのケンジタキギャラリーでやってる「イケムラレイコ展」を見て、旧明治屋栄ビルへ。古いビルの各フロアに5人が展示。おもしろいのは6台の強力な照明を上向きに設置し、上から水滴を垂らして水蒸気を発生させる端聡のインスタレーション。照明器具がちょうど目の高さにあるので内部が見えず、横から見ると鍋でなにか煮てるのかと思った。繊維問屋街の長者町では空きビルを使ったプロジェクトを展開。白川昌生は問屋街で扱っていたラクダのシャツに着目し、ラクダと日本の関係史を掘り下げている。ほかに巨大なハリボテのシャチホコも。その上では佐藤翠が鏡に描いたクローゼットの絵を展示していて、その華麗さは一見場違いにも感じるけど、これも服つながりだ。別のビルでは壁に大きく「アートより友人」と横断幕が張られていたが、これはもしかして地域アートの真髄を突いている? 昔ながらの純喫茶クラウンでは、今村文による植物モチーフの作品が壁にインスタレーションされている。見るだけでもいいのだが、なにしろ暑いのでアイスコーヒーでひと休み。考えることはみな同じらしく、ぞくぞくと入ってくる。
最後は愛知芸術文化センター。ここでは大きな空間に1組ずつゆったり見せている。とりわけ広大なスペースを使っていたのが大巻伸嗣で、体育館ほどの広さの展示室の床に顔料で花模様を制作。花模様は中央の柱から同心円状に広がっていて、観客は隅のほうに渡した橋の上から見るのだが、会期終盤には直接床の上を歩いてもらうそうだ。この大巻以外は引っかかる作品が少なく、つい素通りしてしまう。いいかげん疲れていたというのは差し引いても、前2回に見られたようなインパクトの強いスペクタクルな作品が激減し、よくも悪くもキマジメな作品が多かった印象だ。午後6時からのレセプションパーティーにも出てみた。河村たかし名古屋市長らトップが熱心なのはけっこうだが、ドラゴンズもグランパスも低迷してるからって、トリエンナーレに過剰な期待をかけるのはどうなんでしょうね。

2016/08/10(水)(村田真)

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