artscapeレビュー

パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー

magical, TV

会期:2009/01/13

superdeluxe[東京]

精神科医でアートコレクターの岡田聡が運営するギャラリーmagical, ARTROOM。その3周年記念イベントが六本木で催された。OFFSEASON featuring 大谷能生の演奏や遠藤一郎の楽器を用いたパフォーマンスなどが上演された。タイトル通り、このイベントにはweb上のテレビ番組・DAX LIVE!!が入り込んでいて、ライヴは同時にテレビ収録のスタジオともなっていた。また最初のコーナーでは「一人ごっつ」やBSの番組「TOKYOブレイクする~!」の制作者・倉本美津留が岡田とのトークに出演するなど、テレビとアートの連携はいかにして可能かといったテーマが貫かれていた。
このテーマ自体は興味深い。テレビ的形態に浸りきったぼくたちの観賞態度を見事クラブイベント化した一昨年の「ぷりぷりTV」を思い出させる。けれども、会場にいて、こりゃマズイぞと思った。この場でアートはテレビに浸食され、テレビ的フレームにパフォーマンスの躍動は押し込められていた。上演中にプレイヤーと観客の前に差し出される「あと5分」「終了」のカンペ。上演後にもプレイヤーは、民放的な軽薄さを帯びたトークにつきあわされ、時間つなぎをやらされる(せっかくweb上にあるテレビ番組なのにどうして民放の真似をするのだろう。webの番組らしいトークのあり方を探すべきでは)。
さすがにちょっとこれはと思ったのは、(音がバンド名)のメンバー小林亮平のパフォーマンスが予定の10分より早く終了させられていた(気がした)こと。シールドを差し込んだりスイッチを入れたり演奏の準備をしつつその間ひたすら自分の現況を叫ぶ小林の演奏(?)は、あえて言えばこの日一番「一人ごっつ」的な時間だったのに。「カントリーロード」を絶唱した遠藤が最後に時間オーバーを詫びたその言葉は、アートではなくテレビへ向けられていてなんだか切なくて、けれどもそうした一種の暴力に対してさえ閉じない優しさは、遠藤流のアートをかたどってもいた。
magical, TV:http://www.magical-artroom.com/events/090113/magicalTV.shtml

2009/01/13(火)(木村覚)

黒沢美香&ダンサーズ「家内工場」

会期:2009/01/12

スタジオクロちゃん[東京]

黒沢美香は、モダンダンスの世界でまたコンテンポラリーダンスの世界で最重要ダンサー、振付家であったし、いまでもそう。本公演は、彼女と稽古や公演をともにしているダンサー、振付家が集まっての小作品集。会場は稽古場。恩田香、長野れいこ、木檜朱実、岸本あずさの振り付け、その他、朗読やライヴ演奏があった。全体として誠実さは感じる。けれども、正直、物足りない気持ちにもなる。そのなか、黒沢は長野れいこの振り付けで踊った。頭にカセットテープを乗せてゆっくりと歩いて登場。舞台奥からラジカセを取り出して頭にあったテープをセットすると、流れる静かな曲をバックに、柔らかく円を描いてステップを踏んだ。窓から差し込む光だけが照らす、伸びた足先のやりとりは、なんともいえず美しく、ジャンルを超えた「ダンスそのもの」がそこにあった。

2009/01/12(月)(木村覚)

大橋可也&ダンサーズ『帝国、エアリアル』

会期:2008/12/28

新国立劇場 小劇場[東京都]

