artscapeレビュー

パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー

プレビュー:金魚(鈴木ユキオ)『揮発性身体論 「EVANESCERE」/「密かな儀式の目撃者」』

会期:2012/02/03~2012/02/05

シアタートラム[東京都]

今年は、日本の舞台芸術が「震災以後」のマインドに包まれた一年だった。正直、そのマインドに巻き込まれ過ぎの印象を受けた上演も多かった。そのなかでぼくが励まされたのは、舞踏系の振付家・ダンサーたちの揺るがない姿勢だった。揺るがないのは当然だ。死や病や「立てない」という状況からダンスを生み出すのが舞踏なのだから。浮かれた日常の底に普段は隠されている人間の闇から、舞踏の「踊り」は始まる。だから震災があろうが、舞踏の作家たちは淡々とマイペースを貫けたに違いない。例えば、大駱駝艦がまだ電車の暖房も街中の明かりも消されていた震災直後に『灰の人』というタイトルの上演を決行したのは、休演する作品が相次ぐなかできわだっていた。大橋可也&ダンサーズの『OUTFLOWS』は希望よりも絶望に目を向けていて、そのことがむしろよかった。子どもたちをダンサーにして鈴木ユキオが『JUST KIDS』という作品をつくったことも強く印象に残っている。舞踏系以外では、矢内原美邦ほうほう堂も自分たちの力量を発揮していて、心強かった。ということで、個人的に来年はダンスに注目していきたいと思っている。なかでも金魚(鈴木ユキオ)の新作『揮発性身体論 「EVANESCERE」/「密かな儀式の目撃者」』(シアタートラム)はそのタイトルが示すように、彼の新しいダンス論がパフォーマンスのなかで呈示されるに違いない。「揮発性」とは? 舞踏の未知の局面が示されることになるのかどうか、おおいに期待したいところだ。

【予告】鈴木ユキオ新作「揮発性身体論」 Yukio Suzuki "Volatile body"

2011/12/31(土)(木村覚)

快快『ゆく年くる年 "SHIBA⇔トン" 歳末大感謝祭』

会期:2011/12/27~2011/12/28

M EVENT SPACE & BAR[東京都]

今年は、大阪での『SHIBAHAMA』以外は海外での公演に明け暮れていた快快。久しぶりの東京でのイベントは『SHIBAHAMA』の基本フォーマットを利用しつつ、立川志ら乃、遠藤一郎、core of bells、捩子ぴじん、安野太郎らのゲスト・パフォーマンスを織り交ぜる、いかにも彼ららしい忘年会。いや、彼ららしさは別の意味でも発揮されていた。それは端的に言えば彼らのミュージカル(レビュー)的傾向だ。三時間を超えるパーティはさながらバラエティ・ショー。それだけでも多様な要素をごちゃまぜに上演するレビューに似ているのだが、より重要なのは、最後の演目として『SHIBAHAMA』リミックス版で見せた、大阪と海外での公演の報告会という体裁をとりながら、いまの日本と世界の状況を彼らなりに振り返り、批評していく演出だ。「地震が来た!」「津波が来るぞ!」と叫び、テレビに映った会見の様子を演じるなど東日本大震災を振り返るイメージをあれこれとり上げたり、今年亡くなった著名人を舞台に召還したりと、震災以降のしょげかえった日本人の心には「どぎつい」と思わせるほどストレートに、今年の出来事をリプレイしてみせた。ミュージカルの一形式であるレビューには、もともと演し物で今年の出来事を振り返るという意味があった。そう思えば、立川流の志ら乃をはじめ、遠藤やcore of bellsのパフォーマンスもレビューの一演し物とみなしうる。彼らが意識しているか否かはともかく、イベント全体が自分たちのいまを歌って踊って笑いながら振り返るレビューに見えた(こうしたバラエティはぼくが小学生の頃のテレビではよく見たものだ。なぜいまないのだろう)。さらに冒頭で、メンバー一人ひとりが落語「芝浜」の物語世界を自分なりに研究する「ワークショップ」の報告会をし(ある者はドラッグ体験を、ある者は風俗体験を、ある者は海外の浮浪者とのやりとりを報告した)、その逸話が後半の上演に散りばめられるという発想も興味深かった。彼らはしばしば、芝居のなかで役から離れた役者本人のパーソナリティに光を当てる。さりげなく置かれた「ワークショップ」の報告会は、役者本人のパーソナリティを強化し、そうすることで役者を演劇のキャラクターにする(やや強く解釈すれば、役者を役にする)機能を担っていた。いまここにいるすべての人を巻き込みながら(言及しなかったが、観客も例外ではない)上演が進んでいく彼らの方法は、演劇らしくない。演劇じゃないのであれば、そう、これは最新型のミュージカルだ。ああ、でもこの「快快流ミュージカル」には、まだまだ未知の潜在的な力がもっとあるはず。それが炸裂する日はきっと、近々やって来る気がする。

faifai『ゆく年くる年 "SHIBA⇔トン" 歳末大感謝祭』予告編MOVIE

2011/12/27(火)(木村覚)

