artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙

会期:2012/04/07~2012/05/13
京都国立近代美術館[京都府]
ベルリン留学時にダダや構成主義などの新興芸術に強い影響を受け、1923年の帰国後に爆発的な勢いで、絵画、コラージュ、トランスジェンダーなダンスパフォーマンス、建築、デザイン、舞台美術、前衛芸術集団「マヴォ」結成などの活動を展開した村山知義。その圧倒的なエネルギーとインパクトを、初めて本格的に紹介するのが本展だ。1988年に開催された「1920年代日本展」で彼の存在を知ってから20年余、遂にこの機会が訪れたことに感慨を禁じえない。現存作品が少ないため、写真資料が多いなど難点もあるが、展覧会が行われたこと自体に意味があるのだ。本展を機に今後一層研究が進み、彼の真価が鮮明になることを期待する。
2012/04/06(金)(小吹隆文)
Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち

会期:2012/02/25
ヒューマントラストシネマ有楽町[東京都]
踊りとは、かくもすばらしく人間の感情の起伏を表現するものだったのか。ヴィム・ヴェンダースによるピナ・バウシュの映画を見て思い知ったのは、踊りで駆使される身体言語の豊かなボキャブラリーだった。言葉ではなく身体が、みずからの喜怒哀楽を雄弁に物語る。劇場はもちろん、街中や車内、自然、邸宅など、あらゆる場所で語られる踊りを見ていると、そこでは生きることのすべてが肯定されていると実感できる。これみよがしな3D映像が書割のように平面的に見えてしまうという逆説が気にならないわけではない。とはいえ、そのようなネガティヴすらポジティヴに反転させてしまうほど、彼らの身体言語は、力強く、はかなげで、鋭く、あたたかい。
2012/04/01(日)(福住廉)
プレビュー:チェルフィッチュ『現在地』、岡崎藝術座『アンティゴネ/寝盗られ宗介』

一般的に言えば、四月のマスト公演は間違いなくチェルフィッチュ『現在地』だろう。そして焦点は、演劇的な問いよりも岡田利規がいま「震災以後」になにを語るのかという問いになるのだろう。ぼくも楽しみにしていますとても。とはいえ、個人的には岡崎藝術座『アンティゴネ/寝盗られ宗介』(2012年4月19日~24日@STスポット[神奈川]、2012年4月27日~29日@早川倉庫[熊本])が一番見たい。独特の諧謔性というかいやらしさというかが圧倒的な存在感を放っていた昨年秋の『レッドと黒の膨張する半球体』から約半年後の新作上演。古代ギリシア悲劇の代表作とつかこうへい作品の二本立ての意味するところはいかに? 演劇をぶっこわすチャレンジを期待しています。あれ? いま二作のフライヤーを見ていたら、岡崎藝術座のほうの出演欄に山縣太一の名前があるのを発見! 神里雄大と山縣太一、そりゃ相性良すぎると言っていいくらいだろう。
2012/03/31(土)(木村覚)
ミクニヤナイハラプロジェクト『幸福オンザ道路』

会期:2012/03/22~2012/03/24
横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール[神奈川県]
演劇の矢内原美邦は高速を目指す。台詞回しも、ときに台詞とはほとんど関係なく行なわれる身体動作も、超速い。速すぎて言葉は聞き取れない。時折、ぐっとくる名言が飛び出しているようなのだが、しゃべりの速さと同じくらい速く記憶される前に消えてしまう。反演劇? でも、矢内原は以前から早口でも観客に台詞は届けたいのだと言っているのだ。ならば、目指すは明瞭に聞き取れる速い演劇? 難しいのなら、台詞担当(声)と動作担当(身振り)を分けてみたらとアフタートークで岡田利規は提案していたけれど、矢内原はそれを両立しうる身体こそ求めているのだから、解決にはならないだろう。以前どこかでぼくは矢内原の演劇はビデオの早回しのようだと書いた。その喩えで言えば、二倍速でも声は明瞭に聞き取れる「時短ビデオ」が矢内原演劇の目標であると、さしあたり言うことができそうだ。
次の問いはこうなる。なぜ矢内原は高速化を目指すのか? おそらく矢内原が求めているのは役者の身体が非人間化することであり、裏返して言えば、機械化であると推測する。早口でしゃべりながら台詞と無関係な動作を高速で行なうというのは、人間業ではない。人間業を超えたパフォーマンスとともにしゃべることで、言葉というものの人間性を乗り越えようとする、ここにおそらく矢内原演劇の核心がある。そこまでは予測がつくが、さて、それを目指した先になにが見えるのか、この点はまだわからない。だが、こうした発想自体は、歴史を振り返れば、それほど無謀とは言えないはずだ。例えば、戯曲の内容に即応しないアクロバティックな運動を演技に採用した、メイエルホリドの俳優訓練法「ビオメハニカ」と矢内原の考え(とぼくが思うもの)とはそれほど大きく違いはないだろう。矢内原がメイエルホリドならば、岡田利規にはブレヒトを重ねてみてもいい。そう仮に考えることで、演劇の原理的な問いから彼らの取り組みをとらえられるようになるだろう。
と書きつつ、矢内原演劇の魅力の核心は、さながらアウトサイダー・アーティストのようになにがしたいのか実のところわかっていないかもしれない矢内原の闇雲に前進する様に、はらはらドキドキしながらついていくところにあると思っている。
ミクニヤナイハラプロジェクト『幸福オンザ道路』本公演 トレイラー
2012/03/22(木)(木村覚)
村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する

会期:2012/02/11~2012/03/25
神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]
なにもないからこそ、なんでもやる。関東大震災にせよ、東京大空襲にせよ、広島・長崎への原爆投下にせよ、私たちの先達たちは焦土と化した焼け野原からいくども立ち上がり、その都度いくつもの文化や芸術を生み出してきた。村山知義の回顧展をつぶさに見て思いを新たにしたのは、豊かな芸術は貧しさのなかから生まれるという厳然たる事実。演劇から美術、写真、書籍、看板、はては建築にいたるまで、村山が手がけた創作物はじつに広範なジャンルに及んでいる。大量に集められた展示物の物量が、村山自身の貪欲な創作意欲を物語っているようで、まさしく沸騰する村山の迫力に圧倒されてやまない。それらのいずれもが貧しい時代の只中でなんとかやってきた格闘の痕跡と言えるが、村山が苛まれていた貧しさとはまた別の貧しさが世界を覆いつつある現在、はたして野性的で生命力にあふれた、新しい芸術は生まれるのだろうか。
2012/03/21(水)(福住廉)


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