トータル70分。装飾ゼロ。スタッフの移動さえ隠さないスケルトン舞台。照明もフラット。あるのは床に散乱したペットボトルなどのゴミくずのみと楽器セット。ひとりの女が現われ不意に絶叫。それを合図に10人超のパフォーマーが散らばる。各人の動作は個人的動機の内に自閉しているようで、それぞれ他人の些細な仕草に敏感に小さく反応してもいる。冒頭、姿を見せた大橋は、帝国とは「空気」ではないかと観客に語りかけた。「空気」のごとき何かは風となって、木の葉のようなひとの間をすり抜け、その軌跡はときに躍動する渦と化した。バレエなどと外観は異なるとしても、その場を支配する強烈な統率性は振り付け作品以外の何ものでもない。こうした前半20分の繊細な時間は、伊東篤宏とHIKOの演奏が加わると変容した。轟音と閃光はそれ自体魅力的であるとしても、30分続けば見る側の身体を麻痺させ無能化させる。さながら刺身の舟盛りに激辛カレーをかけて食するごとく。最後に無音の20分、相変わらずの群れは次第に数を減らす。ゴミの紙飛行機が飛び、最後の女2人が客席を通り消えると、代わりに大橋が終了を告げに現われた。 今作で、大橋は3種のチケットを設定し、0円というチケットも用意した。貧困問題に応えるかの仕掛けが、実際、普段劇場に足を運ばない観客を少なからず呼び込んでいた。「生きづらさを感じるあなたたちへ。身体、社会、日本をえぐる。」とのメッセージに、ひとが反応した成果だろう。『ロスジェネ』の浅尾大輔、大澤信亮を招いたイベント「帝国ナイト」も功を奏したようだ。ただし「生きづらさ」の段階から次へ向かう力を観客に与えられたかは、即断できない。アートよりも与えるべきは食事じゃないかとの意見さえ出てきかねない時代の空気もある(新国立劇場で炊き出しをするべきだった、とか)。こうした反響も含めて、社会とアートの交点を考える地平が、この公演から垣間見えてきたのは事実だ。

2008/12/28(日)(木村覚)

HARAJUKU PERFORMANCE PLUS SPECIAL

会期:12/20~12/24

ラフォーレミュージアム原宿[東京都]

ラフォーレ原宿が主催するダンス、お笑い、アート、音楽を一挙に見せるパフォーマンス公演の3日目。山川冬樹×飴屋法水は、飴屋が腕から採血した血液を額縁に収めた白いキャンバスに滴らせながらドラムを叩き、山川がみずからの心拍音にあわせて明滅するランプの下で歌い上げたが、うしろのほうで嶋田久作がグラスの中にコインを落とす音をひたすら繰り返していた。このほかにも、無言のままただ肉弾戦のバトルロワイヤルを繰り広げたcontact Gonzoや、勢いあまってマイクを食べちゃった室伏鴻が光っていた。

2008/12/23(火)(福住廉)

HARAJUKU PERFORMANCE+SPECIAL:3日目「ボイス&フィジカル」

会期:2008/12/22

ラフォーレ原宿[東京都]

3日目、登場した多くはコンテンポラリーダンスの分野にカテゴライズされるグループ。珍しいキノコ舞踊団は、ポップで民族色のある音楽をバックに、バレエでもモダンでもない独特のかわいい線を舞台に描く。美しさも可憐さも子どもっぽさも否定しないダンスは、意外にも、この場で本領を発揮していた。KATHYは松田聖子「夏の扉」が流れるなか、いつものフランス人形みたいな衣装で、しかし、手にはナイフ。媚びと攻撃、愛と憎悪、夢と恐怖の混沌は、歌サビの辺り、白い玉を1,000個ほどひたすら観客席に投げつけるところでピークに。心臓の鼓動でシャンデリアを灯す山川冬樹と額縁に貼った紙に血液を走らせドラムを叩く飴屋法水は、身体を媒体にファンタジーと現実のあいだを往復する強烈なコラボレーションを見せた。「生と死」は、子どもを登場させることで「生命の連鎖」というテーマへとスライドした。ファンタジックな後味が山川×飴屋を印象づけたとすれば、Contact Gonzoはあくまでフィジカルな次元にとどまる。殴る蹴る乗っかるなど暴力性はあいかわらずなのだが、混沌の最中きわめて美しい形状が不意に出現しハッとさせられた。そんな一瞬にこそ彼らの賭があるに違いない。その他、伊東篤宏×東野祥子、室伏鴻も出演した。
作品のクオリティ云々というよりパフォーマーの力量が観客を魅了した3日間は、アート・イベントというよりもひとが瞬間集い盛り上がるパーティあるいは祭りというべきものだった。アートの可能性を祭りの可能性としてオーガナイズするキュレイター小沢康夫に今後も注目していきたい。

画像:山川冬樹×飴屋法水のライブ

2008/12/23(火)(木村覚)