artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
クリウィムバアニー『がムだムどムどム』
会期:2011/11/25~2011/11/27
シアタートラム[東京都]
イデビアン・クルーでもダンサーとして活躍している菅尾なぎさの振付・演出の本作。「遊覧型ぱふぉーまんす」と銘打っているとおり、会場となるシアタートラムは舞台と客席の枠が取り外され、周囲を観客が歩き回れる庭のような空間が設えられていた。その光景にまず驚かされた。白い下着のような衣装で踊るダンサーたち。舞台と客席の境界が消えると、彼女たちが近過ぎて戸惑うといったことが起きる。また普通だったら同じ方向を見ている観客が折々に視線を交差させてしまうので、自分の視線を他の観客に悟られてしまうこともあり、一層目のやり場に困る。「どきまぎしている場合か!」と、頑張って目をダンサーにやると、肌の白さに陶酔しそうになる。めまいのなかで見る者と見られる者との関係が浮きぼりにされる。夢遊病者のように空間を徘徊する彼女たちは、生々しい人形のようで、けっして観客と視線を交わすことはない。近いのに徹底的に遠ざけられている気分になる。突発的に音楽が鳴ると、踊りがあちこちで始まるものの不意に収束してしまう。明確なピークが訪れない。ゆえにダンサーと観客との一体感は、その予感だけ与えられたまま先送りされる。リハーサルのような本番はとめどもなく、そのうちに〈ダンサーという生物〉の生態を観察している気になってくる。妖精のようなダンサーは当然人形ではない。生命があるが故に、いつかこの美しさは(加齢によって)別のなにかへと変容を余儀なくされるはず。妖精としてのダンサーはつねに刹那的だ。その刹那が痛い。ダンサーの体は明らかに長年の訓育(察するに多くは幼少期からバレエのレッスンを受けている)の賜物だ。しかし、その輝きを十分に活かすことなく(きっとどんなに活躍をしても、ダンサー本人はそう感じることだろう)、その時期をやり過ごしてしまう。ピークなしに観客を無視しながら進む時間のなかに、彼女たちのいらだちをぼくは感じた。次第に白い肌には汗がにじむ。彼女たちのいらだちにひりひりした。一番際立っていたのは、そのひりひりした感触だった。
遊覧型ぱふぉーまんす!!『がムだムどムどム』とれーらー!!
2011/11/27(日)(木村覚)
ほうほう堂『ほうほう堂@緑のアルテリオ』

会期:2011/011/24~2011/11/27
川崎アートセンター アルテリオ小劇場[神奈川県]
ほうほう堂(新鋪美佳+福留麻里)が美術作家・淺井裕介と映像作家・須藤崇規とつくった本作は、三者の力がバランスよく発揮された傑作だった。淺井のマスキングテープによる植物や小動物が建物のあちこちに描かれ、それは通路階段や舞台の床面にも展開されている。生命の息吹に取り囲まれたような気分で待っていると、ほうほう堂の小さな二人が登場。彼女たちの、ふわっと軽快で自意識を感じさせない振りは、ときにユニゾンになりときに別々になり、まるで二匹の小動物のようだ。しかし、本当に驚いたのはここから先。二人が舞台から姿を消す。すると舞台奥の巨大なスクリーンに舞台脇の通路が映され、そこに二人はあらわれた。リズミカルな音楽に合わせたり外したり、映像の二人が躍動することで、舞台に穴が穿たれ、それによって、あちこちうごめく「生命の力」とでもいいたくなるなにかが感じられた。その後の、ほうほう堂が踊る映像の上に淺井がライブで動物のかたちや線とか点とかを重ねていくシーンも美しく、ある種の絵本のようにダイナミックだったけれども、なにより圧巻だったのはラストシーン。ほうほう堂の二人が三階のカフェスペースに観客を誘い、しばしそこで観客のなかに分け入って踊ったかと思いきや、建物を飛び出し、外で踊り出す。すると、舗道にはアニメーションが映写され、アニメの樹木や鳥たちとほうほう堂が絡まり合った。このシーンは、それまでのイメージが劇場空間をはみ出し、日常に奔出したかのようで、それはそれは素晴らしく美しい光景だった。二人が街灯に手をかけるとまるで映画『雨に唄えば』のよう。その瞬間は確かに、日常空間を空想で染めるミュージカルの魔法に匹敵するなにかだった。劇場の外で踊りそれを映像に収めるという、近年ほうほう堂が行なってきた試みが、こんな空想的なイメージの重なり合いへと結実するなんて! 感動しました。
ほうほう堂@川崎市アートセンター
2011/11/25(金)(木村覚)
ジェローム・ベル『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』(The Show Must Go On)
会期:2011/011/12~2011/11/13
彩の国さいたま芸術劇場大ホール[埼玉県]
