artscapeレビュー
海難と救助─信仰からSOSへ─
2017年06月01日号
会期:2017/02/18~2017/04/16
横浜みなと博物館[神奈川県]
「板子一枚下は地獄」という言葉があるように、海という大自然を相手にする船乗りの仕事はつねに危険と背中合わせだ。それでも、モノやヒトの輸送という需要があるところに海運業は栄え、同時に海難のリスクを軽減するためのさまざまな努力が行なわれてきた。本展は江戸時代から現代まで、海上交通に関わる人々の海難事故への対応の歴史を辿る展覧会だ。第1章は江戸時代の海難と救助。気象予報がなく、航路標識なども未整備だった江戸時代には海難事故を未然に防ぐ手立てはほとんどなく、船乗りたちは常日頃から神仏に航海の安全を祈ってきた。他方で、事故が起きた際の対応はある程度整備されていた。沿岸の住民には海難救助が義務づけられており、人を救助した者には報酬が、また引き上げられた積み荷に対しては、その評価額から一定の割合の金額が支払われたという。近代になると事故が起きるたびに新たな安全対策がなされ、技術は改良されてきた。第2章では明治時代以降の歴史に残る海難事故とそれらを教訓に行なわれてきた安全対策、第3章では灯台や航路標識の整備、海図の制作、気象予報の充実や法令の整備など、事故を防ぐための努力が紹介されている。ここでは海難救助の方法を解説した掛図(明治後期~大正期)や、海難防止を周知するポスターなどのグラフィックが興味深い。さまざまな対策、技術が進歩しても、自然条件による事故、人為的なミスが完全になくなることはない。第4章では無線や救命胴衣など事故への備えと、船体のサルヴェージなど、事故が起きることを前提とした各種の対策が紹介される。さて、展覧会の主題は「海難と救助」ではあるが、海難を扱う以上、リスクの分散や、救助、安全対策にも大きな役割を果たしている海上保険や船級協会についても解説して欲しかったところだ。[新川徳彦]
2017/04/14(金)(SYNK)