ネリKitchen presents『ごちそう演奏会~冬の星~』

会期:2011/12/23

common cafe[大阪府]

電子音楽やコンテンポラリーダンスとのセッションなども行なっている琴奏者の今西玲子と、テルミン奏者の児嶋佐織が毎年この時期に行なっているライブ。この二人の演奏会には以前、別の機会にも出かけたことがあるのだが、今回の会場は大阪で、現代アートや建築を学んだ後、マクロビオティックの料理家として活動しているネリkitchen(ネリさん)のケーキとお茶のセットもついていた。冷たい冬の空気やその透明感をたたえた夜空を連想させる演奏の数々もさることながら、蓄光塗料を用いた会場のしつらいや星のモチーフのお菓子など細やかな演出にも心が躍った。魅力的なタイトル通りだ。それにしても二人のライブは前回の会場でもそうだったのだが、視覚や味覚など、聴覚だけでなくほかの要素からも音楽の楽しみ方を示してくれる。その音がまた美しいのが素晴らしい。


会場風景

2011/12/23(金)(酒井千穂)

壺中天『壺中の天地』

会期:2011/12/16~2011/12/25

大駱駝艦・壺中天[東京都]

我妻恵美子が壺中天公演の「名シーン」を「アレンジ&リミックス」したという今作は、壺中天公演をミュージカル化、より正確にはレビュー化する試みに見えた。その試みは壺中天の魅力を増幅させることに成功していて、痛快だった。冒頭と終わりに登場するセーラー服姿の我妻によって、その間のもろもろの演目が「少女の夢の中の出来事」として枠づけられている以外は、さしたる物語も起承転結もない。その分、一貫した魔界性ゆえに各シーンはゆるやかにつながっているものの、それぞれ自由にダンサーたちの力量を発揮する場になっていた。そうした構成法を「レビュー化」と呼んでみたわけだけれど、全体でトータルなイメージを呈示しようとする、公演の「舞台芸術化」にはない可能性を感じた。なによりもそれぞれがリーダーとなる公演を行なっている田村一行、向雲太郎、村松卓矢のソロ・パフォーマンスが一度に上演されたのは画期的で、豪華だった。それに、以前から壺中天の公演は、男子ダンサーの公演と女子ダンサーの公演に二分されることが多く、それは今日のアイドルグループのあり方と相似的であり興味深いものの、両者の力をぶつけ合う機会が少ないのは残念でもあったのだが、今回は男子ダンサーが踊ると次は女子ダンサーの番という「紅白歌合戦状態」になっていて、ファンとしての積年の夢が叶った気がした。こういう形式をとることで自分たちの武器を再確認し、壺中天が壺中天を解釈し続けると本当にレビュー形式のもつポテンシャルを活かすことになるだろう。その方向の展開に期待したい。最後に、村松のパフォーマンスにはあらためて脱帽した。10年前のアイディアらしいのだが、村松は口に開口具を着けて、足の裏と手のひらにお椀を固定し、踊った。踊れば見事に踊れる男が、踊れないが不器用には動かせてしまう不具な体をくねらせる。滑稽さを涙流して笑っているうちに、観客の体に不具の体の身体性がいつの間にかしみこむ。NHKEテレの番組「バリバラ」に匹敵する、人間の身体への思考の転換がこの瞬間、観客に起こったとすれば、それは間違いなく村松のダンスの力ゆえだろう。

2011/12/22(木)(木村覚)

プレビュー:岡田利規『三月の5日間』、ままごと『あゆみ』

今月は、演劇二本。一本目は、2005年に岸田國士戯曲賞を受賞した岡田利規の最初の代表作『三月の5日間』(2011年12月9日~11日@熊本・早川倉庫、2011年12月16日~23日@横浜・KAAT神奈川芸術劇場)を挙げないわけにはいかないでしょう。00年代以降の日本演劇のオリジナルな展開はここから始まったといっても過言ではありません。デモのシーンはいまのぼくたちにどんな印象を抱かせるのだろうとか、いまよりもずっと元気のあった「若者の街」渋谷をいまどんな気分で見ることになるのだろうとか、いろいろな期待で胸膨らませて行きたいものです。とくに、未見の若い演劇ファンはお見逃しなく。
 もう一本は、こちらも、昨年岸田戯曲賞を受賞者したままごと(柴幸男)による『あゆみ』の再演です(2011年12月1日~4日@東京・森下スタジオ、2011年12月7日~9日@横浜赤レンガ倉庫)。日常の一コマを切りとって何度も繰り返す手法は、いまやいくつかの劇団で応用されているものですが、今作では1人の女性の暮らしを複数の役者たちが演じるアイディアに注目。とても知的な構成法をとりながら、理屈っぽさがなく、一瞬のうちに演劇空間に観客を引き込む、そんな柴の手腕が今作でも堪能できることでしょう。

チェルフィッチュ「三月の5日間」、トレイラー


ままごと「あゆみ」2010、ダイジェスト

2011/11/30(水)(木村覚)