artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
花代「hanayoⅢ」
会期:2017/04/08~2017/05/13
タカ・イシイ・ギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]
昨年、ベルリンで生まれた娘の点子をテーマに沢渡朔と共作した写真集(『点子』Case Publishing)を刊行し、写真展(ギャラリー小柳)を開催したことで、花代の写真家、アーティストとしての活動にはひとつの区切りがついたようだ。今回のタカ・イシイ・ギャラリー フォトグラフィー/フィルムでの3回目の個展は、原点に回帰するとともに、新たな方向に踏み出していこうという強い意欲を感じさせるものになった。
長年愛用しているハーフサイズのオリンパスペンで撮影された写真群は、何が写っているかということにはほとんど無頓着に、色彩とテクスチャーの戯れにのみ神経を集中しているように見える。その眩惑的なイメージは、まさに何かが生まれ落ちようとしている未分化のカオスそのものだ。さらに今回は静止画像だけでなく、8ミリフィルムによる映像作品も出品している。生まれたばかりの赤ん坊、ウーパールーパー、唇や指、水面の反射などを写したループ状のフィルムには、引っ掻き傷やドローイングが加えられ、映写機がキシキシ、カタカタとノイズを発しながら壁に映像を投影していた。写真、映像を一体化したインスタレーションは、まだとりとめのないつぶやきの反復の段階だが、むろん目指すべきなのは成長や完成ではなく、この子宮内の胎児の段階に永遠に留まり続けることなのではないだろうか。
ギャラリーに置かれていたプレス用のペーパーには、展覧会の協力者として畠山直哉と手塚眞の名前が挙がっていた。かなり異質なこの2人を取り込んでしまうところに「花代ワールド」の広がり具合を見ることができそうだ。
2017/04/13(木)(飯沢耕太郎)
露口啓二『自然史』
発行所:赤々舎
発行日:2017/03/01
これまでは、自身が住んでいる北海道の風景を中心に撮影してきた露口啓二だが、今回赤々舎から刊行された写真集『自然史』では、その撮影範囲が大きく広がってきている。北海道の沙流川と漁川の流域、空知地方の炭坑跡だけではなく、東日本大震災の被災地(岩手県、宮城県、福島県)、福島原子力発電所事故による帰還困難区域、同区域の境界線の周辺、その外側の居住制限区域と避難指示解除準備区域、さらに露口の生まれ故郷である徳島に近い吉野川流域にまで視線を伸ばしているのだ。
このシリーズもまた、先に紹介した大塚勉と同様に、東日本大震災を契機として、変質していく風景のあり方を、写真を通じて探究・定着しようとする取り組みといえる。だが、露口のアプローチは、あくまでも個人的、偶発的な写真撮影の行為を基点とする大塚と比較すると、『自然史』というタイトルにふさわしく、より客観的、包括的であり、厳密な方法論に裏打ちされたものだ。注目すべきなのは、緻密に組み上げられたカラー写真の画面のそこここで繰り広げられている、自然と人工物の争闘のすがたである。漁川の「本流シチラッセ」の河岸に散らばっている食器類や酒瓶、夕張市近辺の炭鉱地帯の廃屋、福島の帰還困難区域に凶暴なほどの勢いで生い茂っていく植物群など、露口の写真のあちこちに、複雑に絡み合う自然と人間の営みの断面図が、上書きに上書きを重ねるように錯綜しながら露呈している。
ただ、写真に地名、あるいは「N37°35' E140°45' 12"_2016」というふうに、緯度/経度をキャプションとしてつけるだけでは、そこに写しとられた重層的な時空間の構造を明確に伝えるのはむずかしい。露口は旧作の「地名」(1999~2004、2015に再開)のキャプションに、アイヌ語の音に即した和語の地名と、その元になったアイヌ語の地名とその原義を併記したことがあった。この「自然史」の連作においても、そのような、より広がりを備えたテキスト操作が必要になってくるのではないだろうか。
2017/04/12(水)(飯沢耕太郎)
プレビュー:井上嘉和のダンボールお面 写真展
会期:2017/05/02~2017/05/14
ギャラリー・ソラリス[大阪府]
劇団維新派のオフィシャルカメラマンであり、国内外のミュージシャン、アーティストの撮影でも知られる写真家、井上嘉和。彼は2010年の節分にダンボールで鬼の仮面をつくったが、子供が思いのほかビビったことに味をしめ、その後も毎年ダンボールで仮面をつくるようになった。そして自作したお面の数々をSNSにアップしたところ、テレビや新聞からの取材や、ワークショップの依頼が舞い込むように。本展では、彼がつくったお面と、ワークショップの参加者がつくったお面の写真を展覧。会場内にお面を被れるコーナーを設けるほか、5月5日のこどもの日にはダンボール兜のワークショップも開催する。写真ファンはもちろん、写真を用いた親子コミュニケーションに興味がある人も注目してほしい。
2017/04/10(月)(小吹隆文)
総合開館20周年記念 夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 総集編
会期:2017/03/07~2017/05/07
東京都写真美術館[東京都]
これまで何度かリサーチをもとに開催した幕末・明治期の展示の総集編だけに重みがある内容だった。私的から公的写真へ。前も出品されていたが、明治三陸大津波による廃墟や屍体の写真集が生々しい。傾いた家々には斜めにつっかえ棒が立て掛けられていた。明治三陸大津波については、後に描かれた悲惨な絵が有名だが、被災地を生々しく撮影している過去の記録写真もわれわれの忘却を教える。
2017/04/09(日)(五十嵐太郎)
総合開館20周年記念 山崎博 計画と偶然
会期:2017/03/07~2017/05/10
東京都写真美術館[東京都]
活動の初期は演劇やパフォーマンスを記録していたが、1970年代から何を題材にするかではなく、どう撮るかに関心がシフトし、理知的な方法論を展開する。特に太陽の光の動きを長時間露光で撮るヘリオグラフィが興味深い。ほかにも、よく見ると普通ではない桜の写真、杉本博司と違うタイプの海の水平線などのシリーズから、方法論のアーティストであることがよくわかる。
2017/04/09(日)(五十嵐太郎)