始めから終わりまでポップソングが流れ続け、曲のタイトルにちなんだ行為を曲毎にパフォーマーたちが一斉に行なうというきわめてミニマル(アート)な作品。真っ黒な舞台空間の真ん中に曲のタイトルを表示する白いバーがある様子は、フランク・ステラの「ブラック・ペインティング」を連想させる。この作家がかなりコンサヴァティヴなモダニストだと憶測せずにはいられなくなる。淡々と曲が変わり、その度に情景が変化する。そうしてつながる展開は、いわゆる物語ぬきに、場面をドラマティックにする。「Let's Dance」がかかればパフォーマーたちは踊り出し、「Into My Arms」がかかれば抱き合う。「Private Dancer」は音響スタッフひとりが舞台で踊ることをうながし、「Killing Me Softly」は全員が静かに倒れゆくシーンを牽引する。うまい。観客も仕掛けに乗せられ、ときおり手拍子が起こる。「曲のタイトルに動機づけられ行為が決められる」という自己言及的なルールは、道理があり無駄がない、故に説得力がある。ただし、それだけか、という気にもさせられる。「ミニマル・アート」によくある空虚感に似ているとでもいおうか。できたら、どこか狂気じみていてほしいと思う。とても優等生的で、いやらしい。日本で集めた多様な出自のパフォーマーたちはただルールを遂行する「駒」でしかなく、どう自分勝手に踊ってみてもそれは「〈踊る〉というルールの具現化」としか映らない。どんなルールも実行しないわけにはいかない存在故のかわいさをパフォーマーから感じることはあるにしても。
ザ・ショー・マスト・ゴー・オン
2011/11/13(日)(木村覚)
チョイ・カファイ「ノーション:ダンス・フィクション」
会期:2011/11/07~2011/11/08
シアターグリーン[東京都]
筋肉組織に電気信号を与えると伸縮することは以前から知られていたが、その筋肉の動きをデータ化し、ニジンスキーやピナ・バウシュら過去のダンス映像に合わせてダンサーの動きをコントロールしようという試み。実際、腕や脚にコードをつけたダンサーは、横に映される巨匠のダンス映像と同じ動きをしてみせる。ダンス公演というより、実験の成果を発表する生体科学のデモンストレーションに近い。だが、はたしてどこまでが電気刺激による動きなのか、疑問が残る。途中でコンピュータがトラブり、同じ動きを繰り返したところもわざとらしい。笑いをとるためのヤラセか? ひょっとしたら初めから電気など流れておらず、まったくのフィクションかもしれない(タイトルも「ダンス・フィクション」だし)。おそらく電気が流れているのは事実だろう。だが、コードをつなげば素人でも土方巽と同じ動きができるわけではなく、何度も練習したダンサーだからこそ映像と同じ動きができたのだ。ならば電気を流さずとも練習すれば同じ動きができるはずだし、そもそも過去のダンサーと同じ動きをしても単なる模倣にすぎないだろう。これはそれを先端科学技術を駆使してあえてやってしまうバカバカしさに最大の意義があるだろうし、その愚行自体がダンスなのだ。
2011/11/07(月)(村田真)
チョイ・カファイ『ノーション:ダンス・フィクション』
会期:2011/011/07~2011/11/08
シアターグリーン BOX in BOX THEATER[東京都]
シンガポール出身のマルチ・クリエイター、チョイ・カファイによる、工学的デモンストレーションにしてパフォーマンス作品。筋肉の動きを、電極を介してデータ化し、データをダンサーに「インプラント」するというチョイ・カファイのアイディアは、プレゼンテーションを聞いているだけでもわくわくさせると同時に「眉唾」な気持ちにもさせられる。とりわけ、デモンストレーターとして参加している北欧のダンサーが電極を体中に付けて、その刺激によって20世紀の代表的なダンスを踊るという場面に「そんなことができたらすごいことだ」と思わされてしまうのだけれど、デモンストレーターの踊りが、電極によって踊らされているのか、自分で踊ってしまっているのかが判然とせず(いや、明らかに後者に見えてしまい)、信用がもてない(タイトルに「フィクション」とあるのだから、弁解ずみと見るべきか)。それでも、パフォーマンスとして面白く見てしまったのは、そもそも「科学」と「奇術」は近接していたはずだし、19世紀から20世紀にかけて娯楽の殿堂ではしばしば、ダンサーを介した科学的奇術が行なわれていたわけで、そんないにしえのショーを思い起こさせられたからだ。いや、こうしたシステムが実現する未来はそう遠くないのかもしれない。「そのときダンスは一体どうなるのだろう」などと空想を喚起する力こそ本作の魅力のはずで、科学は奇術だったと嘆息させられたというよりは、奇術が科学になる可能性を垣間見せられたパフォーマンスだった。
ノーション:ダンス・フィクション
2011/11/07(月)(木村覚)


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